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「鎮めるって。どうやってッ⁉︎」
「対空手段はあるのかよ、ツーっ!」
天狗が飛ばす斬撃から展望台を守るため、防御結界の役割を果たすお札を欄干の外側にぺたぺたと立て続けに貼りつけ、御眠とソンが叫ぶ。
地に降り、草を踏み締める似非チャイナ娘。
対峙する天狗は、彼女のところからすれば遥か上空を自在に飛んでいる。
額に汗を浮かべた御眠、ソン、柏矢の三人は、じっとツーちゃんの返事を待った。
しばし、逡巡。
「…………どうするネッ⁉︎」
無策だった。
飛行する手段がないのだから、無理もない。
解決策を見つけられないなか、天狗が動く。
ブンッ‼︎ と。
赤き妖怪が手に持った猛禽類の羽根で拵えた扇子を振るうと、突風が巻き起こった。
殴りつけるような風に、御眠にソン、柏矢の身体が後方へ飛ぶ。
宙で縦に転回したソンが柱に顔面を激突させ、階段を囲う柵に御眠が直撃する一方。
柏矢を受け止めるものはなかった。
見上げるはずの展望台が、まるで小学生のときに身長を争ったクラスメイトのような立ち位置で、柏矢を見ていた。
一瞬の浮遊感。
続いたのは、なにも支えるものがない自由落下。
「嘘だろぉッ⁉︎」
一〇階建てのビルの屋上から落とされたボールでさえ、三秒もしないうちに落下する。
高さ一五.三メートル長峰山展望台から落ちた柏矢は、あまりに急速に移り変わる景色に喉をカラカラにして、声も出せず、息を詰まらせていた。
落ちる。
終わった。
そう思った。
しかし、身構えていた衝撃は来ず、それどころか周りの景色は一変。
身体は再び空へと引き上げられていた。
「助かっ────」
安堵の溜息とともに発しようとした言葉を柏矢が詰まらせたのは、言い切ろうとしていたセリフがまるで不適当であることに気づいたからだ。
御眠でもソンでもツーちゃんでもない。
カイザーやデンパ先生が駆けつけてくれたことを願ったが、それも叶わない。
「お前、最初から俺を連れ去るために風を起こして……ッ‼︎」
闇雲に羽根の扇子を仰いだわけではなかったのだ。
この天狗は、たしかな目的意識を持って、柏矢をどこかへ連れて行こうとしている。
展望台も、
みんなも、
長峰山さえも、置き去りにして。
天狗は柏矢を足首のところで持って、西へ西へと、高速で飛翔した。
下方へと急激な方向転換をし、雲海をぶち抜く。
脱げやすいローファーで来たことを呪ったって今更どうにもならないから、柏矢はせめて天狗が指を滑らせ自分を落っことさないことだけを祈りながら、じっと静かに事の成り行きを見守ることにした。
こんな切羽詰まった、生きるか死ぬかの瀬戸際。
だというのに。
上空からの眺望は、安曇野の街と信州の大自然のすべてを包括しており。
仮に死んだとしても、最期に見る景色がこれなら悪くもないかもしれないと、そんなふうに思えてしまうほど、圧巻であった。
遠くの方に連なる、北アルプスの山々。
それらの峰が描き出す美しい稜線の、その山並みの手前には、安曇野の田園風景が広がっており、豊かな緑が風にそよいでまるで作物の絨毯だった。
肥沃な大地をスプーンでくり抜くように、並走する国道十九号と犀川を、長野自動車道が横切っていた。
風切る天狗が描く軌跡は、鋭角になりつつあった。
見覚えのある景色が、徐々に近づいてくる。
「あれは…………」
巨大な黒い『影』が、視線の先で怪しげに蠢いていた。
「あそこに連れて行こうとしているのか……?」
言葉が伝わるかなど頭になく、独り言のように呟いた。
天狗に連れられた柏矢は、大王わさび農場の空域に突入した。




