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水色桔梗の雫 ~異伝本能寺の変~  作者: つむぎ舞
五日五日
21/84

安土城評定

燕の会話で、明智とあけちの二つの表現が登場します。

『あけち』と書く場合は明智光秀個人を指し、『明智』と書く場合は明智家を総じて指します。

変換ミスではありませんので、一応。

 六月四日の早朝、瀬田の唐橋の修復完了の伝令を受けて、明智秀満あけちひでみつは坂本城下に待機させていた明智軍一万三千に安土城へ向けての進軍を命じた。

 藤田行政ふじたゆきまさは丹波国亀山城からの援軍の遅れを少し気にしながら明智秀満の横に馬を並べた。

「亀山城からの軍は予定より遅れていますが、それを待つわけにもいきません」

「全く、妻木のご老体はのんびりしておられる」

 やれやれといった表情で溝尾茂朝みぞおしげともも明智秀満の横に馬を並べる。

 溝尾茂朝は明智軍とは行動を共にせず、これより三宅綱朝みやけつなともを従えて京の西、勝龍寺城へと向かう。彼は城主猪子兵介(いのこへいすけ)が本能寺で討ち死にした事で混乱する勝龍寺城を含む京の西側の鎮撫の後に明智軍に合流する事となった。

 最後に整列した軍を一通り見回り、準備完了の確認を終えた斉藤利三さいとうとしみつが明智秀満の横に並ぶと、明智秀満は兵達に向け大声で叫んだ。


「織田信長公は京都本能寺を無事に脱出され安土城にて傷の療養をされている。我ら明智軍はこれより安土城へと向かい、織田信長公をお守りする」

 明智秀満の言葉を軍列内の将達が配下へと伝えていくと、兵達から歓声が上がり、それは次々に軍列の後ろまで伝播していく。

 進軍が開始され、明智軍は坂本城を南下し琵琶湖を南回りで安土城を目指す。

 

 途中、大津へと入った所で丹波国亀山城を発した援軍が明智軍本隊を同地で待ち、合流してきた。その先頭を行く騎乗の集団に目を止めた藤田行政が馬を走らせその騎馬の列に並んだ。

「若大将が来られましたか」

「はい。妻木広忠つまぎひろただが私が行くべきだろうと言われました」

 妻木広忠は亀山城の守兵三千の内、二千を割き明智光慶あけちみつよしに付けて送り出していたのである。


 此度の行軍は妨害もなく順調に進み、昼前には安土城下へと達した。

 明智の兵達は初めて間近に見る安土城の壮大さに息を飲み、山頂に聳え立つ華やかな城郭と輝く天守を見ながら歩き続けた。

 広大な無人の廃墟となった城下町を抜けた明智軍は、安土城の南へと回り大手門から入城を開始した。

 

 本来ならば兵士は皆城の最下層の曲輪か城外に仮小屋を設けてそこに駐留するのであるが、兵を遠く分散させる事は命令の伝達や統率に不備をきたす為、大手道に沿って建てられた武家屋敷群とその周辺のみに全軍を配す事に決め、本丸及び二ノ丸と大手道より上の屋敷への兵の立ち入りを禁じ、特に本丸と二ノ丸は厳重な警備を行った。

 武家屋敷をそのまま仮宿舎として兵達に使わせる為、当然兵達の目は屋敷内の品々に向く。

 命なき略奪は軍規に照らせば重罪、この非常時にそんな事で兵を罰したくはなかったので、戦に支障にならぬ程度の物であれば家屋敷の略奪は許可すると明智光秀は皆に通達した。

 安土城は明智軍が来なければ野盗に荒らされてもおかしくない状態であった。それならば自軍の兵士の士気を高めるためにそれらを利用した。

 そう思えば良いと明智光秀は割り切ったのだった。

 その後、明智光秀は再会した宿老三人に労いの声を掛け、そして明智光慶にはこれからは重臣達と共に評定や軍議に参加する様にと命じた。


 明智軍の安土城入城を見届け、それと入れ替わるように蒲生賢秀がもうかたひでは安土城の守兵三百を連れ退去したが、それでも二十人程が城に留まると決め織田信長公の警護を志願した。

 その中には安土城の作事奉行を務めた木村次郎左衛門きむらじろうざえもんの姿もあった。彼等の織田家への忠義心が買われ、本丸天守警備の任がお鍋の方から与えられた。


 入城した明智軍を天守閣から見下ろすお鍋の方に明智光秀が軍の到着を報告し、そして一つの願いを申し出た。

「織田信長公を救い、勇敢に戦った将兵に何らかの恩賞を賜りたいのです」


「そうですね、城の宝物庫を開く事を許します。兵達に十分報いてあげなさい。

 蔵の中のものは全て光秀の思うがままに使うがよい。綺麗事だけで全て丸く収まるとも思えぬ。その時にも役立つでしょう」

「奥方様の心遣い、この光秀決して無駄には致しませぬ」


 明智光秀は宿老の三人のみを連れて二ノ丸地下に隠された安土城の宝物庫の扉を開いた。

 お鍋の方は中の物は全て思いのまま使えとそう申したが、彼女自身どれ程のものがここに眠っているのか知らなかったのであろう。

 明智光秀の目の前の光景は、彼の予想を超えていた。


 何層にも敷き詰められた莫大な黄金。壁面に沿って積まれる大きな木箱の全てに黄金の板や銀の粒が詰まっている。

 蔵の入口から一見するだけでこの量なのである。織田政権の力の源となる富の礎がそこにあった。


 明智光秀は兵達の恩賞に必要な金銭の確保に蔵の奥にまで立ち入る必要は無しと判断し、入口そばの木箱を選定して運び出すのみに止めた。


 銀の粒の詰まった箱が明智光秀の命で二ノ丸の敷地へと積み上げられる。

「皆喜べ、織田信長公が皆のこれまでの働きに対して恩賞を下さるぞ」


 斉藤利三が長い大手道の石段を駈け下りながら触れ回る。

 各将より配下の末端の兵の一人に至るまで破格の銀が手渡されていく。

 一般的な貨幣は銅銭であるが、これがその何倍もの価値のある銀かと、その粒を空に掲げて眺めたり歯で噛んでみたりと、恩賞を手にした兵達のおかしな光景が城の随所でみられた。


 恩賞に沸き返る兵達の間を、お市様が護衛の者数名を連れながら歩き、目を止めた兵にねぎらいの言葉を掛けて回った。

 大名家の姫君を遠目に見ることすら叶わぬ身分の者が殆どである。

 直接お声掛かりを受けた者は、それが織田信長公の妹君であると知ると直立姿勢で感激していた。


 この恩賞に預かったのは明智軍だけではない。

 京から駆けつけた筒井軍、明智軍の入城を聞きつけ近江諸城、若狭からも様々な思いを持った者達が集まり、彼等にもそれは配された。


          *          *


 兵達の歓喜の声とは裏腹に明智の重臣達の顔色は一様に険しかった。

 安土城にいるはずの織田家譜代衆が逃げ出し、安土城はほぼもぬけの殻であった事で、織田信奈公を擁して明智謀反の嫌疑を晴らすという第一の目的が果たせなかったからである。


 謀反人明智光秀を討とうとする織田の重臣達との戦ありきの方針に転換せねばならず、明智軍の軍力拡大と北と東からの攻撃に備える為に近江国侵攻についての評定をすぐにでも開かねばならなかった。


 帯曲輪で天守と繋がる本丸の天守東側に建つ屋敷を評定の場として、明智光秀と三宿老、明智光慶、筒井軍を率いる井戸良弘いどよしひろ、明智に恭順の意を示した近江衆の山崎片家やまさきかたいえ多賀常則たがつねのり小川祐忠おがわすけただ京極高次きょうごくたかつぐの声に応え若狭国から手勢を率いて来た武田元明たけだもとあきがこれに参加した。

 特に武田元明の若狭国は既に織田の重臣丹羽長秀(にわながひで)の統治下にあり、没落した若狭武田家の再起を期しての参陣であった。


 この屋敷は天守と同じ金箔瓦の建物で、集った者達の殆どがその優美さに圧倒され目を奪われていた。ここに座するだけで天下人になったと錯覚しそうな趣がある。

 明智光秀が彼等をこの場に集わせたのは、最上の礼を以て彼等を迎えるという演出の一つでもあった。


 明智の武威に降り恭順の意を示した近江衆がまず驚いたのが、織田家に反旗を翻したと思っていた明智光秀が織田信長公を京にて救い出し、彼を擁してここ安土城に入っている事であった。

 明智軍は織田家の為に動いている。それを知り彼等は安堵の溜息を漏らした。

 反対に明智光秀を通して織田によって奪われた利権の回復を願った者達の心境は複雑であったが、明智光秀が事が収まった暁には彼等を厚く遇すると約束すると、織田家に恩を売る良い機会であると納得し、明智光秀の下に付いた。


 ここではまず、今現在織田家中で置かれている明智の謀反人としての立場と、近江国侵攻の必要性を明智光秀自身が説き、その了承を得ると当面の目標となる佐和山城攻めが検討された。

 未だ明智光秀の呼びかけに沈黙を守るその城は、重臣丹羽長秀の居城でもあり、越前国へと通じる北国街道と美濃国岐阜城へと通じる東山道を押える要衝でもある。


「近江国攻めの総大将には斉藤利三が当たる」

 明智光秀のこの言葉に他の宿老、明智秀満と藤田行政は異論を唱えなかったが、そこに居合わせた諸将は互いに顔を見合わせた。

 彼が明智家の重臣である事は承知しているが、その下で働く事に彼等は難色を示した。

「明智光秀殿が我らを率いて戦って頂きたい」


 言い分はもっともであるが、ここは彼等を説得せねばなるまい。明智光秀は立ち上がり彼等に向けてこう述べた。

「私が斉藤利三の指揮の下で戦えと命じられたならば、喜んでその先鋒を務めるであろう」

「明智光秀殿がそれ程に申されるのか、ならば我ら斉藤衛三殿に従いまする」

 織田家中の者で無い京極高次、武田元明の二人が納得したので、他の者もそれに従う意を示した。


 総大将に任命された斉藤利三が立ち上がり、佐和山城攻めについての策を語り出す。

 今日は身なりを見違える程に整えた彼は、いつもと違い丁寧な口調とはっきりした自身に満ちた物言いで知者を演じている。

 その顔には凡庸な人相を誤魔化す為に化粧まで施されていた。

 横に座す明智秀満なども斉藤利三のそんな姿を初めて見るのか、他の諸将と同じように驚いた表情をしている。


「近江国の平定は各地の主城となる四つの城を落とせば、それに属する支城は降伏するか兵は四散するでしょう。ですからまず目標とするのは佐和山城、長浜城、山本山城、大溝城です。

 佐和山城の丹羽長秀と大溝城の津田信澄つだのぶすみは共に大阪にあり城主不在、現在我が殿が津田信澄の説得工作を行っており、その攻略は最後とします」


 斉藤利三の説明の最中も、この豪華な室内の内装や調度品に目を奪われ心落ち着かぬ者もいる。斉藤利三が咳払いをして彼等の注意を自分に向けた。


「佐和山城は今夜の内に夜襲を行い落城させます。その為にまず山崎片家殿とその手勢に佐和山城内へと入って頂きます」

「山崎殿を簡単に城が受け入れるでしょうか?」

「山崎殿の城に明智軍の旗を立てます。そうですね、煙でも少し焚いてみせましょうか。それで城が明智軍に攻められた山崎片家殿が逃れて来たと思うでしょう。山崎殿は安土城の城番衆の一人でもあるので城方も信用するでしょう」


 斉藤利三の策に集まった諸将は納得し、佐和山城攻めはこのまま進められる事となった。

「もう一つ、逃げた佐和山城の兵が北の長浜城に逃げ込むのを防ぐため、長浜城方面への道を重点的に封鎖したいのですが、どなたかその役目を担っていただけませぬか」


 後方地の封鎖では功にならない。唸る諸将の中で井戸吉弘だけが声を上げた。

「私が引き受けよう。我が主筒井順慶(つついじゅんけい)の裁可を仰がずの参戦は心苦しいが、功なく兵士達が恩賞を受けている。このまま手ぶらで戻るわけにもいくまい」


          *          *

 細長い鉄砲が火を噴くと、庭の奥に置いた小さな的が一つ弾け飛ぶ。

 更に素早い装填を終えると二つ、三つと的は撃ち抜かれていく。その少女の鉄砲の技量は雲一つ抜けていた。

 明智光秀の驚く顔に、鉄の反面を被った少女は眩しい日差しに目を細めながら、少し得意げな顔をしてみせた。


 明智光秀の目を引いたのが、彼女の付けている面。

 銃床を面の頬の凹みで固定し、発砲時に吹き上げる火花から顔を守るというもので女人らしい工夫である。

 それに彼女の持つ鉄砲も軍用に使われる種子島たねがしまと呼ばれる物とは随分と形状が異なる。

 その特徴は細く軽く、弾も小さく使う火薬量も少ない。小筒の様な雰囲気を持つがその銃身が異様に長いのである。

 それがこのつばめと申す少女の技に力を与えているのかもしれない。


常世国とこよのくにという」

 燕は鉄砲をこちらに掲げて答える。その鉄砲に彼女が付けた名らしい。

「今は日差しが強い。陽が陰ればもっと上手く的に当てることが出来る」



 本丸での軍議を終え、二ノ丸の織田信忠様の屋敷を仮の居とした明智光秀の元へと藤田行政が燕と弥助やすけを連れて現れ、光秀を屋敷の庭へと連れ出すしまずは彼と弥助との棒打ちでの立会いを見せた。

 藤田行政が本気で打ち込む棒を弥助は打ち払い反撃までして見せる。

 見事な弥助の剣術を披露すると、今度は燕に鉄砲を扱わせ、庭の隅に的を並べてそれを撃たせたのである。

「弥助もその娘も手練れである事は分かった。伝五、お主は何を言いたいのだ」

「この二人を明智の者として私が預かりたく思い、殿のお許しを頂きたく」


 この数日で娘にどのような変化があったかは分からぬが、坂本城での事の顛末は明智秀満より報告を受けている。

「それを決めるのは伝五、お主ではなくその者達だろう。まずは二人の言葉を聞いてみたい」


 言われて見ればその通りだと、藤田行政は燕の気持ちを殿に述べよと耳打ちすると、燕はそのままの姿勢で語り始めた。

 それは藤田行政の思っていたものとはかけ離れていた様だった。


「父様と仲間達は京の二条御所で明智と戦い死んだ。母様の仇討ちで父様は織田信長を殺すことに関わったのに違いない。だから父様が死んだ事は仕方のないことだと思う事にした」


 燕の口調が強くなる。

「だが仲間達は皆、役目を終えて故郷の家族の元に戻ることをいつも楽しみにしていた。織田に敵対するつもりも明智と戦うつもりも彼等にはなかった。それをお前達は殺したのだ」


 燕が弾を込めたままの鉄砲で明智光秀を狙って構える。

「だから許せない。明智は私の敵だと思う気持ちは今も心の中にある」


 藤田行政が刀を抜いたが、横にいる弥助の棒に打たれてそれは地面に落ちた。弥助が口を開いた。

「私はこの燕と共に行く。私の友を殺した者達を探すつもりです」


 燕が明智光秀から銃口を外して近くの灯籠へ向けて発射した。反面の仮面を取り明智光秀の方に向き直る。

「あなた達が、明智が憎かった。でも皆が死んだのは明智と戦えとそう仕向けられたからで、妹を殺した者達がまだどこかにいると知った。それを命じた頭を見つけて殺す。そう私は決めた」


 復讐。齢十三、十四歳の娘が口にする言葉ではない。

「お前達だけで一体何が出来るというのだ」

 冷たく突き放す様な言い方だった。燕の体が震えその顔が曇り、呻きは小さなしゃくり声に変わった。


「お前達が憎い。皆を返してくれ」

 鉄砲を手放し、泣きながら明智光秀に詰め寄ると、彼女はその小さな手で光秀の着物を掴んだ。拳に込めた彼女の力がこの胸に伝わる。


「私は誰を憎めばいい。どうすればいい」

 言葉は嗚咽に混ざり聞き取れない程の叫びになった。

 これまで明智は燕にとって敵以外の何者でもなかった。しかし此度の京での事件は彼女の境遇を劇的に変えてしまった。

 敵であるはずの明智に迎えられ、未だ姿の見えぬ新たな敵の出現に、怒りと困惑で振り下ろすべき拳の行き場を失っているのだ。

 彼女の姿は今の明智の境遇にも似ている。

 明智光秀は両の腕を伸ばしていた。燕の体はそのまま自分にすがりつき、腕に力を込めて彼女を抱きしめるとただ彼女は泣いていた。

 細く柔らかな体だった。小さな温もりに混ざり火薬の臭いが感じられた。

 遠い昔の懐かしい感覚、出会ったばかりの頃の妻煕子(ひろこ)の香り。


 しばらくな泣くと、落ち着きを取り戻したのか燕の方から明智光秀の抱擁から抜け出した。目を擦り残った涙を拭うと、照れくさくなったのか少し白い歯を見せた。

「この光秀に何を求める?」

「何もいらない。自分と弥助だけで敵を見つけ出す」

 

 娘の目に固い意志が感じられた。真っ直ぐな気持ちを放つ大きな瞳。

「妹の仇を討ったら、今度は私を殺すか」

 燕は少し笑った様な気がした。

「今はそれを考えない。私は明智を好きになっているのだと思う」


 言い終わると鉄砲と仮面を抱え、燕は小さく礼をしてから屋敷を後にした。弥助も燕の後に従う。まるで二人が主従の様にも見えた。

 燕はただその感情を自分にぶつけてきた。互いに言葉を交すにはもう少し時を置いた方が良いのだろう。


 藤田行政が地面に落ちた刀を拾い上げて自分に手渡し、今の失態の処分は如何様にもと平伏する。

「あの娘、言いたいことを口にする。だが気持ちは伝わってきた」

 刀を藤田行政に返し彼の肩を叩いた。

 明智光秀に許された藤田行政が顔をしかめながら首を傾げる。

「許せないが好きとは、分からぬ」 


「燕と我らには共通の敵がいるという事だ。我らは本能寺襲撃軍を京にて壊滅させたがそれで終わりではなかったのだ。報告通り比叡山に生き残りを集めて口封じに始末した者達がいたという事はそれを意味する。何者かは分からぬがそれにも手を打たねばなるまい」


「殿があの娘を気遣うのは何故ですか?」

 藤田行政の問いには少し恥ずかしさを覚えた。

 出会った頃の妻の煕子と姿が重なった等とは口が裂けても言えない。その話題はあえて無視して明智光秀は藤田行政に与えるべき使命を伝えた。


「伝五、お主には大和国の筒井順慶殿への使者となってもらう」

「私に務まるでしょうか」

「お主が適任だろうと思う。筒井順慶殿に小細工は通じぬ。伝五の愚直さが誠意と映るはずだ」


 明智光秀は兵達の駐留する大手道の方に視線を向けた。

「あの二人、燕と弥助はどこで過ごすのだろうか」

「比叡山から戻ってよりは兵の中に混ざり飯を食らい語らっております。兵達の間ではちょっとした有名人でもありますからな」

「不思議なものだな。我らは敵だ味方だと仰々しく分けてしまうが、敵味方の境など実はほんの些細な事に過ぎぬのではないか」

「そうですな、私もあの娘は嫌いではない」


 藤田行政は岩のような顔のまま、頷いていた。 

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