11-1 宿主、寂しい読書っ子
前後編の前編です。後編は夜に更新です。
寂しい。
お父様はお仕事、お母様もお仕事。でも知ってる。お父様はお母様と違う臭いがするの。お母様もお父様と違う臭いがするの。知らない人の臭いがするの。
家のみんなは優しいけど、遠いの。お本を読めるようになったら、もっと遠くなったの。お本は楽しい。けど、寂しい。みんなが内緒で弟や妹って言うけど、会ったことないの。
お母様がずっと居なかったときかな? お父様は気にしてないの。弟や妹がいるなら会ってみたいな。でも知ってるの。
弟や妹は違う家族なの。
寂しいな。
* * *
子供は7歳程度からスライムを寄生させる。体が小さくて受け付けるのが大体7歳程度だ。小学生に進学した程度だろうか。その初めてをいただきました! 女の子だよ。あー、今ならロリコンと呼んでもいい。
久々に1年を無駄に汚物処理施設で過ごしたぜ! ストーカーな魔法少女も諦めたのか、全うにスライムライフを送ったが、寄生できるって幸せ。雰囲気の違う汚物処理施設だったから、魔法少女も来れない程の遠い国だったのか?
まあいい、今世だ。
この子、日中ずっと本の虫だ。まあ、プロローグ通りに泥々の家庭のお嬢ちゃんだ。家庭教師がいるのでいいとこのお嬢様っぽい。だが、泥々だ。愛に飢えてるよ。不倫の子に愛を求める程度には飢えているよ。
なので。
「これなんて読むの?」
(んー、ん? 何で雷神竜脚? この本、どうしたの?)
「ほわー、天に昇るおっきな蛇なの?」
(比喩表現だな。続きに「かのような雷が昇った」ってあるだろ)
「ほんとだー! すごいすごい! 雷さんは怖いけど、かっこいいねー」
(本のタイトル、何?)
「「竜脚の勇者」だよ! 最近ね、勇者の国から届いたの。もう1つ「その武道大会、伝説の序幕」ってのがあるよー」
おおう。監修が公爵に王宮と。伝播するのが正確で早いと思ったら物語にして真実を布教していたか。盛り上げが過剰だがちゃんと嘘はついていない。
竜脚の勇者は助けられたお嬢様の心境が多過ぎて恋愛小説だな。逆に武道大会の方はバトル小説っぽいな。戦いの描写が本人インタビューを元にされているから、対決時の葛藤が描かれていて感情移入できるいい小説だ。
「あれー? スライムがいなくなったー? あっ! スライムさん、また先に読んだでしょ! 透視禁止ってー!」
(外が見えないから仕方がないだろ。透視は僕の目なの)
「ネタバレ? は、禁止だよー」
(ああ、ネタバレどころか登場人物の1匹だがな)
「んー、後で聞かせてね♪ 今は本を読むの」
(分かった)
○ ○ ○
この幼女、才能の塊だ。
元々が『武芸百般』という武術を目指すものが欲しいギフトを抱えている。僕が手に入れたら、『剣術+8』、『棒術+10』、『投術+10』、これらと統合して『武芸百般+10』と破格のギフトとなった。魔法少女に持たせたいな。
更に幼いながら魔力が潤沢だ。時々寝込むのも魔力の放出が間に合わずに疲労するからだ。なのでギフトを盛って意図的に魔力を消費させている。基本的にはパッシブの『身体能力強化(統合)』と『魔法能力強化(統合)』を盛っているがもう少しで間に合わなくなる。成長が早すぎる。
更にセンスが鋭い。感情の機微に敏感な不遇な環境のせいだろうか。自分を律する事に長け、僕のギフトをスキルへと昇華しても表には出さない。メイドや執事、家庭教師も気づいていない。両親? 触れもしない親なんて気づく筈もない。
(読書っ子よ。抑えるのも限界だ。次のステップに移るがいいか?)
「寝込むのは嫌だから、いいよー」
(勇者シリーズが好きだから、勇者目指す?)
「んー、竜脚のお嫁さんが好き」
竜脚の勇者シリーズは全3冊で、2冊目は身分差と年齢差の恋愛慕情、3冊目は母親の協力で駆け落ちの後に結婚。あー、細マッチョ、捕まったか。にしても駆け落ち先が貧乏王国ポーヴァティーかよ。まあいいけど。
その武道大会シリーズは好評の7冊で続くらしい。毎年の年末武道大会の様子がストーリー仕立てで書かれており力作のバトル物だ。3冊目以降の通称勇者vs魔法少女の決勝は圧巻だ。この戦いは6冊目からは決勝の後のエキシビジョンマッチとして別冊になってる。別売りなのだ。商魂逞しい。
何故かエキシビジョンマッチの今冊は王宮騎士団長が奮闘していたが、これはこれでアリだ。
(そんなギフトはないな。近いのは『称号「悠久の女」』で自分を磨くって事か? あれって魔法の射程が極端に短くなるが、どうする?)
「んー、んー、うん! それがいい♪」
(理想の女性像に見た目も変わるな。今でも可愛いから変わる必要もないか)
「うっふふー♪」
○ ○ ○
7歳でも女。女の子と侮っていた。
「穢れた娘を産んでどう言うことだ!」
「あなたの種が悪いんでしょ! あっちの女の子供もさぞかし醜いでしょうね!」
「ふざけるな! お前こそ爛れたゴブリンを産んだんだろ!」
「何ですってー!」
読書っ子はゴブリンに寄せた。自身の体を化け物に似せたのだ。両親も流石に気づく。これで気づかないと病気を疑うよ。
「「捨ててこい(きて)!」」
読書っ子は僕が宿ってから5ヶ月目で森に捨てられた。殺されなかったのも死体が残るのを恐れ、呪いを恐れたからだ。
読書っ子は無一文の宿無しになった。
○ ○ ○
あら不思議。半日程度で元に戻った。2週間はかけて徐々に変質したのに治るのは直ぐだったな。
「スライムさん! 私って嘘つきなの!」
(そうだな。止めなかったが、お嫁さんを狙う変化じゃ無かったな)
「魔法少女になるわ!」
(えっ!? ストーキングするの?)
「んー、ダーリンって言うよりお父様? そう、パパだー!」
(僕は過去にいっぱいスライムを産んだが、とうとう人間の養子の娘ができたか。スライム人生は波瀾万丈だな)
「パパ。サバイバルだよー♪」
うーん。7歳の幼女が社会を捨てたか。早熟な考えの賢い子だと思っていたが、思いっきりの良さは子供な大人だよ。どうすっかな? この子、早熟すぎて力を使うと寝込むから保護者は欲しい。
「じゃーん♪ 困った時の愛のストーカー♪ 貴方の魔法少女が来たわ!」
「おぉー! 黒赤しましまの毛皮のドレス! 本物の魔法少女だー!」
(展開が美味しすぎる。謀ったか?)
「「さぁ?」」
ここって今更だが貧乏王国ポーヴァティーの北の小国、アルンバレスって言うんだよ。そう、普通にウェルスレラ王国に帰ったらこんなに早くは来れないんだよな。
あれか、スキル『ストーキング(ダーリン専用)』か。
「この展開は保護者必須ね!」
「そうなの! パパは私を心配してるの! 助けてママ!」
「いいわ! 今日から貴女のママよ!」
「わーい♪ ママー♪」
ひしっ♪
(この茶番はなんだ?)
「「さぁ?」」
ご都合? 僕のせいじゃない! ストーカーとストーカーをママと呼ぶ幼女、この女2人が悪い! さて解決パートだ。正直に白状しなさい。スライムは怒らないから。
「私はダーリンと別れてからはダーリンの反応を待っていたわ。正直、今回は結構前に特定できたの。前回は空振り。その後に娘の身辺調査で、ダーリンをきっかけに動くと踏んだわ。半分は女の感ね! 森に入るなんて環境は動いた証拠だから現れたわ!」
魔法少女、恐るべし。まあ、僕を尊重して直ぐに突っ込まなかった忍耐は誉めるべきだろうか? 自然と娘認定してる。
「私はママが近くにいると思ったの。パパが徐々に私を鍛えていたけど、限界があったみたい。だから、ママに迎えに来て貰えるように動いたの。半分は女の勘なの。殺されそうならあいつら殴って逃げる予定だったの」
幼女、恐るべし。5ヶ月もの間、プロローグすら騙すなんて怖い子。自然とパパとママが固定してる。本物は殴る気満々だったのね。
(はぁーーー。で、どうする? サバイバルより旅に出る方がいいか? いや、読書っ子が疲弊するか? んー)
「とりあえずは町を離れましょう! 農村にでも身を潜めて考えるべきよ。娘の顔は分かる人にはバレるわ」
「ごめんなさい、ママ」
「いいのよ。ママはサバイバルの達人だから絶対に飢えさせないわよ」
「ありがとう、ママ♪」
ひしっ♪
あー、とりあえずは逃避行は決定だな。
スライム歴 10年12月~11年12月~




