10-2 宿主、捨てられない貧乏文官の話だった筈
前後編の後編です。朝に前編を投稿しています。
「ジャメッシュ王。魔法少女が銀鉱山の周囲を駆逐しました」
「んあっ? あいつら帰ったんじゃないのか?」
「情報では「ラヴラヴ旅行」らしいです」
「んで、駆逐って、何をだ?」
「未開発のクリーチャー集落があった採掘予定地を含むクリーチャー全てです」
「あの辺って人里ねえだろ? 何で生きてんだよ」
「サバイバルが得意、との情報ですね」
くそっ! また仕事が増えた! 銀は欲しいんだよ。腐るほどな。おっさん商人とか言うやつが裏で動いてるってのは知ってる。統率なき寄付を束ねて損させないようにこっちに食料を送ってやがる。
銀鉱石でいい。対価が必要なんだ。なんで支払いの方が遅れてるのに物がどんどん流れて来るんだよ! 被害国も日々甘い声をかける。誘惑ではない。怖いくらいに優しいんだよ。
「人員を送れ! 先ずは調査を「終わってます」……なんでだよ?」
「正確には怪しい場所はハートにくり抜かれています。魔法少女の仕業でしょう」
「あー、いいように調整してくれ」
「はい。そのように」
この国は誰が運営してるんだよ! くそっ!
* * *
(すらっいむー!)
「ダーリン? もしかして……くしゃみ?」
(あー、何か貧乏な王が文句言ってる気がする)
「やけに具体的ね。あと3ヶ月ってところよね。次はどうしてほしい?」
(いいのか? 時間が短いのに我が儘を聞いてもらって)
「ダーリンの心に残るには手段は幾らでもあるわ。ダーリンの我が儘を聞けば私を忘れないわ。じわじわとダーリンの心に移住してるのよ」
魔法少女が怖いな。国崩しで6ヶ月。銀鉱山調査で3ヶ月ってとこだ。あと3ヶ月も残っているが、3ヶ月か。
この国は周囲を6つの国に囲まれた小国だ。関税は国を潤す重要な財源だな。輸入スライムとついでの食料の支払いはこの銀鉱山で払えるだろうと考えて次のステップは関税をしっかり確保か。
他5つの国は、国の単位で見れば微量であれど全て被害国だ。一番の被害国は北の小国だ。ウェルスレラ王国は大国だが、この国を経由しないと北の小国とは貿易が難しい。山を越えるのは大変だからな。
北の小国の魅力は海。塩だ。ウェルスレラ王国も海に面してはいるが、広すぎて国内で賄うより、北の小国に近場な立地は輸入の方がいい。このラインの確保が最重要か。
(北に向かう)
「おーけー♪」
(基本はクリーチャーの集落潰しだ。物流の脅威を減らす。今世はこれで終わりそうだが、本当に……)
「いいわぁ♪ ダーリンが私に頼って、ダーリンは私に気を咎めているわ。これで更にダーリンの心に私が住み着いたわ♪」
魔法少女はヤンデレに進化したか。忘れられるのは嫌だが、ここまで執着されると怖いよ。20も中頃に近づいた女性が、スライムと添い遂げた、と言い続けるには痛いと思うぞ。
「れっつ、ラヴラヴ旅行~♪」
(……おー)
○ ○ ○
距離はそこまで離れてはいなかった。ウェルスレラ王国と北の小国を遮る山脈の一部が銀鉱山だ。この国から東側のウェルスレラ王国側に発展した鉱山都市を抜けて、西に進み、首都を抜けて、北へ上る。これが予定ルートだ。
東側の街道はこの度の大行進で結構なクリーチャーが倒されている。一般人が大半だし、物資が流れるので護衛も仕事する。ウェルスレラ王国内では勇者が道中のクリーチャーを駆逐したと自慢があったので新人坊主も動いたようだ。越境は影響が大きいので遠慮したのだろう。
東ルートは大丈夫。荒れた北ルートがどうなってるやら?
「ダーリン。歩きにくい」
(街道がボロボロだな)
戦争中期までは補修していただろうが、末期は使うだけ使って痛めている。雑草も所々茂り、デコボコの路面。こっちは手を出すと時間がかかるな。そして、不衛生極まりないのが。
「臭い」
(戦死者もまともに弔ってないか。それとも戦争奴隷にしようとして途中で捨てたか。どちらにせよ放置はよくないな。済まんが……)
「おーけー♪ 弔いの炎ー」
妙に手慣れている。しかも専用魔法のようだ。ハートに描かれた内側しか燃えていない。森林火災は貧乏国家に痛いからと思っていたが、丁寧な作業をするな。
「ゴブリン狩ってたら公爵に怒られたのよ。町の周囲には死骸を放置するなって。獣を呼んじゃうからね」
(……納得。説明ありがとう。それと数件は被害出したんだな)
「…………えへっ♪」
可愛いから許す。暫し待てば骨のみに燃やした躯が転がっている。冥福を祈る。あー、臭いは? スライムノーズには臭いは反応しないんだ。スライムに鼻は無いと思う。
「大丈夫よ。風を送ってかなり上まで巻き上げてるから。じゃないと魔力の消費も多いのよ」
(ほう。火は風で燃え盛ると学んだか)
「ダーリンが肉焼くのに教えてくれたじゃない! もう!」
あー、射程がゼロの時に薪に火を付けてたな。肉が焼けるのに時間がかかるから教えたっけ? 今は射程が3m位か。成長してるな。
「ぽよぽよも熟してるよ。ダーリンの為に成長してる♪」
非戦闘時には称号「美人」を付けたがる。僕のことは一番の理解者でありたいようで、僕も調子に乗ってコレクション自慢した。で、スライム好みに成長中。特にぽよぽよが成長期。谷間に埋もれる幸福。ヤバい。魔法少女の策にハマってる。
「これはダーリン専用だよ♪」
(……ご馳走さま)
「はい♪」
○ ○ ○
やはり街道近くに小規模のクリーチャー集落が出来上がっていた。道に肉が落ちていればゴブリンを筆頭に獣も寄る。食い荒らされて腐敗も進む死体を火葬しつつ北へと進む。
「すれ違う人の目が嫌らしい」
(魔法少女は美人だからな)
「ダーリン専用だよ! 殴りたい」
火葬しながら進めば歩みは遅い。食料も現地調達で、ゴブリン集落も潰す。追い抜かれるのは必然だが、魔法少女が美人になっていく。称号「美人」の効果が傾国の美女を生む。手を出すのは警告の美女。うーん、おじさんジョークも冴えないな。
「ねえ。鑑定して。ダーリンに失望されないように頑張っちゃった」
(どれ)
魔法少女はギフト『称号「魔法少女」』を『称号「悠久の女」』に昇華した。
(ギフトって成長するのか)
「ダーリンと一緒だからかな? 普通はギフトは複数ないわ。だからこの間に死ぬまでダーリンを癒すの体を求めたの」
魔法少女と美女の合作。要は寿命があるが老けない魔法少女になった。もう少女って言うには微妙な年頃だったからいい変化か。おう。僕のコレクションも統合されたよ。美容に最適なギフトだね。ん?
魔法少女はスキル『ストーキング(ダーリン専用)』を覚えていた。
(これって予測の発展?)
「ダーリンに関しては巫女より精度高い筈よ♪」
(それで笑顔で泣いてるのか)
「別れるのは嫌。でも追いかけるわ!」
(報いることが出来ず済まん)
「いいの。ダーリンの方が辛い人生よ。いつか人間に戻す術を……」
(ジェシカ。お前を生かせたのはスライムだからだ。この生に悔いはない。人間に戻す術より、僕を殺「嫌よ!」……そうか。なら僕の来世で会おう)
「うん。行ってらっしゃい、ダーリン」
淡い口づけで今世は終えた。
* * *
「北への街道の安全が確保されました。定期的には見回りが必要ですが、魔法少女がハートの道を作りました」
「突っ込みは不要か?」
「ジャメッシュ王には近々詫びをお願いしたいので安全の確保は優先でした」
「あー、掘っても掘っても銀が足りん!」
「1つ朗報が」
「何だよ!」
「ミスリル鉱山が見つかりました。手土産に最適です」
「あー、頼む」
「はい。着手しています」
「命令だ。王を変われ! お前って優秀過ぎだろ。飾りの王より優秀な王が必要なんだよ」
「いえ、私に欠けるものがあります。民を憂い慈しむ心です。私は実利優先ですので求心力に欠けます。王は貧乏でも他者を優先します。穴の空いた城が物語ってますね」
いやさ、住まい大事だって。風通しよくても屋根の有無は違うだろ。復興の方が優先順位高いさ。とりわけ、来客の宿は必須だ。せめてもの休める場所は提供しないとな。それでなくても支払いが十年単位で滞ってるんだ。生涯、貧乏だよ。
「くそっ! 手土産、急げ!」
「はっ!」
で、あいつ誰だよ。別格の品位がある奴なんてこの国にはいないぞ。間者か? まあ、この国で何が奪われようと惜しむ物はないな。いいように使って、いいように使われてやるよ。属国、上等。飢えなきゃ勝ちだ!
* * *
「お嬢様。逃亡先は目立ちますね」
「それに貧乏ね。ふふ。幸せよ」
「旦那様に筒抜けですし、私も手紙は出しています」
「いいじゃない。引き留めなかったわ。あっ、この書類、優先して」
「了解しました」
「あっ」
「何ですか?」
「動いた♪」
「……孫は見せないとな。はぁ、このおじさんの何処が良いのか」
「竜脚の勇者、ゲット♪」
「まさか奥様と共謀して屋敷で襲われるとは。スライムの騒動で無理矢理出たが、一発妊娠だもんな。次はゆっくりと楽しみたいもんだ」
「女の欲は甘くないわよ♪」
スライム歴 10年6月~10年11月
エピローグ 10年11月




