08-2 宿主、堕ちた薄幸美人の残してくれた時間
前後編の後編です。朝に前編を投稿しています。
「衰弱か。なら、こっちか」
ぬぬっ! 2人も見逃していた。って、細マッチョ? ちと凛々しくなった? 薄幸美人に何をする気だ!
(細マッチョ、触るな!)
「ダーリン♪」
「スライム、久しいが挨拶は後だ。ポーションで回復を……」
(死に様を汚すな!)
僕が看取って、僕は行く。これが今世だ。スライムボディに鞭打って、薄幸美人の上に這い出る。余力は弱魔法1発分くらいか。
「……スライムさん?」
(この薄幸美人は僕が看取って終わりだ!)
「ダーリン! 私には許さないで、なんでそいつは許すのよ! 私はダーリンと人生を終えたいの! ダーリンは先に行くけど、私はずっとダーリンの心で眠りたいの!」
(それは許さん! 差を問うなら答える。魔法少女は全力で生きて生きれるからだ。この薄幸美人は十分に全力で生きた。それだけだ)
「スライム。まだ間に合う。このポーションはその力がある」
(その先に何がある? お前らは薄幸美人ではなく僕が目的だろう? 目的の僕を失った薄幸美人に2度目の死を与えるのか?)
この2人がいる時点で僕を探していると推測できる。魔法少女を助けたのは細マッチョっぽい、ではなく細マッチョ本人だったか。僕の位置が特定できる術が気になるが、後だ。
(僕はスライムだ。人間に寄生して生きる最弱クリーチャーだ。一時の人生の共有であるならば、それを見届けるだけだ。魔法少女は僕が何処かに居れば自力で生きられる。薄幸美人はどうだ? 一時、僕を使って生きてどうなる? 精一杯生きた先がここだ。これ以上、彼女を侮辱するな!)
「……スライムさん。……私を使って……良いのですよ。……スライムさんの……人生があるで……しょう。……待ってて下さる……方々が居るのです。……一時でも……私を使ったら……いかが……ですか?」
(薄幸美人は僕を使ったか? 僕は看取ることしかお願いされていない。過剰な物言いだが、武道大会を賑やかした2人に僕は力を貸した。それを知って薄幸美人は何も要求しなかった。僕は僕の矜持で動く。薄幸美人を看取るだけだ)
くっ。スライムボディはスタミナが少ない。外での活動は辛い。根性だ。看取るまで今世を耐えろ!
「……スライムさん。……私を……看取ったら……自由にして……いいのです。……一緒に……死ぬことは……ないでしょう? ……なら……」
(お前が言った渾身の我が儘を守れぬ男に先はない!)
「分からない! 違いが全く分からないわ! 私だって本気で看取って欲しかった! 今でも変わらないわ!」
(差は歴善だろ? 魔法少女は僕に委ねている。僕は生きてほしい。薄幸美人はただ見送ってほしいだけだ。それがたまたま僕なだけだ。魔法少女は僕のせいで死ぬ。薄幸美人は自分から死ぬ。僕は、介入できるなら生きてほしい。僕と関わるか関わらないかの差だ)
「スライム! お前、形が!」
(だから黙れよ。薄幸美人との些細な約束すら守れなくなるだろ)
「ごめん……なさい……。ご飯……食べないで」
意志疎通も微量だが魔力を食う。僕には口がない。人に意思を伝えるには少し消費が多きいのだ。説得は必要だが、これじゃ先に……ぶぎゃ!
「看取るんだろ? このポーションって特製だぜ。染み渡るだろ。魔法少女、今は引け。この女性に冥福を祈る時だ」
「くっ! ダーリンに看取られるのを外野で見るのも一興よ。この世界一幸福な死に場所を来世で語りなさい!」
「……うふふ。……初めて……本気で……男に……守られたわ。……これが……愛ね。……し……あ……わ…………せ」
(おやすみ。ジェシー)
○ ○ ○
看取ったが、今世はまだ終わっていない。僕の今世はあと半年くらいだろうか? 薄幸美人は建物から1度も外に出てないから時間の感覚が曖昧だ。
「ふんふふ~ん♪ ダーリン♪」
今は魔法少女に寄生している。この世界ではスライムを寄生させていないと不衛生の罪で罰せられる。なのに魔法少女はそれを拒み続けている。なので直ぐに寄生可能だった。前任がいるのに押し掛けるのは微妙だからな。
「なあ、行きは猛ダッシュで帰りは馬車とはどうしてだ?」
「ダーリンが苦しいでしょ! ダーリンは優しくしないと消えちゃうわよ」
「あっ!? あー、だから急に消えたのか。今、納得した」
薄幸美人は森の奥の良さげな大木の根本に埋めた。火葬を推奨されているが、焦って来世に送りたくなかった。ゆっくりと歩いて来世に行ってほしい。次は生き急がないように。
現在は移送されている。王都からはそんなに離れていないそうだ。スライム1匹に王と公爵が会うとかどうなの?
○ ○ ○
「ダーリン♪ 長旅ご苦労様。お風呂にする?」
(余裕あるな。命短しスライムはいつ消えるか分からんぞ)
「消えるのは寂しいけど、また追いかけるわ! それに公爵だけど準備が必要よ。王様とかなんか普通に会えないわよ」
(探しといてそれか。ならのんびりしよう)
「暖かいお風呂で清めるわ♪ うふふ~♪」
○ ○ ○
「娘の命、救っていただきありがとう」
(公爵が頭下げていいのか? 僕の目には王家の血筋と見えるが? 下げる相手がスライムなんて格好がつかないぞ)
椅子やソファーでは埋もれる掌サイズのスライムボディ。テーブルの上で向き合っている。
「今は1人の父としてだ。なに、スライムと話すなんて狂っているか、件のスライムしかおらん。勇者の師匠だろう?」
(あれは称号「勇者」が選んだのだ。僕は称号を持っているだけの無力なスライムだ)
「兄にはそう伝えとく。話が早いだろう。スライムの持て成しを知らぬ無知を許せ。ここでは好きにするといい」
(今世はもう意味を成した。税金の無駄を省くのに協力しよう)
「……博識で助かる。結構な散財であるのだ」
○ ○ ○
「竜脚の勇者を本物にして!」
齢15か。綺麗なお嬢さんだ。竜脚の勇者なんて知らない人だよ。
「お嬢様。いい加減に諦めましょう。私も努力はしましたでしょう。真の勇者には程遠いビビりです」
「戦わなくていいの! 本物になったらルーナスとの結婚を認めて貰えるわ!」
あー、救われたお嬢ちゃんか。多分3~4年前だよな。一途なのはいいが細マッチョとは年齢的にアウトじゃね? 身分は完全にアウト!
(公爵の娘よ。細マッチョは勇者には選ばれていない。僕が鍛えるのではない。称号「勇者」が新人坊主を選んだんだ)
「よし! プラン2よ! ルーナス、私を連れて逃げて! 田舎でひっそりと暮らしましょう! 家事は習っているわ! いい奥さんになるの!」
「無茶苦茶な。っと、旦那様、私を捨ててもよろしいですが、お嬢様には一時の気の迷いとして許してあげてください」
「駄目よ! ルーナスを捨てる時は私が家出する時よ!」
迷いなく落ちる気の公爵の娘。細マッチョは苦労しているが、まあ、いい顔してんじゃん。
○ ○ ○
「ならば、勇者は増えないと」
(新人坊主は称号に選ばれた。公爵とこんの細マッチョは選ばれなかった者だ。これが証明にならないか)
王との極秘謁見だが、文官達が僕の情報ひとつで飛び交ってる。勇者の力はそれほど国力に影響するらしい。
「隣国で勇者が現れたら、と考えると危うくての。うちの勇者はこの国に根付いてくれておる。アンジェ、あー、そちの言う娘っ子と世帯を構えたのでな。そのアンジェはスライムさんの帰る場所と言って居を移さん。安泰じゃよ」
(簡単に言えば、兵器量産するなと?)
「いや、クリーチャーの脅威がある以上、強きは望む。ジェシカ、あー、魔法少女は比較的には良き例だ。ただ人は選んでほしい。ジェシカはそちに一途だ。手綱が握れん」
(過去に2人ほど罪人と暮らしたが興味は持てなかった。この答えでいいか?)
「十分だ。欲を言えば……」
(今世は終えた身だ。人を見る時間はない。僕が決める。不敬に処すか?)
「……いや、国民に知れると国が潰れる。スライム師匠は神聖視されておるからの」
(たかがスライムに)
* * *
「ねえ、旦那様。王都に行かなくていいの?」
「アンジェはどうなんだよ?」
「私はスライムさんを待つ身よ。流石に子供を置いて浮気しに行くほど失礼な女じゃないわ」
「浮気は確定かよ。まあ、僕も同じだな。師匠に届く名声を。アンジェを不幸にしていないと伝える努力の方が優先だね」
「一番は家族よ。でもね」
「スライムさんは別格と。いい師匠だよ。いい男だ。敵わないが、アンジェの一番であり続ける」
「ふふ。悪い女に捕まったわね。行き遅れなんて置いて、いっぱいの愛に包まれたらどうだったの?」
「勘弁! 王都には特別な用事がないと行きたくないよ! あの骨まで食らいそうな獣は恐怖でしかないよ! アンジェだけだよ。愛してる」
「ママー?」
「そうね。私も皆を愛してるわ。そして、ここはスライムさんの帰る場所。私が朽ちてもお願いね」
「あいー?」
「子供に難しいことを言うなよ。師匠は何も強制しないぞ。本人の望む道が正しければいいんだ。なー」
「パパー」
「でもね、願っちゃうの。スライムさんには眠る場所が必要になると思うのよ。ここがそうで在りたいわ」
「……ああ。無理しないで欲しいな」
スライム歴 ~8年5月~8年11月
エピローグ 8年7月
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