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第20話 ノロイノルチカ

(どうしてあたしの声が聞こえるのかしら……?)


ルチカが寝ているわけでも夢を見ているわけでもない。なのにどうしてこの声が聞こえるのだろうか。


(もしかしてこれも夢なのかしら。だとしたら……)


『夢なんかじゃないわ』


(……え?)


『夢じゃない。ペリアルトおじさんと話しているのも、あなたと話しているのも全部現実よ』


一瞬の希望が自分の声によってすぐに壊され、ルチカは複雑な顔をする。


『ねぇルチカ。あたしたち、とっても傷ついたわよね? もう何もかもどうでもよくなるくらい苦しい思いをいっぱいしたわよね?』


(……そう、ね。たくさん、したわね)


否定できなかった。だって、昨日夢の中とは言えルチカの心の内を見せられて、今ペリアルトと話している時も傷ついている。

ペリアルトが悪いわけではない。何もかも上手くできないルチカが悪いのだ。


『誰かの期待を裏切り、誰かの日常を奪って、大切な人を傷つけて。あたしたちは本当に落ちこぼれよね』


(……悪い子なのに、酷い子なのに、どうしてあたしたちはこんなところにいるのかしら。あたしたちよりもっと良い子で何でも出来て助けてあげるべき人なんか星の数ほどいるのに)


「ルチカちゃん、具合が悪くなったのかい? ルチカちゃん?」


『あたしたち、この世界にいていいのかしら。のうのうと生きていて本当にいいのかしら』


(……良くないわ。だってあたしたちはいるだけでみんなを不幸にする、呪いの子だもの)


『……ねぇルチカ。あたしが最初に何を言いたかったのか分かる?』


(……分かるわ。だってあなたはあたしの心。あたしの心はあなたなんだもの)


『なら、あとはあなたのままに──なさい』


ルチカの心の声がぷつりと途切れ、ルチカはにやりと口元を緩める。


(あたしは落ちこぼれ。あたしはダメな子。あたしは生きている価値なんかない、呪いの子)


誰かを不幸にし誰かの日常を奪うのがルチカなら、それは禁術と何ら変わらないのではないか。

信じてくれる人を裏切り、愛を疑い続けたルチカを誰が許してくれると言うのだろうか。


(あたしがしたいこと。それはきっと……)


ルチカは痛みに耐えながら身体を起こすと、窓を開けて外の下へ目線をやる。


ここは八階。前に入院した時は二階だったか。


(みんなを下に見ているようで、あんまり好きじゃないわね)


ルチカは窓のクラックに干されるようになる。そして、


「あたしなんか地面で這いつくばってた方がお似合いよ」


自嘲気味に言いながら落下した。


始めからこうするべきだった。

家出なんかしないで自分一人で片付けていれば、誰も傷つくのを見ないですんだ。誰かが傷つかずにすんだ。

なぜこんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。


冷たい風が頬を撫でる。不思議と心地よい。きっと風もルチカが死ぬことを喜んでいるのだろう。なら、その期待に答えなければならない。


気付けば地面に近づいてきた。ようやく死ねる。ようやくルチカは地面になれる。誰かを見下さずに下から称えることができる。落ちこぼれのルチカにはお似合いではないか。


(ばいばい、あたし。らいせはこないでね)


誰にでもなく自分に言い聞かせ、ルチカは固い地面へ激突し──。


「ラルティ・フーラ!!」


突如の詠唱の後、冷たい風がルチカの身体を包み落下速度を緩やかにした。

そのままルチカは誰かの腕に抱えられ、目を白黒する。


「ルチカ」


「……とーさまの、声?」


ルチカは父の声に目線を上にやり、見開いた。


「なにやってんだよ、お前。……なにやってんだよ、お前ぇぇえ!」


ルチカの前で一度も泣いたことがない父が、涙を流していた。


「とーさま、あたし……」


「何かあったんなら教えてくれよ……。何か言いてえことがあるなら、隠してねえで伝えてくれよ……。ルチカまで死んじまったら、俺は……おれ、は……」


「とー、さま……」


何が誰も傷つくのを見ないで済むだ。何が誰も傷つかずに済むだ。

父は傷つくルチカを見て、こんなにも悲しんでいるというのに。


「ごめんなさい。……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさい、とーさまぁぁぁあ!」


ルチカは溢れんばかりの涙を流し、父の腕で何度も何度も謝罪する。


お互い泣き続ける親子を見て、笑うような通行人は、ただの一人もいなかった。

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