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第13話 ルチカを探して

18話までヤクードの視点で話を進めます。

治療法が終わる頃には、ルチカは泣き疲れたのか気を失うように眠りについていた。


ヤクードは頬に伝っているルチカの涙を拭ってやると、ベッドの隣に置いてある丸椅子に腰を下ろした。


「チッ」


ヤクードは舌打ちをしてから、ルチカの顔をじっと見つめる。

夜遅くに家に帰ると、ルチカは時折口元を緩めては穏やかに眠っていた。

最近は苦しそうに顔をしかめていることもあったが、今日の寝顔はそれに加えて青白く誰にでもなく謝っている。


ヤクードはルチカに触れようとし──途中でやめるとぐっと唇を噛んだ。


(なんだってルチカがこんな目に……)


ペリアルトの妻、サテラからルチカの行方について連絡が入ったヤクードは、レスティアと呼ばれる小さな町で聞き込みをしていた。


そんな時、東の山から黒い霧が現れ、ヤクードは胸騒ぎを覚えつつ急いで向かった。


いざ山に登ろうとしたところ、黒い霧が森を覆い尽くしており進むことは難しい。


そんな中、すぐ近くで猫の鳴き声と何かを引きずる音がした。

音の行方を追うと、茂みの奥で白猫のモンスターが少女の服を引っ張って、山から逃がそうとしていたのだ。


ヤクードは杖を片手に白猫のところへ行き──その少女が自分の娘であると気づくのにそう時間はかからなかった。


ルチカと白猫を抱えて黒い霧から少し離れたところで治療をしつつ、ヤクードは病院に連絡したのだった。


「……ごめんな、ルチカ。遅くなっちまって」


そう言いながら、ヤクードは止めていた手をルチカの頭に置いてそっと撫でる。


「もっと早くお前を見つけてやれたら、こんなことにはならなかったってのに。……いや」


ヤクードは首を横に振って、目をそらす。


「元はと言えば、俺がちゃんとルチカを見てやれなかったのが原因か」


仕事を言い訳に愛娘を放ったらかした結果、こんなことになってしまった。

ヤクードの考えが正しければ、きっとルチカは家出をしたのだ。というかそれ以外考えられない。


「この前久しぶりに一緒に魔法の特訓をしたけどよ、あれが良くなかったのか? ……それだけじゃねえ、よな」


時折ルチカは辛そうな顔をしていた。それは他の生徒に比べて自分が劣っていると感じていたからだろう。


以前、「ルチカは生まれつき魔法が使えていたわけではないから遅れるのも仕方ない」と慰めてあげたことがある。

しかしルチカは、作り笑いを浮かべて「そうなんだ」としか言わなかった。


「ダメな父親でごめんな、ルチカ。何もわかってあげられなくて、ごめんな、ルチカ……」


ヤクードはルチカの手をそっと握ってやる。白く冷たい小さな手に、ヤクードは不安を覚えた。


「どうか死なないでくれ、ルチカ」


そう願っていると、窓からトントンという音がした。

見上げると、窓の外には黒い鳥がクチバシでつつきながらヤクードを見ていた。


ヤクードは窓を開け黒い鳥の胸元の宝石に触れる。

黒い鳥は白い光に包まれたかと思うと、一枚の手紙になった。


(なんとなく予想はついているが……)


ヤクードは手紙を持って丸椅子に座り直し読み始める。


『魔法協会特別班班員:ヤクード・オルテクスへ

このあと十七時に魔法協会で緊急会議を始める。遅れず集合せよ。

魔法協会会長:モルダバイト・ルシオンより 』


ヤクードは舌打ちをすると、紙を乱雑にカバンに入れて、もう一度ルチカの頭を撫でた。


「急用が出来たみたいだ。ごめんルチカ、行ってくる。……ごめん」


ヤクードはルチカの頭から手を離すと、丸椅子から立って仕切りカーテンを開ける。


「とー、さま?」


「……ッ!」


ルチカの声が聞こえ背中を向けたまま顔を後ろにやる。

どうやら寝言だったらしく、ルチカは苦しそうに寝息を立てていた。


その光景が見ていられなくて、ヤクードは胸元のポケットから杖を取り出すと、ルチカに向けて治癒魔法を放つ。


よく眠れる癒しの魔法。今のルチかにはあまり効き目がないかもしれないが、何もしないよりマシだろう。


「いってきます」


ヤクードは仕切りカーテンを閉め、杖をポケットにしまうと、早歩きで病室から出て階段を降りていく。

途中、治癒術師に止められたが用事があると断り、病院を出て行った。


「お、ヤク、待ってたよ」


入り口の前で待っていたのは、ヤクードの腐れ縁、ペリアルトだ。


「……」


しかしヤクードはペリアルトを無視して走り出そうとしている。



「待て待てヤクード。会議まであと一時間もあるんだ。そんなに急ぐことはないって」


ペリアルトに言われ病院の外にある時計を見る。言われてみれば確かに走る必要はない時間だ。


「すまんペリアルト。少し考え事をしていた」


「無理もないよ。……ルチカちゃん、大丈夫そう?」


気遣うように言うペリアルトに、ヤクードは首を横に振った。


「ルチカのアレはすぐに治るもんじゃねえ。早く治してやりてえのは山々なんだが……」


「……今度お見舞いに行ってもいいかな?」


「行ってもいいがカーテン越しだぞ」


ペリアルトが強く頷くのを見て、ヤクードは白衣を脱いで歩き出す。

ペリアルトはヤクードの隣に着いていくと、肩をぽんぽんと優しく叩くのだった。

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