09-2 宿主、倒産目前な鍛冶っ子
前後編の後編です。朝に前編を投稿しています。
赤字経営は継続中。一日一振り鍛造は5ヶ月目でようやく評価できる物が出来上がってきた。他の鍛冶屋の普通のショートソードには少し劣る。が、見事にはめているギフトの影響を受けている。
鍛冶っ子のギフトである魔法鍛造のせいだ。
ここ数本に予測が付いた。鍛冶っ子はいい商品にという思いで一打ち一打ちに予測を挟んで打ち込んでいたからだ。この予測、不確定な近未来視だ。技術的には先読みに近い。
前世の兵士「勇者」計画では、予測持ちが一番手だったので後に続く兵士にも予測を付けていた。予測を使えば、なんと先読み合戦。機微なフェイントの応酬。外から見たらモジモジ動いているようにしか見えないが、それを制すれば勝てる。勝てなくても優位に動けた。
稚拙ながら鍛冶っ子は魔剣を作り上げた。
そして鍛冶っ子はスキル『先読み』を覚えた。
5ヶ月目にしてようやくの開花。鍛冶っ子の打つ剣は全て、この先読みを付与できる。そう、鍛冶っ子は付与できるスキルを持っていなかったのだ。
付与とは選ばれた者の特権だ。魔法使いは多い。だが、魔法使いは付与を覚える者は限られている。巷の付与は2人組で行う。付与を持つ者と付与させる魔法を持つ者。だが、微妙な品が出来上がる。
両方持つ者は大抵歳だ。魔法使いの先に違う修行をして付与を覚える。付与とは技術職のスキルだ。技術職は付与できるスキルを得ても付与するスキルがない。技術職は魔法は学ばず、大抵は人を雇って2人3脚で行うのが多い。
鍛冶っ子の情報では「これだけで食っていける」と言うが、目玉商品には遠い。だって、先読みって熟練には案外と稚拙な小技だ。じゃないと予測の兵士は下っぱしてないよ。初心者用の魔剣。安売りするには大層な武器で、熟練には毛が生えた程度の効果。微妙だ。
「うー。スライムさんはスパルタだ!」
(見てきた人生の数が違う。まだ時間はあるんだ。上を目指せ)
「でも、一日一振りじゃ暇ですよ」
(なら、全部盛りで打つか)
「やめてー! 倒れるよ!」
(理想は全部盛りで全てをスキルへと昇華することだな。予測に重点を置いていたのを止める。魔剣の花形である魔法を付与するか、堅実な剣術を付与するか。どっちだ)
「私のスタイルだと魔法ですが、父親を慕っていた常連客は堅実で実直な剣を求めていました。先にお客さんが使いやすい剣を打ちたいです」
(適正的にはモノに出来るか怪しいが、次からは外していた称号の騎士と剣術を多めに付けるぞ。元から付けていたサポート用の魔法系もそのままだ。一振りで倒れるなよ)
「はい!」
○ ○ ○
「おっ。珍しいな。砥屋に剣が飾ってあるぞ」
「もー、鍛冶屋ですよ。最近の傑作です。どうですか?」
「ちょいと裏庭借りるぞ。振って考える」
「どうぞー」
○ ○ ○
一日一振り打って、一日一振り売る。予約はとらない。午後開店でお客同士で相談。値段のみではなく必要な人に売る。鍛冶っ子は機微な調整も『先読み』で行えるので日々違う剣となる。適正に合った物を売る。父親のスタイルを貫くのだ。
「スライムさんの嘘つき! 先読み、大人気じゃないですか!」
(おかしいな。王宮騎士団長には全くの意味無しだったぞ)
「うわぁー! 比べる人を間違えてる! 流石のスライム師匠です」
冒険者には命の保証になる先読み。ゴブリンの称号蛮族持ちやモヒカンは不意な動きが多い。それを見抜けるのは一刻千金の価値がある、らしい。怪我でリタイアは多いからな。
○ ○ ○
鍛冶っ子はスキル『適正調整』と『剣術指南』を覚えた。
これらは称号の騎士と剣術の鍛冶っ子昇華だ。適正調整はオーダーメイドに強い。予約は取っていないが鍛冶っ子が武器の消耗で次の客を選ぶスタイルが確立した。冒険者ギルドがバックに付いている状況にもなった。
人気が出過ぎた。貴族が動く前に冒険者ギルドが囲ったのだ。乱闘すると鍛冶っ子に迷惑がかかるが、一日一振り、更に成長中。品薄で鬼気迫る客が多数押し寄せてきたのだ。ヘルプ、と冒険者ギルドに相談したのが今の状況だ。
買い手は鍛冶っ子が決めて、冒険者ギルドがその順番を守らせる。いいバックができたよ。あと、鍛冶っ子が成長期に入った。
鍛冶っ子はスキル『二重付与』を覚えた。
鍛冶っ子はスキル『補助魔法「火・水・風・土」』を覚えた。
二重付与はその名の通り2つの付与が可能。補助魔法とはサポートに焦点を置いた魔法でパッシブスキルの類似スキルだ。
これによって2つの付与が出来、『先読み』『剣術指南』『補助魔法「火・水・風・土」』の6通りから選べる。『適正調整』でオーダーメイドなショートソードがフルカスタマイズで手に入るのだ。
○ ○ ○
「スライムさんはスゴいですね」
(いや、身に付けなければ僕が去ったら鍛冶っ子は飢える状況だった。よくモノにしたな)
「遅くなりましたが、お風呂も用意できましたよ」
(水浴びでいいと言ったのにな。先ず、スライムを出すことが間違いだろうに。中で十分に快適だぞ)
「スライムさんを蔑ろにしたら魔法少女に殺されますよ」
(で、誉めた先に何を要求する?)
「父親に捧げる剣を。墓標に飾りたいと思います」
(今世の最後か。盗まれるぞ)
「私の全力で拒みます。選ばれた者のみが受け取れる一振りを」
(なら、これか。この称号は人を選ぶ。ファニル、油断せずに使いこなせ)
* * *
全身全霊の一振りが完成してから父親の墓標は観光地になりました。
「いってぇ! 触れもできねぇ!」
「バーカ。聖剣様に触れるにゃ神かスライムに選ばれねえとな」
墓参りですれ違ったのは冒険者でしょうか。聖剣様って、鍛冶っ子の私の無心の一振りです。未だに盗まれていないのが不思議です。だって、打って、墓標に刺して、スライムさんをその場で見送っただけ。その時の私は何かに取り付かれていた気もします。
魔剣は持ち主が魔力を送って発動するのですが、あの魔剣は魔力が帯びて潰えません。未だに触れられるのは私だけです。
「あっ! 危ないです……えっ!?」
「流石、スライム師匠は凄いな。これは僕に修行が足りないと言っているのだろうな。はぁー、師匠は遠いな」
「……まさか、勇者様?」
私だけが触れられる剣の柄に手を添えて平然としています。ここ数ヶ月、王宮騎士団長様も拒んだ剣です。勿論、幾多の猛者も無理でした。警備がないのは「抜けるものは居らず。抜ければ王宮騎士団の副長の座を与えよう」との公布で四六時中人の目がある環境だからです。
「えーっと、聖剣の鍛冶師さん? ああ、心配しないで。僕は確認に来ただけで抜くきはないよ。認められたって思ってもいない。僕は勇者じゃないからね。今でも新人坊主さ」
「私も聖剣の鍛冶師とは思っていませんよ。父親の墓標に飾ってある争いに無用な剣です。だって、刃がないんですよ。剣ではなく鈍器です」
「あはは。ホントだ。これじゃ潰しちゃうね」
「墓標の飾りで大切な手を怪我したくありません」
「そうだね。これは平和への願いそのものだ。良いものを見れた」
人は聖剣の鍛冶師こそ勇者の妻に相応しいと言うけど、うん、好みじゃない。いい男だけど、将来安泰だけど、ピンッとこない。私って地味なのが好き。地味にも見えるけど、内に秘めた輝きが眩しいからいいや。
「あはは。珍しく振られた。ねえ、僕に一振りの剣を打ってくれないか?」
「あれ? 心の声が出てましたか?」
「……えとね。……肉食の女性は目の奥が光るの。……とっても怖いよ」
「あー、はい? ご苦労様です?」
意外に苦労しているようですね。通称勇者は苦労人ですか。今の私に似ていますね。一日一振り。意外に辛いです。寿命が足りるか怪しいほど待ち人が居ます。
苦労人の好しみで打っちゃった。
「あれ? 付与がないよ?」
「自分で付けて下さい。頑固なので易々とは付与されませんよ」
「師匠譲りで、自分で手に入れろ、か。いいね。で、何で2本?」
「付与できたら王様に送ってください。私って王様の面子を潰したようなものですから」
「あはは。わかった。そうするよ」
さて、一日一振りの約束を破ったので2日はお休みにします。普通のスライムってお腹から出てこないのです。寂しいお風呂を堪能するとしましょう。
はぁー、次の目標は結婚かぁ。スライムさんが連れてきませんかね?
スライム歴 ~9年11月
エピローグ 10年2月
ネタ~w




