第27話 ランプキンを探して
坂を登り、草木をかきわけ、興奮したモンスターを追い払う。その繰り返しでルチカ一行は着々と屋敷に近付いていた。
ルチカと父は治癒魔法しか使えないため戦闘には参加せず、モルバダイト一人でモンスターを倒している。
最初こそ一人で任せて大丈夫だろうかとルチカは不安だったが、複数のモンスターを瞬時に沈めたのを見てからなんとも思わなくなった。
(モルバダイトさん、かっこいい……)
流石長年魔法協会にいる会長である。次々に魔法を作って放つ姿は凛々しく、ルチカは尊敬の眼差しで見つめる。
「……俺もすげぇからな」
「し、知ってるよ?」
何故か対抗心を見せる父に苦笑しつつ、ルチカは襲ってくるモンスターを見ては首を傾げた。
「どうしてモンスターさんは呪術の魔力に触れても身体が動いているのかしら?」
「呪術……というか禁術自体、人間にしか効かねえからな」
「そうなの?」
「元々禁術は、人間へ何らかの被害を与えるためだけに作られたものだ。禁術が生まれて五百年以上経つが、幸か不幸か他の生き物にはほとんど影響しない。せいぜい興奮するくらいだな」
父の説明を聞いて、ルチカは肩に乗っているキャミーシャを見る。
(あの時、もしキャミーシャがいなかったら、もっと酷い状態になっていたのかも)
そう考えるとキャミーシャには足を向けて寝られないな、とルチカは思った。
「……そろそろかのう」
モルバダイトが言い、視線を前へやる。門扉が破壊された先には、さっきに増して濃い靄が漂う屋敷があった。
「なんだかすごく懐かしいわ」
「にゃにゃあ……」
キャミーシャはしっぽを下げて不安げに喉を鳴らす。
ルチカはキャミーシャの顎を撫でてから、父の手を引っ張ってモルバダイトの隣に立つ。
「ここまでどれくらい経ったかしら」
「十五分ってとこだな」
父は腕時計を見ながら小さく呟く。
ルチカは思案げに顎に手を当てると、モルバダイトを見る。
「A隊の方々はどこに?」
「ちょっと待ちなされ」
モルバダイトは空へ顔を上げて、球状の水を放つ。
すると、一人の魔女が降りてきて軽く頭を下げた。
「お呼びでしょうか、会長」
「A班はどこにおるんじゃ?」
「先程屋敷の中へ入っていきました」
「ふぅむ……」
モルバダイトは顎髭を撫でながらルチカを見据える。
「わしらはどこへ行くべきかのう?」
「あ、あたしが決めていいんですか?」
「呪術師と顔見知りなのじゃろう? それに屋敷のこともある程度知っておると聞く。任せても良いかのう?」
「……分かりました。では……」
ルチカは少し考えたあと、意を決して言った。
「中庭周辺を探しましょう。ランプ……呪術師と最後に会ったのもそこですから」
「うむ。──話は聞いておったな?」
「ええ。では、我々はA班の元へ向かい、報告と援護をしてまいります」
「頼んじゃぞ」
魔女は無言で頷くと、一気に速度を上げて屋敷の中へ入っていく。
その様子を見送り、モルバダイトは一歩前に出て言った。
「わしらも行こうかのう」
「はい!」
「おう!」
〇〇〇
数日ぶりの中庭は、以前と変わらず綺麗な花が咲いていた。
幸いにも興奮したモンスターが踏み荒らしたり、呪術の影響で被害が出た形跡はない。
「ランプキンは花が好きなのか?」
「美しいものが好きって言ってたわ。だからあながち間違いではないのかも」
「にゃーにゃ! にゃーにゃ!」
足を止め雑談するルチカたちに、キャミーシャは声を上げる。
ルチカは首を横に振り、モルバダイトとは別行動にして、父の手を引きながら探すことにした。
「前にかぼちゃ頭って言ったよな? 目を引く見た目なんだし案外早く見つかるんじゃねえか?」
「うーん……」
父の楽観思考に、ルチカは難しい顔をしながら探し続ける。
その後、モルバダイトと合流し、ルチカは「やっぱり」と呟く。
「どうやら中庭にはおらんようじゃな」
「他をあたってみるか。ルチカ、どこにする?」
「それなら……あそこ」
ルチカは中庭の奥の森を差して言った。
父は疑いもせず頷くと、ルチカの手を引きながら森へ移動する。
その後をモルバダイトが追うと、むむぅと唸った。
「どうしたの、モルバダイトさん」
「ルビーが言っていたことを思い出してのう」
「奇遇だな、俺もだ」
「……?」
どれに対して思い出したのか分からず、ルチカは首を傾げる。
それに気付いたモルバダイトは、父と顔を見合せてからポツリと言う。
「ジャック・カーティオ。呪術を使いしその少年は、この屋敷の花壇を見たのが最後、行方不明となっておる」
「ゆくえ、ふめい? それも呪術?」
ルチカは現在捜索している男を脳裏に浮かべて眉を寄せる。
「ランプキンはジャックなのかしら……?」
「ランプキンの情報がほとんどねえからなんとも言えないところはあるが……」
「可能性は高いじゃろうな」
モルバダイトが自分に言い聞かせるように話していると、
「にゃ! にゃにゃ!」
突然、肩に乗っていたキャミーシャが吠えるように鳴く。
ルチカはキャミーシャの視線の先を見つめると、そこには紫色のもやが、一箇所に集まるのが見える。
「なんなのかしら……?」
「待て、ルチカ」
父の手に強く握られ、ルチカはその場で立ち止まり、ごくりと唾を飲み飲む。
後ろにいたモルバダイトはルチカと父の前へ移動すると、杖の先をもやの塊に向け睨みつける。
その瞬間、塊は紫色の人型に形を変えると、彼を真似するように人差し指をこちらへ向けた。
「ルチカ殿、ヤクード殿、白猫殿、わしが合図したら全力で屋敷の方へ走りなされ」
ルチカたちは静かに頷き、モルバダイトの指示を待つ。
人型は指先を向けたまま、軽く膝を折った。そして……、
「走れ!」
ルチカたちが背を向けたのと、人型が魔法を出したのはほぼ同時だった。
父は一瞬後ろを向いてすぐに戻すと、チッと小さく舌打ちをする。
「あの野郎、呪術を使って攻撃しやがったな」
「呪術!?」
ランプキンだけでなく、もう一人呪術師がいるのだろうか。
そんなルチカの内心を知ってか知らずか、父は言った。
「あれは偶然、周囲の呪術魔法同士が固まってできたもんだな」
「ランプキンが作ったものじゃないのね?」
「多分な。ルチカや白猫がいるってのに、魔法をぶっぱなしてくんのもおかしいだろ」
「……そうね」
ランプキンは誰かを傷つけようとする野蛮な人ではない。
困っている人に手を差し伸べ、慰めてくれる、優しいかぼちゃだ。
今回の件もわざと魔力暴発をしたわけではない。ルチカの身を案じて我慢してくれていただけなのだ。
「ランプキンは悪い子じゃない。例えあの子が自分を責めても、あたしはずっと味方でいたいわ」
「それを伝える前に、まずは後ろのあやつをどうにかせんといかんな」
背後で声が聞こえ振り向くと、ルチカたちに背中を向けて走りながら魔法を打つモルバダイトがいた。
その後ろには、何度攻撃を受けてもうろたえず追いかける人型がいる。
「会長の魔法が効かないプラス、いくら走っても追ってくるイコール」
「ジリ貧じゃな。どうしたものか……」
父とモルバダイトが悩ましげにこめかみを抑えている中、ルチカはあることに気づいていた。
(あの子、どんどん小さくなってる……)
即席で集合したからなのか分からないが、一歩一歩進む事に魔力が分散して飛んでいる。それも……。
(屋敷の方に向かって行ってる?)
まるでそこに何か重要なものがあると示しているかのように──。
ルチカは父とモルバダイトにそれを伝えると、父は空を見上げて呟いた。
「あそこは……屋敷の二階くらいか? 何にせよ行って損はねえかもな」
「しかしそろそろわしも限界じゃ。こっから目的地まですぐに行けるといいんじゃが……」
確かに人型はどんどんルチカたちの方へ近づいている。モルバダイトも魔法を打つ勢いが遅くなり、ヒィヒィと息を吐いていた。
「つっても近くに魔女はいねえしな。近道かなんかあれば良いんだが……」
「にゃあ……。にゃにゃっ!」
「どうしたの、キャミーシャ? ってうわ!」
突然キャミーシャは、ルチカの頭を踏み台に勢いをつけてジャンプする。
「にゃーにゃああああ!」
そして、可愛らしい咆哮を上げながら、首元から平らな氷の壁を作り、作り……作り続けた。
出来上がったそれは、森の出口から二階に向けて作られた氷の道。ここを進めば近道になるだろう。
「会長、近道できたぞ!」
「できたって……おお、なんじゃこりゃ!」
背を向けていたモルバダイトは、立派な氷の道に目を丸くし、ほっほっほと笑った。
「やるのう白猫殿! これならなんとか耐えられるわい」
「にゃんにゃんにゃ〜」
モルバダイトの反応に、キャミーシャは得意げに喉を鳴らしてルチカの肩に乗る。
「ルチカ、見たところ結構きつい坂だ。俺の背中に乗れ」
「うん!」
ルチカは内心おんぶされることに喜びつつ、かがんだ父の肩をぎゅっと掴む。
両足を抱え、父は一息つくと、氷の道を登っていく。
「会長、来れるか!」
「何とかのう!」
ルチカが後ろを向くと、モルバダイトも氷の道に足を踏み入れた。
「あの子も上りそう……。キャミーシャ、下の氷の道をなくして!」
「にゃっ!」
キャミーシャは頷くと、上り始めの道を氷の矢で砕いていく。
ヒビが入りやがて崩れた道に、人型はその場で呆然と立ち止まっていた。
「そろそろ屋敷の中だ。しっかり捕まってろよ!」
「うん、とーさま!」
ルチカは頷き、父の背中にぎゅっと密着した。汗ばんでいるが、それくらいルチカは気にしない。
氷の道の到着場所はバルコニーだった。
ルチカはここで見たランプキンのダンスを思い出しつつ、地面へ降りて食堂へ向かおうとする。
しかし、いくら父の手を引いても動こうとしない。不思議に思い、ルチカは後ろを振り向く。
「ふぃー……疲れたのう」
どうやらモルバダイトを待っていたようだ。
(焦らないであたし。大丈夫、少しずつでいいのよ……)
父はモルバダイトを確認すると、ルチカに手を引かれながら食堂を見る。
「ここは食うところか。ちょいとばかし家具が少ないように見えるが……」
「にゃーにゃ!」
「わりぃわりぃ。今はそれどころじゃねえよな」
キャミーシャの肉球でほっぺをふにふにされ、父は苦笑しルチカを見る。
「どうやらここにはいないようだな。魔力が向かった部屋ではないってことか」
「多分隣の……ランプキンの部屋よ」
「それなら都合がいい。早いこと済ませねえと、神級魔法の効果が切れちまう」
言いながらルチカは父に腕時計を見せられる。残り七分。確かに急いだ方が良さそうだ。
ルチカたちは食堂を抜け廊下に出ると、ランプキンの部屋へ向かった。
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