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第26話 ランプキン救出作戦

数時間後。ルチカ一行はレスティアの広場へ馬車を置いて、町から南にあるセルスト山の前へ到着した。


ちなみにルチカは歩くのも困難なため、父に抱えられて移動した。

魔法協会の人がその光景を見ては微笑ましそうに先へ行くのを見て、ルチカは恥ずかしさで顔を塞ぎたくなったが……それはさておき。


「ここに来たのは数日ぶりだが……いつ見ても毒々しい色してんな」


父の呟きに、ルチカはおそるおそる山の方へ目線を上げる。

山一帯に紫色の靄が出ている。今日は快晴のはずだが、日中にも関わらず、もやの影響ですぐ先が見えない。

ルチカは森の中で迷子になった時を思い出し顔をしかめた。


「あたしたち、この山に入るのよね」


「ガスマスクを付けて、な」


父は言いながら魔法協会の人からガスマスクを貰ってルチカに見せる。

カラスの顔に似たそれは、ルチカの顔に合わせ小さめに作られている。見た目が不気味なため可愛くないが今はそんなことを言ってられる余裕はない。


「ガスマスクなんて呼んでるが、魔力にもやを防いでくれる効果があるらしい。協会に入って二十年経つが俺も初めて使うな」


父は気合い十分と言った様子でガスマスクを着ける。


ルチカは父に着けてもらい、一度息を吐いてから、正面に立つモルバダイトの指示を待つ。


少し経ち──モルバダイトは山を見るなりううむと唸ると、ルチカたちの方へ身体を向けた。


「これより呪術騒動の収束のためセルスト山へ向かう。──情報班班長、前へ」


「はっ」


モルバダイトに呼ばれ、ルビーは彼の隣に立つと、資料の紙を自分の前へ浮かべながら話始める。


「昨日魔法協会にて作戦会議を行いました。しかし、一部参加されることが出来ない方がいたため、改めて説明致します」


ルビーは魔法で資料をめくると、ルチカたちへ視線を戻す。


「まずデライト率いる光魔法部隊。あなたたちは結界魔法が壊れていないか確認を。万が一壊れた箇所があった場合直ちに修復してください」


「ワイらの魔法で森中を照らすのはあかんのやろ?」


「ええ。環境班によればモンスターが呪術の影響か興奮状態になっており、さらに刺激を与え無駄な戦闘が増えてしまう……とのことなので」


「了解や。お前ら、気合い入れろー!」


「「おー!」」


デライトの声に、光魔法部隊は腕を上げ、しかしモンスターが刺激しないよう小声で放った。


「続いて呪術師について。ルチカさんによれば、呪術師は屋敷周辺にいる可能性が高いとのこと。議論した結果二手に別れ捜索することになりました」


「オレとヘマタイトがA隊、ヤクードと会長がB隊だよね」


ルビーが無言で頷いたのを見て、モルバダイトは一歩前に出る。


「大まかな作戦は以上。もし呪術師を見つけた場合はできるだけ傷つけずに捕らえるように。では──」


モルバダイトが年季の入った杖を掲げると、全員が杖を上げ目を閉じた。

ルチカは何が起きているのか分からないが、とりあえず目だけ閉じる。


「魔法を持つ者。魔法を扱いし者。どうかその力を正しく使い、世界を救いたまえ」


「「魔法を持つ者。魔法を扱いし者。どうかその力を正しく使い、世界を救いたまえ」」


「魔法協会、任務開始!」


「「任務開始!」」


その一言と共に、魔法協会の人たちはそれぞれ指示された場所へ移動する。


(みんな、すごいわ……)


ルチカが目をきらきらと輝かせていると、父はルチカへ目線を下げて言った。


「興奮してるとこ悪いが、そろそろお前の出番だ。いけるか?」


「……もちろん!」


ルチカが元気よく頷くと、父はモルバダイトにルチカを預けて、胸ポケットから杖を出す。

そして、杖の先をルチカに向け、何度も深呼吸を繰り返した。


「……やるぞ」


父は目を閉じると魔力を杖の先へ送り込む。

いつもの父なら魔力を送るのにそこまで時間を有さない。

しかし、今回は違う。上位よりさらに難度が高く魔力量が多い神級魔法を使うため相当時間がかかった。


数秒、数分、数十分時が経ち、ついに──。


「『テンプリア』!」


父の詠唱と同時に、藍色の光がルチカの周りを囲む。

やがてその光はルチカの胸の中にスッと入ると何事もなかったかのように消えた。


「ゼェ……ハァ……。どうだ、ルチカ」


父は額の汗を拭い木に寄りかかると、ルチカに立つよう促す。


(怖がらないで。きっと立つわ!)


そう心に言い聞かせ、ルチカはモルバダイトの手を握りながら、おずおずと地面に足を踏みつける。


「ひゃっ!」


「ルチカ!」


「ルチカ殿!」


危うくバランスが崩れそうになったが、震える足でなんとか立つと、父とモルバダイトはほっと胸を撫で下ろす。


「わしの手は必要かのう?」


「少しの間だけ、お願いします」


「うむ」


ルチカはモルバダイトの手を握ったまま、ゆっくりと父の元へ向かう。

父は思わず駆け寄ると、ルチカの頭を腕に抱えた。


「よく頑張った、ルチカ!」


「……ううん、まだこれからよ、とーさま」


「……そうだったな」


父は坂を見上げると、傍にある大きな石の上に足を乗せた。


「早速上り坂か。厳しいな」


「それよりも前に気にかけておくことがあるじゃろて」


「何を──」


父が後ろを向いたその時、前から猿のモンスターが飛んできた。


「とーさま、避けて!」


ルチカの必死の忠告に、父は動こうともしない。そのまま父は猿に腹を抉られ、地面に転がり──。


「にゃーにゃっ!」


寸前、父の前に氷の壁が現れ、勢いをつけていた猿のモンスターはそのまま壁にぶつかり気を失った。


「今のって……」


「にゃんにゃんにゃ〜」


キャミーシャは父のかばん──正確にはルチカのかばんを父が持っている──からぴょんと出てくると、ルチカの肩へ飛んだ。


(そういえばさっきまで見かけなかったわね。いつからあたしのかばんに入っていたのかしら)


ルチカの内なる疑問にお構い無しに、キャミーシャは頬をぺろぺろと舐めてくる。


「よくやった白猫。期待していた通りだ」


「とーさまはキャミーシャがカバンの中に入っていたことを知ってたの?」


「そりゃあな。じゃなかったらあんなに隙を晒さねえよ」


父はキャミーシャの実力を見るために、あえて動かなかったようだ。心臓に悪い。


「次からはちゃんと避けてよね!」


「分かってるって。会長。今度は俺が支えますから、会長は前衛を頼みます」


「孫の手に触れていたい……」


「馬鹿なこと言ってないでさっさと交代して下さい」


「んむぅ……」


モルバダイトは膨れっ面で父と場所を変えると、先に進んだ。


「ルチカ。何かあったらすぐに言えよ。今度は絶対に絶対に、お前の手を離さないからな」


「とーさま……」


その頼りになる父の言に、ルチカは感動に声が震える。


(……って、こういうのも全部終わってからよね)


ルチカはカバンから三角帽子と杖を出す。

三角帽子を頭に乗せ、杖は左手にぎゅっと掴む。

上手く力は入らないが痛みはない。これならなんとか山道を登って行けそうだ。


(制限時間は三十分。それまでにあの子を──)


「行きましょう、とーさま」


「おう!」


父は大きく頷くと、ルチカの足に合わせて少しずつ坂道を歩いていく。

ルチカは枝や段差に気を付け懸命に一歩一歩前へ進む。


(ランプキンを救ってみせる!)


すべては大切な人と再開するために。

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