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第15話 魔法協会②

ジャックという名に、その場にいた全員が固まった。

しかし、ただ一人、ヤクードは眉を寄せ声を上げる。


「待てペリアルト。ジャックは二百年も前に没落したカーティオ家の末裔だぞ? 生きてるわけがねえ」


「まさにその通り。ジャックはもう亡くなっている。もし今も生きているなら、蘇生魔法を使った可能性もあるけど……」


「そんな話は聞いたこともないのう」


モルバダイトは顎髭を撫でながら首を横に振った。


「第一、蘇生魔法は禁術の一つ。使用したら最後、刑務所行きじゃからのう。……じゃが」


モルバダイトは一呼吸おいて告げる。


「水魔法の家系であるカーディオ家において、ただ一人呪術しか使えない者がおった。それが」


「ジャック・カーティオですね」


「んむぅ、それ、ワシが言いたかったんじゃが……」


ペリアルトにセリフを取られ、モルバダイトはしょんぼりとうなだれる。

それを横目にヤクードはペリアルトへ疑問を投げかけた。


「例え呪術を使えるつっても、もうこの世にはいねえんだろ? ならどっちみち関係ないだろうが」


「ん〜、実はそうとも言えないんだよねえ……」


ペリアルトはヤクードから情報班班長であるルビーへ視線を変える。

ルビーは慌てて書類をめくると、一枚の紙を浮遊魔法でヤクードの前に置いた。


紙を見ると、そこには当時の情報班が調べたであろうジャックの個人情報が載っている。

身長や年齢似顔絵、経歴などを読みながら下を見ると、そこには引っかかる単語が書かれていた。


「消息不明……?」


「共に過ごしていたジャックの祖母によると、庭で一緒に水やりをしていたところ、目を離した隙にいなくなってしまったそうです」


「……」


いなくなったという言葉にルチカを思い出し、ヤクードは難しい顔をする。


「……あれから約百八十年。我々情報班は、班員が変わってもなおこの事件について調べてきました」


「なぜそのようなことを?」


ルビーの言に、ある班員は不思議そうに首を傾げた。

当然だ。すでにカーティオ家の者は他界しており、知っている者もほとんどいなくなってしまった。

そんな中でわざわざこの事件を調べる理由はあるのだろうか。


ルビーはヤクードの持っていた紙を浮遊魔法で自分の元へ戻し、真剣な表情で言う。


「ジャックが禁術の使い手だからです。禁術は国だけでなく世界の脅威になり得る魔法。それらを使える者たちを生かしてはおけません」


強い口調で告げるルビーに、この場にいる全員は反論することもなく黙ってしまう。


消息不明とは、言い換えれば生死が分からないということだ。

ただの一般人ならまだしも、禁術を使える魔法使いとなると情報班が動かないほうがおかしい。

もしかしたら何らかの魔法を使ってのうのうと生きている可能性があるのだから。


静かになった会議室に、モルバダイトはこほんと咳払いをすると、ルビーに話を続けるよう促す。


「……話を戻します。此度の騒動にジャックが関わっている可能性があるということですが、理由としては二つあります」


ルビーは人差し指を立てる。


「一つ、ジャックはセルスト山の中腹にある祖母の屋敷に住んでいたこと。そして……」


自信なさげに中指をゆっくり立てる。


「二つ、そのセルスト山で呪術魔法による魔力暴走が起きたことです」


魔力暴走とは、長期間魔法を体内に溜め込みすぎたことにより、魔法使いの意志を無視して勝手に出てしまうことである。


ルビーは話を終えると、気まずそうに席に座った。


「……なんやそれだけか?」


「騒動が始まってからまだ数時間しか経っていないので、調査途中に決まっているじゃないですか! だからもう少し結界魔法を長めに……」


「無理や!」


「あぅぅ……」


デライトが腕をクロスしてバツ印を作ると、ルビーはがっくしと肩を落とす。


「……ま、ルビーの話はどうあれ、あと三日以内に犯人を捕まえないと危険ってことよね。どうすんのよ」


「……強行突破しかねえだろ」


指で杖を回しながら言うヘマタイトに、ヤクードは鋭い目つきで答える。


「俺たち特別班はお前たち情報班や他の班の指示がないと動けない。だが調査に時間がかかるってなら、すまんが勝手に行動させてもらうしかない」


「おいヤクード、それは班長であるワイが決めることや。お前が口出しすんのは……」


「五日後」


「あん?」


「俺の娘が呪いに食われて死ぬのは、早ければ五日後なんだよ」


「……」


衝撃的な言葉を告げるヤクードに、ヘマタイトは口を開いたまま黙ってしまう。


(クソが。ルチカが何したってんだ……)


優しくて努力家で何事にも真剣で。そんな罪もない娘がどうしてこんな騒動に巻き込まれてしまったのか。


(俺のせい、だよな。俺がもっとルチカを見ていたらこんなことには……)


今は反省している場合ではない。ヤクードは首を横に振り、


「わがままだってのは分かってる。国全体に被害が及ぶような事件だから、慎重にやらないと駄目だってのも分かってる。……だけど頼む。俺の娘のためにも、特別班を動かしてくれ。……頼む」


溢れそうになる涙を我慢しながら頭を下げた。


しばらく無言だったが、最初に声を上げる者がいた。


「その頼み、受け入れてやろう」


魔法協会会長、モルバダイトである。

モルバダイトは協会の中で最も高い権限を持っている。つまり彼の指示に逆らうことはできないのだ。


「「なっ……」」


驚く複数の班員に、モルバダイトはフォッフォと笑う。


「結界魔法も三日が限界なのじゃろう? なら光魔法使いにねだるよりも、ちゃっちゃと事を済ませたほうが早いじゃろて」


「うぐぐ……」


何も言えないルビーに、モルバダイトは「すまんのう」と謝罪した。


「それに、ルチカ殿は毎日手入れしているわしの白髭を見て美しいと言ってくれた。今こそその礼を返す時じゃ」


「モルバダイト会長……」


顔を上げて頬を緩めるヤクードに、モルバダイトは席を立ちヤクードの前に止まり手を差し出した。


「必ずルチカ殿を助けようぞ、ヤクード」


「……ッ! はい!」


ヤクードは目元の涙を乱暴に拭くと、モルバダイトの手を握る。


かくして魔法協会はルチカを救うため、そして犯人を止めるため、動き始めたのであった。

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