第14話 魔法協会
魔法協会はルモント市の中央に位置する国の重要施設である。
建物に入るには魔法協会の証である灰色の腕輪が必要であり、一般人は立ち入りが許されない。
ヤクードとペリアルトは警備員に腕輪を見せ中に入ると、腕輪を扉の真ん中にはめ込む。
すると扉が開き、ヤクードとペリアルトは会議室に入る。
円に囲まれたテーブルの後ろには三十席程度の議席が用意されており、壁には少々埃っぽい時計が飾られている。
どうやらすでに会員は集まっており、ヤクードとペリアルトが最後だったようだ。
「遅くなってしまいすまない、会長」
ペリアルトが謝罪をすると、会長──モルバダイト・ルシオンは手をひらひらと振った。
「なに、まだ会議が始まるまで二十分もある。むしろ早いほうじゃよ」
「……ありがとうございます」
ペリアルトの礼に、ヤクードも一緒に頭を下げ、それぞれの席に座る。
ヤクードが入っている特別班は、ヤクード含め六人おり、今日は全員が呼び出されている。
他の班は全員とまでは行かないが、主要な人物が揃っていた。
モルバダイトは班員たちを見回してから、こほんと咳払いをした。
「全員揃ったことじゃし、ちぃっと早いが始めようかのう」
モルバダイトは首まで伸びた立派な白髭を撫でつけながら情報班に目配せをする。
情報班の班長ルビーはこくりと頷き席を立つと、資料を持って話始める。
「今日の十時頃、レスティア町セルスト山にて突如黒い霧が発生する騒動が発生。幸い近くの町に被害は及びませんでしたが、十四歳の少女が黒い霧に襲われ重体。少女のそばにいたモンスターが軽い怪我を負いました」
十四歳の少女──誰であろうルチカのことである。当然この場にいる全員が知っているが、それに言及する者は誰一人としていない。
「黒い霧の正体について何か情報が来ておるかのう?」
「それは……」
「私が答えていい?」
ルビーに被せて言ったのは、特別班副班長のヘマタイト・キリシャだ。
灰色の髪に紫色の三白眼が特徴的な彼女は、国一番の闇魔法の使い手である。
モルバダイトは発言を許可すると、ルビーは座り、ヘマタイトは気だるげに席から立つ。
「私が見るにあの黒い霧は煙でもなんでもない。間違いなく『呪術』よ」
ヘマタイトの断言に、この場にいる数人がざわめき始める。
「改めて確認するけど……。『呪術』は、魔法を使える私たちが法律上使用してはいけない『禁術』の一つのこと。呪いを受けた人間は、身体を動かすと全身に痛みが走ると言われている。……魔法に失礼な魔法よ」
ヘマタイトはケッと吐き捨てるように言いながら、拳をテーブルに叩いた。
(無理もないな)
何故なら呪術魔法は闇魔法から派生して作られたものだからである。
長年闇魔法を愛し使い続けてきたヘマタイトにとって、それは屈辱とも呼べるものだった。
「それと肉体的にだけじゃなくて、精神的にも苦痛を与えるらしいわね」
「体の痛みでストレスが溜まると?」
他の班員が疑問を口にした。
「それもあるけど、睡眠中、過去のトラウマや嫌いなものを呼び起こして心をズタボロにさせるのよ。……ほんと、魔法に失礼よね」
ヘマタイトはもう一度拳を振ろうとすると、隣の班員に窘められ腕を組んだ。
(心をズタボロに……。ルチカは大丈夫なのか?)
最初に起きた時、ルチカは珍しく声を上げて泣いていた。
それは肉体的な痛みだけでなく、眠っている間に心も傷つけられたからだろう。
(癒しの魔法が効いてるといいんだが……)
ヤクードが不安に瞳を揺らしていると、隣に座るペリアルトが声を出さずに「大丈夫だよ」と安心させるように言った。
ヤクードは深呼吸し、ペリアルトに軽く頭を下げると、ヘマタイトの話に耳を傾ける。
しかし、途中から闇魔法の凄さについて語り出したため、モルバダイトに止められ泣く泣く座らされた。
「さて、次は環境班。山や町の状況はどうなっておる?」
ヘマタイトに振れられ、環境班班長、マラカイトはメガネをくいっと上にやって答える。
「先程の情報班と類似するところもありますが……、現状町に呪術の魔力は検知されず、住民たちに健康上の被害はありません。しかし、今後呪術が広がる可能性があるため、ルモント市の宿泊施設へ全員避難させました」
ちなみにレスティアからルモント市までは馬車で最低でも五時間かかるが、魔法協会の魔女たちが乗せてくれたらしく一時間で済んだらしい。
「セルスト山は、呪術の魔力が高く、黒い霧は未だ大気中に浮かんだままです。そのためセルスト山全域に光魔法の結界をかけ、黒い霧を外へ出さないようにしています……」
不安そうに視線を落とすマラカイトに、特別班班長のデライト・フォースは腕を組んで笑った。
「安心せい。ワイらの作った結界はそう簡単に壊れやせんよ」
髪がなく引き締まった筋肉が特徴的な彼は、光魔法の使い手であり、同じ使い手の班員と共に森へ結界をかけた一人である。
「ま、簡単に壊れん言うても、せいぜい三日が限度なんだがな。ガハハハ!」
「どこに笑う要素があんのよ……」
やたら元気なデライトに、ヘマタイトは呆れたようにため息を吐く。
「いや、三日もあれば十分じゃ。その間に今回の騒動を起こした呪術魔法の使い手を逮捕すれば良いのじゃからな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
急に話が進められ慌てて手を挙げたのは、情報班班長のルビーである。
「現状犯人の行方は調査中ではありますが、流石に三日で見つけるには無理があります。ですので……」
「すまんがルビー、これ以上結界を作れと言われても無理やぞ。何せ、こちとら山一個の結界を作るのに数百人体制で何とか出来たんやからな。ワイはまだしも、一緒にやった協会の奴らはみんな魔力切れを起こしとるし、無理なもんは無理や。ガハハハ!」
内容に反して快活に笑うデライトに、ルビーはどうしたものかと頭を悩ませている。
「……少しいいですか?」
そんな中、一人手を挙げる者がいた。
特別班班員、風魔法使いのペリアルト・エンペルタである。
ペリアルトはモルバダイトに目線をやり、発言していいか確認する。
モルバタイトが無言で頷くのを見てから、ペリアルトは言った。
「あくまで憶測ですが……、犯人はジャックではないでしょうか?」
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