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氷結の夜明けの果て (R16)  作者: Wolfy-UG6
第1巻:新たな人生
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第1章:血に刻まれた呼び声

カーテンが窓から吹き込む風にゆっくりと揺れていた。

冬の冷たい空気が、小さなアパートの中へと流れ込んでくる。


淡い明かりに照らされたリビングは、ごくありふれた部屋だった。

ただ、何もかもが整いすぎているほどに整頓されていた。


壁際の棚には、さまざまな本が隙間なく並んでいる。

料理本から漫画まで、きっちりと揃えられていた。

反対側には小さな対面式のキッチンがあり、金属製の調理器具が風に揺らされ、小さな音を立てていた。


キッチンの脇を伸びる廊下は薄暗く、その先には半開きになった扉から明かりが漏れている。

そこからは湯気が立ち上り、水の流れる音だけが重苦しい静寂を破っていた。


狭い浴室では、一人の男がシャワーを浴びていた。

顔をシャワーヘッドへ向け、水を全身に浴びながら、ただ立ち尽くしている。


「ほんとになぁ……。

一日くらい平穏に過ごさせてくれてもいいだろ。

あいつ、どうしても余計なことをしないと気が済まないんだよ……。」


疲れ切った声で呟く。


彼は蛇口のハンドルを握り、さらにお湯のほうへ回した。

目を閉じると、心地よい温もりに身体が小さく震える。


「俺、何を間違えたんだろうな……。

欲張りすぎたのかもしれない。

でも……これが、本当に俺の人生なのか?

どうして、あんな選択を重ねてきたんだ……。

こんなところまで来るために……。 」


自問するように呟いた。


彼は口を開き、水をそのまま流し込む。

口いっぱいに溜め込み、やがて溢れ出した。


「グルルルルルル……」


数秒間うがいを続けると、床へ吐き出し、小さく笑った。


「たまには子供の頃に戻りたくなるよな。

何も考えず、何にでも文句を言ってさ。

何も知らないまま、ただ毎日を楽しんでた頃に。」


そう言って息をつく。


再び蛇口へ手を伸ばし、水を止める。

水滴だけが静かに落ち続け、浴室は再び静寂に包まれた。


数秒後、彼は軽く頭を振る。


「よし、ヴェイル。

しっかりしろ。

ここまで諦めずにやってきたんだ。

今さら折れるな。

やれるってことを、あいつらに見せてやれ。」


自分へ言い聞かせるように、力強く言った。


ボディタオルを手に取り、ボディソープをたっぷりとつける。

勢いよく身体を洗い始めるその動きには、前へ進もうとする意志が込められていた。


再びシャワーをひねると、水が肌へ勢いよく降り注ぐ。

泡は床へ流れ落ち、彼は身体を回して丁寧に洗い流していく。


洗い終えると再び水を止め、シャワーブースのガラス扉を開けた。


タオルへ手を伸ばした、その瞬間――


浴室の扉が勢いよく開いた。


突風が部屋中を吹き抜け、ヴェイルの身体を寒さで震わせる。

タオルはハンガーから滑り落ち、そのまま床へ落ちた。


「はぁ……マジかよ。

ほんと安物だな、このタオル掛け。

金属なんだから滑るくらい考えとけっての。」


苛立ったようにため息を漏らす。


彼は片足をバスマットへ乗せ、その足へ体重を預けながらもう片方の足を出す。

同時に身をかがめ、床へ落ちたタオルへ手を伸ばした。


その瞬間――


足元が滑った。


バスマットが勢いよく滑り、ヴェイルの身体は一気にバランスを崩す。


「くそっ、待て待て待て――っ!!」


叫び声が響く。


咄嗟に腕を振り、掴めるものを探す。

だが、その手が掴んだのは空気だけだった。


次の瞬間――


ゴッ――。


鈍い衝撃音が浴室に響く。


彼の頭は洗面台の角へ激しく叩きつけられた。


焼けつくような激痛が全身を駆け巡る。


そのまま重く鈍い音を立てて床へ倒れ込んだ。


冷たく濡れた床が肌を震わせる。


それなのに、頭からは奇妙な熱が広がっていく。


「な……なんだ……。

痛すぎる……。」


か細い声が漏れる。


激しい痛みに視界は霞み、呼吸も乱れていく。


手や腕を動かそうと力を込める。


しかし――


身体はまったく動かなかった。


瞼は勝手に閉じようとする。


冷たい床へ横たわる身体には、不思議な熱だけがゆっくりと染み込んでいった。


彼は必死に目を開く。


ぼやけた視界の中、白いタイルの上へ赤い染みがゆっくりと広がっていくのが見えた。


……眠い。


少し眠れば、それでいい。


そう思った。


声にすることさえできなかった。


再び目を閉じる。


頭の熱は少しずつ失われていき、代わりに全身を刺すような冷たさが広がっていく。


寒い……。


どうしてだ……。


帰りたい。


お願いだから……家に帰らせてくれ……。


心臓が激しく脈打ち、呼吸は途切れ途切れになっていく。


浴室には、太鼓を打ち鳴らすような鼓動だけが響いていた。


だが、どれほど足掻いても、すべては無駄だった。


やがて心臓は――止まった。


わずかに数度だけ脈が打つ。


そして、それも完全に途絶えた。


血に染まった冷たい床の上には、一つの亡骸だけが静かに横たわっていた。


すべてが沈黙に包まれる。


そして彼の魂は、その身体を離れ――


虚無の闇の中を彷徨っていった。

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