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第23話 助けたい思い

しばらく経ち、父はルチカから腕を離すと再び腕を組んだ。


「そういやさっき、ルチカは気になることを言ってたな。今回の騒動はあたしのせいだとか何とか」


「……むぅ」


「ルチカ?」


「へぁっ!? ううん、なんでもないわ!」


父とハグをするのが久しぶりで、まだ物足りなかった……とはとてもではないが言えない。

ルチカは小さく首を横に振ると、父が言っていたことを思い出す。


(とーさま、あたしのことについて話してたような。聞き逃しちゃったから分からないけど、きっと大事なことよね。えっと確か……)


ルチカはついさっきの記憶を何とか掘り返し掘り返し……思い出しぽんと手を打つ。


「今回の騒動はあたしに原因がある……そんな話だったかしら」


「その通りだが、なんだ聞いてなかったのか」


「ご、ごめんなさい」


「もう謝んなって。今日だけで何回頭を垂れてんだ」


「二、三回……?」


「もっといってるぞ」


「そ、そうなの?」


どれくらいだろうかとルチカが脳内で数え始めようとしたところで、父はわざとらしく咳をこみ話を戻した。


「んで、ルチカは今回の件に関わってるってのか?」


「そうよ、とーさま」


「……聞かせてみろ」


父に頷き、ルチカは身体を起こしたまま事情を説明する。


家出をしていた時、迷子になっていたところを猫に助けられ、屋敷に泊まったこと。

その屋敷の主人はかぼちゃ頭を被っており、呪術魔法が使えること。

そして、ルチカが屋敷にいたせいで主人は魔法を外へ放出出来ず、魔力暴発を起こしてしまったこと。


ルチカの説明に、父は顎を当ててぶつぶつと呟きながら考え込む。

しばらくして、父は考えるのをやめてルチカの方へ視線を戻した。


「屋敷の主人の名は?」


「ランプキンだけど……」


「ランプキンねぇ……」


父は何やら気難しげに眉を寄せる。

わざわざ名前を聞くということは、何か心当たりがあるのだろうか。


「偽名じゃねえよな?」


「ランプキン、言ってたわ。『この名前は私が死んだ後に付けた名前だ』って。だから偽名というのも間違いではないかも」


「……おい待て。今なんて言った?」


「だから偽名というのも間違いでは……」


「その前だ」


「私が死んだ後に付けた名前のところ?」


「そうだ。意味がわからん。ランプキンは生きてるんじゃねえのか?」


(そういえば言ってなかったわね)


ルチカはランプキンの姿を脳裏に浮かべながら言った。


「ランプキンは一度死んだの。でも、何故か記憶だけ覚えたままかぼちゃ頭の姿で生まれ変わったのよ」


「生まれ変わった!? 呪術はおろか蘇生魔法まで使えるってのか?」


「それはないと思うわ」


ルチカは首を横に振って胸に手を置いた。


「何日かランプキンと一緒に過ごしたけれど、呪術以外の魔力は出ていなかったもの」


魔力は属性によって大気中に出るもやの色が異なる。

炎なら赤。水なら青。風なら緑。光なら黄色。治癒なら黄緑といったように。


もし学園や本で習ったことが本当なら、呪術は紫で蘇生は赤と緑が交互に出てくることになる。

しかし、ルチカが見たところ蘇生らしき魔力の色が出る機会は一度もなかった。


「とーさま、これも呪術の影響なの? それともランプキンは本当は生きているの?」


ルチカの疑問に、父はぽりぽりと頭をかいてから困ったように首を曲げる。


「蘇生魔法ならまだしも、呪術が死人を復活させる力を持つなんざ聞いたことがねえ。それに肉体はないんだよな?」


「うん。ランプキンの本体はかぼちゃ頭だけ。マントや手袋は付けているけどそれはただの衣装。浮遊魔法も使っていないらしいわ」


「それだけ聞くとただの幽霊だよなぁ……」


本人も「お化けみたいなものさ」とは言っているが、普通の人と同じように物を持てるし、生きている者には話しかけることが出来る。幽霊にしては人間じみている。そこがランプキンの魅力ではあるけれど……。


(……あたし、ランプキンのことを何も知らないのね)


思えばランプキンは自分について話すことがほとんどなかった。

それはルチカを警戒してのことかもしれないが、あえてそうしていたようにも思える。


(自分のことになるとよく秘密だって言ってたっけ。それだけ知られたくないことが多いのかしら)


使える魔法が呪術であることも、魔力暴発が近いことも、ランプキンになる前のこともルチカはほとんど知らない。


(……きっと一人で抱え込んでしまう子なんだわ。あたしと同じで)


呪術は禁術だ。使えるだけで世界から迫害され、孤独を強いられる、そんな魔法になれない魔法だ。


もしもランプキンになる前から呪術を使えていたのだとしたら、他人に悩みを話さず一人で抱え込むのも無理はない。


「……ランプキンを救いたいわ」


ついぽろんと言葉が出てしまい、ルチカは慌てて口をつぐんだ。


父──魔法協会からしてみれば、彼は国の秩序を乱す悪者だ。

そんな悪者を助けようと考えるルチカを、父は変な娘だと思ったのではないか。


しかし、父はルチカに何か反論するわけでもなく、驚いたように目を丸くした。


「ルチカ……お前すげえな」


「……どうして?」


「偶然とはいえ、ルチカはランプキンの呪術のせいで傷だらけになった可能性がある。なら、少しくらい憎んでも当然なんじゃないか?」


(言われてみれば、確かに……)


ルチカが受けた呪術はちょっとかすり傷を受けた程度のものではない。

ペリアルトの言っていたことが正しければ、父の治癒魔法ですら完治できない重い状態なのだ。

にも関わらず、ルチカはランプキンをどうにかしてやりたいと思っている。何故なのか?


ルチカは目を閉じて考え、そっと目を開けた。


「ランプキンがとっても優しい子だからよ」


「優しい……」


「見ず知らずのあたしを屋敷に泊めてくれた。何に悩んでいるのか分からないのに、あたしをずっとずっと慰めてくれた」


「……」


「彼は呪術を使える。でも、同時に優しい心を持っているわ。そんな子を独り山奥に放っておくなんて、あたしにはできない」


ルチカは手にない杖をぎゅっと握ると、父に言った。


「ペリアルトおじさんから聞いたわ。今回の騒動を止めるためにランプキンのところへ行くって」


「あいつ、何をペラペラと……」


父は呆れたように息を吐くと、ルチカが言う前に口を開いた。


「だからあたしも連れて行けってか?」


「……ダメかしら」


「当たり前だ」


父は即座に断言すると、腕を組んでルチカを睨みつける。


「ちいっと動くだけでも身体は悲鳴を上げるし、体力もなければ魔力も少ない。そんなぼろぼろなお前を、はいそうですかと一緒に参加させてやることはできん」


「……」


「そもそもルチカは魔法協会の一員じゃない。国の一大事に一般人、それも子どもを一時的とはいえ加えさせることになれば、国民からの目は相当厳しいものになるはずだ」


正論だ。父は治癒術師として、魔法協会として当たり前なことを言っている。

これはルチカのわがままで、間違っていることだということも頭では理解できている。でも。


「ペリアルトおじさんはこうも言ってた。場合によっては呪術師を殺すことになるかもって」


「それは……」


「あたしを救ってくれた優しい人をとーさまの魔法で癒してあげられないのなら、あたしが変わりにランプキンに手を差し伸べるわ。何故ならそれが、あたしのなりたい治癒術師だもの」


「なっ……」


これが今のルチカの精一杯の伝えたいことだ。これ以上の思いはルチカにない。

もしそれでも父に首を振られたら、潔く諦めよう。

そう思いつつ父の反応を待っていると……。


「中々面白い娘さんじゃのう」


「え……?」


「この声は……!」


二人は驚き、父は仕切りカーテンを開ける。

こんこんとドアをノックし、老男はゆっくり開けて、のそのそと病室に足を踏み入れた。


「数ヶ月ぶりじゃのう、ルチカ、ヤクード」


「会長!?」


「モルバダイトさん!?」


老男──モルバダイト・ルシオンはほっほっほと笑いながら自慢の長い白髭をなぞったのだった。

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