11-2 宿主、成長期の読書っ子
前後編の後編です。朝に前編を投稿しています。
小さな漁村、の近くの森なう。道中野宿2泊。
「魚も美味しいわね」
「野生の味だー♪」
相変わらずの焼くだけ。塩水があるので今回は多少マシ。読書っ子には称号「蛮族」+10を適応中。サバイバル生活に補正がかかるからな。野生溢れる食事も多少は美味しく食べられるだろう。
(なあ)
「なぁに、ダーリン」
(何で宿とらないんだ?)
「夜営の練習よ。寝るのも修行なのよ」
(洞窟、掘らないか? あっちに海に飛び込んだ崖があるだろ。いきなり夜営のみはお嬢様育ちにはきついって)
「パパ。意外と気配が分かるよ。ママ。無意識でも気配を感じればいいんだよね」
「そうよ。もしくは木の上で眠れるようになることかな。両方覚えようね」
「はーい♪」
「最終的には威圧ができると寝やすいわね。こうよ」
うぉ!? 圧迫感が。背筋が凍るような気配が魔法少女から放たれているのが分かる。
「……こわい」
「あっ、ごめんね。でもね、この威圧ができると便利なのよ。追っ払ったり、恐怖で縮み込ませて動きを止めたり、寝るときに近寄らせないの」
「ふぁ~。ママ、すごい! でも優しいママの方が好き♪」
「これをするのはクリーチャーのいる環境だけよ。あとはお魚取りね。いっぱい獲れたでしょ」
「ふぉ~! プカプカ浮いたのってこれだったんだ」
海の中で何したやらと思ったら恐怖で魚を気絶させたのか。丸々太ったのだけ獲っていたな。善き善き。崖の上で全裸になったときはどうしようかとは思ったがな。
「ん~! でた?」
「私のはね死の恐怖と戦うと覚えるの。威圧も種類があるわ。威張っちょさんはただ暑苦しいだけよ。ちゃんちした威圧は心の奥底から怖いの。ちょっと威張っちょさんの方は出てたけど、覚えて欲しいのとは違うなー」
「難しいよ。ママはどうやって覚えたの?」
「パパを守りながらこのドレスになってるコボルトと戦ったときに死を感じたわ。それから練習したのよ。まあ、生き残っちゃった」
「パパ?」
(何だ?)
「私でも死にそうで死なないクリーチャーっている?」
(難解な。ママは死と遭遇して生き残っただけだからな。死闘で勝つなんて五分五分の勝負だ。ああ、殺さない強敵ならママがいるが、今は絶対勝てない。ママに死闘を挑むか?)
「ダーリンにママって言われちゃった♡」
「おめでとう、ママ♪」
(おーい、勢いで言ってしまっただけだ。で、どうする?)
「ママ?」
「んー、ダメ。ダーリンが死んじゃう。ダーリンは繊細なの。娘の頼みでもダーリンを犠牲にするのは許可できないわ」
「パパに出てもらったら?」
「出したらダメよ。ママってダーリンが大好きなの。娘からも奪っちゃうわよ」
「それは困るよー! パパは今は私のなの!」
微妙に論点がずれたが、読書っ子が全力で戦ったら確かに死ぬな。それでなくても読書っ子は制御が甘い。抑えるのは得意だが、機微な放出は無理。オンかオフしかない。子供だから仕方がないな。欲張れない。
○ ○ ○
意外にママ……魔法少女は漁村を活用する。主に物々交換だが普通に交渉できる。薬草や獣肉で細々したものを揃える。相変わらず漁村に宿を取らないのだが、読書っ子が魔力暴走で熱を出したので、結局は洞窟を掘って宿にした。
「ママ。弱くてごめんね」
「魔力の成長期よ。無理はしない方がいいわ。ダーリンが溶けちゃう」
「上手にママみたいに魔力が使えたらいいのに」
(読書っ子よ。魔法少女の魔力運用は正攻法ではない。普通は腹に貯めて使うんだ。間違いじゃないぞ)
魔法少女は魔力を全身では使わない。特に起点となる腹部には魔力を極力流さない。僕の負担を考えての事らしいが、これが難しい。特に読書っ子は強弱が曖昧だ。ちょっと油断すると、僕死ねそう。
「でも、パパが苦しそう」
(称号を「悠久の女」に戻してから魔力運用が徐々に良くなっているな。元魔法少女の称号は優秀だ)
「あれは飛ばないだけで魔法は使いやすいのよ。マリアの『武芸百般』とも相性はいいわ。ゆっくりと体を馴染ませましょう」
卓越した技術である2つのギフト。これで暴走気味の魔力と成長中の肉体をゆっくりと慣らしているのだ。スキルへと昇華したパッシブ能力も徐々に慣らしている。全解放したら僕が吹っ飛ぶので、徐々に栓を緩めるように修行している。
才能を持ちすぎた者の苦労だ。
ここで1つ周囲の違和感を消す変化もある。魔法少女は称号「悠久の女」になってからナイスバディな美女へと磨き、変化は落ち着いている。読書っ子は慕うママを幼くしたそっくりさんへと変化した。もう親子を疑う余地のないそっくりさんだ。
統合した称号「美女」の効果もしっかり発揮してる。
○ ○ ○
今世の山場は産みの親を捨て、僕と魔法少女の養子になることだった。日々を送り、ゆっくりと娘の成長を楽しむ。外から見たら急成長なのだろうが、スライム人生は1年サイクルなのだ。人生の半分は娘の成長を見守っていたぞ。
読書っ子はスキル『武神覇気』を覚えた。
ママとの優しい組み手でチート成長の娘は威圧を越えたスキルを覚えた。ママのような鋭い殺気は乗せられなかったが、対抗するために強者であるオーラを纏った。何でも新人坊主は勇者覇気を覚えているらしいぞ。
読書っ子はギフト『称号「悠久の女」』を僕から略奪した。
ギフトが2つ。この娘、どんだけ成長チートなのだろう? ママに憧れて欲した。パパの娘だからギフトはいっぱい持てると思い込んだ。結果、僕のギフトを奪ってしまったのだ。
「パパー! ごめんなさいー!」
(大丈夫だ。また複写したから僕のもあるよ)
「でも、パパの大切なコレクションを奪ったよ。分かるよ! 怒ってた!」
「ダーリンのギフトコレクターは人生の楽しみよね。私にもイラッてしたのが分かったよ」
(すまん。複写を失念してちょっと荒れた。もう大丈夫だ。しかし安心もしたのは事実だ。魔力の制御は未だ甘い。これで安心だ)
「うん。ありがとう、パパ」
○ ○ ○
今世の山場は、やっぱり縁切りに養子だろう。なし崩しに魔法少女を妻と認めたのは僕の山場であり、魔法少女の悲願であるので、今回の宿主の読書っ子には関係は……あるな。パパは僕、ママは魔法少女、その娘を名乗るのだ。本人にはこっちの方が人生の転機だな。
「パパ、気持ちいい?」
(ふむ。娘に洗われるのも善きかな)
「マリア、ごめんね。ママ、わがまま言っちゃったね」
洞窟の奥に岩風呂が出来ている。ぽよぽよタイム復活してたんだよ。至福です。親子丼です。
「ママ! もう少し早く言ってよ! これ、幸せだよ♪」
「うー、だって。ダーリン見たら、マリアから奪っちゃいそうで、ね」
「気持ちいいし、楽しいし、幸せすぎるよ♪」
この日課も残りが3ヶ月を切ってからだ。耐えかねたママが娘に懇願した。それも今日で終わりだ。
「ねえ、マリア。一度、私のベースに戻る?」
魔法少女のベースはウェルスレラ王国の公爵家の食客だ。今回、帰らずに僕を追いかけたので、年末武道大会のエキシビジョンマッチに出ていなかったのだ。
「ママがいないとさ迷っちゃうよ」
この娘、追いかける気らしい。流石、親子。
「ママにはもう公爵の食客はいいかなって思うけど、マリアを紹介しときたいの。将来の保険でもあるわ」
「嫌! 先の話は聞きたくない!」
「捨てられたとは言え、貴族はうるさいのよ。後ろ楯は使うべきよ」
「うー、ママ、ごめんなさい。私の生まれのせいで」
「いいわよ。遅れるけどダーリンの近くには向かうわね♪」
(無理するな。親子でゆっくりと旅を楽しめ。どこの誰に寄生するか分からんのだ。1~2回飛ばしても問題ないだろ)
「私が飢えるわ!」
「私もー!」
(好きにしろ。では、行く)
「「またね♪」」
やはり涙の別れは好きじゃないな。今度は親子でお見送りだ。2倍辛いぜ。
* * *
「ねえ、ママ」
「何? マリア」
「年末武道大会が終わったら、すぐ出るんでしょ?」
「そうね。このドレスのメンテナンスも終えたら出たいわね」
正直、ドレスがものすごく羨ましいの。パパが命を削って毛皮にしたんだって。最上級の保護魔法もかけてあるから痛みは見られないの。ママは一生、ウエディングドレスを着るんだって。羨ましいの。
「うー、羨ましいの」
「こればかりは娘の我が儘でもダメよ♪」
「私が未熟だったから強いやつを倒しに行けなかったの」
「ダーリンが蒸発しちゃうわね。まだまだ修行が足りないわ」
ママみたいに部分的に魔力を練れないの。ママより大きな魔力は小さな私には修行の時間が必要なの。早く成長したいな。
「3年、いや2年でモノにしましょう。その時にはママ負けちゃうな」
「勇者に勝てる?」
「んー、あれも成長してるのよ。そうね、一度戦ったら分かるわ。ママの枠を分けてあげましょう」
「ふぉ~! 勇者を殴れる!」
「今回は拳が触れたら敢闘賞ね」
よし! よしよし! ママは真正面から攻めるから勇者剣術の土俵で戦うんだよね。真っ向勝負が得意な勇者を私が欺いてやる!
「悪い顔してるわね。パパに似たのかしら?」
「パパって意地悪だよねー」
「そうよ。私を殺させてくれないの。こんなにもパパの心に住み着きたいと願っても許してくれないの。パパは死んじゃうのにね」
「ママ」
「マリア」
どこかで会えると分かっていても、やっぱり死んで消えて別れるのは辛いよね。ママは何度目のお別れだろう?
パパ。私も会いたい。
スライム歴 ~12年11月
エピローグ 12年11月




