表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/22

10-1 宿主、捨てられない貧乏文官

前後編の前編です。後編は夜に更新です。

 クソが!


 国境は封鎖、兵糧として強制接収、対価が死にかけの奴隷。奴隷に食わす飯すらねえのにどう使えってんだ!


 人が居れば食料が湧くとでも思っているのか? んな訳あるか!


 いや、まだ対価があるだけマシか。噂じゃ強制接収で潰れた村は数知れず。なのに戦争は終わらねぇ。国を潰す気か!


 まあ、国に思い入れはねぇ。俺()が食えればいいんだ。


 そう、食えればな。クソが!



  *  *  *



 はい、戻ってきました、隣国へ。どうも戦争は佳境らしいです。敗戦濃厚で殺さずが続いております。攻められてる国は押し返すのみで略奪はしていないらしい。しかし、こっちは略奪出来ないので枯れそうだ。


 んで、友好国の国境付近の村を襲っちゃったわけ。もう逆鎖国。周囲を国に囲まれた小国であるから物流が止まれば、あら、国が潰れそう。


 移民も受け入れられず、ここの国って本当に死にかけてる。おっさん商人はギリギリのタイミングで出国できたようだ。じゃなきゃウェルスレラ王国の公爵家のお抱え鑑定士になってないよね。あの時にちょっとだけ話したよ。


 んで、今世だ。情報が多いのも統制が取れてないから。見たことあるっぽいような町だなーって思っていたら、ウェルスレラ王国の国境間際の町だった。おっさん商人が搾られたとこ。宿主はそこの文官だね。


 かなり荒れているのも、この町のトップはとっくに蒸発。抱えるものを持って国境警備の兵士とドロン。そいつらがウェルスレラ王国でどんな扱いを受けているかは知らない。宿主は金も食料もない町を切り盛りしている文官の1人だ。


 あー、1人だけだ。


 最後の貧乏クジを引かされたっぽいの。逃げ出すにも持っていくものは無し。だからと言って、地位が上がって国の中枢に入れたわけでも無し。無冠の支配者。この貧乏文官が今のこの町の統率者だ。


「町民は勝手するのに何が統率者だ!」


(いやな。そう説明するしか思い付かん)


「誰に説明してんだよ!」


(いやな。スライムって孤独でさ。エア友って必要じゃん?)


「何でこんな時にお前なんだよ! 何か策があるのか?」


(スライムは糞食って一生を終える寄生クリーチャーだ。何を求めてるんだよ)


「隣で色々してんの知ってんぞ! さあ、何かしろよ!」


 手札(ギフト)に町の救済はないな。残念。精力強化+10っている? おう、怖い顔。って言っても本当に何もないぞ。僕は個人単位で関わってるだけで、町の単位は無理。何千、何万、どのくらい生きてるの?


「さあな。町民の数の管理なんて今更出来るか! どんだけ出入りしてると……いや、どんだけ溜まってると思ってるんだ!」


 まあ、好景気なお隣さんは魅力だよね。でも、手を出したから入れてもらえないよね。街道以外で越境すれば生きている保証もないね。ゴブリンって何処にでも居るからね。で、難民で溢れてる。スライムが足りない町って初めてだよ。疫病が怖いな。


「なあ、案はないか?」


(お前一人なら密入国を目指せるが、貧乏文官って町の皆を見てるだろ? 僕にそんな力はない)


「ん? ああ、俺は無駄にこの町を考えていたのか。で、俺1人なら密入国出来ると?」


(サバイバルで道なき道を進むしかないが、クリーチャーと戦った経験は?)


「ねえな。あったら今にも肉を狩りに行くさ」


(密入国ルートわかる?)


「いや、突き返されている冒険者が多数いる。見回りが強化されていて越境のルートは不明だ」


(最終手段。僕を隣に売る。言い値で買ってくれるぞ)


「うぐっ! 言わないようにしていたのに。売ったら国境は越えれるだろうが、居場所があるのか?」


(僕は僕の価値を知らん。王とタメ口が許された程度のスライム。その程度の価値だ)


「バレたら殺されるじゃねえか! あっちの国民はスライムさんやスライム師匠は神聖視だぞ。売ったなんて知れたら……くそっ!」


 この優柔不断はどうしよう? 面白いから会話しているが、結局全てを捨てられない。町も、民も、自分も。唯一捨ててるのはこの国だな。


(なあ、賭けに出ないか?)


「どんな賭けだよ」


(クーデター)


「はっ? ははっ。おもしれぇ。1人クーデターかよ」


(お前の人望と俺の価値次第だな)


「あー、スライムさんよ。付き合ってくれるか? お前を利用する」


(いいだろう。今世は貧乏文官に任せよう)



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「何でウェルスレラ王国が動きそうなの?」


(いや、スライムが飢えてるから、国を潰すって言っただけじゃん)


「スライムさんが言うと各所が動いたぞ。あと、ご馳走さま」


(貧乏文官が飢えたら僕が飢えるんだ。いい国境警備の兵士だったな)


「ああ、久々に腹一杯だ。ってか、スライムの輸出まで決まったな」


(疫病怖いって。隣国が潰れる以上に怖いって)


「そうだよな。助かる」



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「うちの町が動いたぞ。少しの食料と少しのスライムで俺が称えられているんだが。スライムさんのお陰だろ?」


(いや、僕はもう表に出んぞ。お隣さんは貧乏文官が交渉したって事でいいじゃん)


「国単位を末端の文官が動かせると思うな!」


(ほら、追加のスライム配って。お隣は疫病怖いって)


「それって表の理由だろ。裏はスライムさんの為じゃねえか?」


(知らん)



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「ダーリーン♪」


「ウェルスレラ王国最高戦力の1人が居るんだが」


(気にするな。国には所属していない)


「用事が終わったら私に来てね♪ えっと、貧乏文官だっけ? 早く国を潰しなさいよ!」


「こええよ!」


(知らん)



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「ここってこの国の財源なんだが。鉱山と関税。その1つを奪うのか?」


(いや、スライムの対価。貰うだけじゃダメだろ?)


「あー、喜んで差し出してるな。ってか、物資が途絶えねえな」


「ダーリンへのご飯よ。国のじゃないわ。個人の物よ」


「統一性が無いのはそのせいか」


(ほら、受け取らない人に銀を押し付けろ。貰うだけじゃダメだ)


「くそっ! おーい、受け取ってくれー! 困るんだよー!」



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「無血開城ってありか?」


(着いてきた奴って戦えないのが大半だ。いい事だよ)


「ダーリンの道を開けろー!」


「あれは?」


(知らん)



  ○  ○  ○



「なあ?」


(何だ?)


「書類に忙殺されそうなんだが」


(知らん)


「国の名前って「スライムさん」でよくね?」


(今度はあっちと喧嘩するのか?)


「ダーリンを掲げていいのは誰1人存在しないわ!」


「こええよ。スライムさんよ、帰っていいぞ」


(ん? 終わりか?)


「ここからは俺の番だ。借りを返さないとな」


(いいなら、いいが。貧乏文官よ、王様って柄じゃないな)


「うるせぇ! 自分で理解してるから力を借りるんだよ! スライムさん以外のな!」


(ジャメッシュ、善きかな。魔法少女もしつこいな。婚期逃すぞ)


「ダーリンと添い遂げていますー。いこ♪」



  *  *  *



 結果を見れば、国の国民全てと、流入してきた隣の国民に圧殺された国だった。とても脆かった。


 いや、ウェルスレラ王国が「うちの民を傷付ければ戦争だ」なんて言われたら手が出せんよな。実際には見分けがつかないほどの数が一緒に進軍してくれていた。


 更に魔法少女が大きい。閉門された強固な城門が一撃だった。「ダーリンへの愛の重さよ♪ 潰えぬ愛の炎(アンブロッケン・ラブ)♪」なんて馬鹿げた名前の必殺技は、勇者の一撃に相当するらしい。納得の威力だった。城も風通しが良くなったからな。修繕費が、が、が。


 魔法少女が俺から離れないのが如実にスライムさんの存在を語っていた。もう巷では有名である「ダーリンに危害を加えるなら王すら殺す!」は不敬罪に問われていない。あの年末武道大会の決勝で王に直接言ったのだからな。隠しようがない。


 魔法少女が去り。スライムさんの存在は否定されているが。


「ジャメッシュ王。この度の損害を数年は留保するようです」


「マジか!? 被害国だろ?」


「あー、ウェルスレラ王国が一枚噛んでます。あっちの国庫自体は減ってないので世界平和とクリーチャー根絶を謳っての支援をしていますが……あー、スライム以外と言っている時点で隠せていません」


「くそっ! 何が万人を救えないだ!」


「どうされました?」


「あのスライムさんに文句言ってるだけだ! あと感謝な!」


「貧乏文官が王になった。汚名は否定されないのですか?」


「いいさ。名誉だ。国名は貧乏(ポーヴァティー)でいくぞ!」


「うわぁ。了解しました。新たな国名は各国に通達します」


 知らぬ内に王になった俺。やったことってスライムさんに唆されて色々と交渉してっただけだ。スライムさんを宿しているってだけで交渉も一言で万事解決のイージーモード。


 元の国の重臣達は一掃だ。ここまで傾きゃ「誰かを残して」何て選択肢はねぇな。全ての首は詫びと一緒に配る予定だが、これもイージーモード。信用してるとの言葉で終わる。スライムさんは去ったのにな。


 俺は通称勇者や魔法少女のような力は全く受け取っていない。スライムさんと出会う前と全く変わらないのに「貧乏文官への同情大行進」なんて語られてら。そう、皆に助けられただけだ。起爆剤が大きいがスライムさんは何一つ与えなかったな。


 スライムさんの言葉を借りるなら「貧乏文官はなにも捨てられないなら全てを捨てなければいい」らしい。


 この貧乏(ポーヴァティー)は名の通り貧乏だ。空っぽな状態からの再興だ。銀鉱山はフル稼働で損害に充てる。逆に関税はギリギリまで落として風通しを良くする。街道修繕のインフラに当ててうちを通る諸国を潤すのだ。


 全く貧乏脱出の先が見えねぇぜ。


 あー、今日も安飯がうめえ。

スライム歴 9年12月~10年5月

      エピローグ 10年6月

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ