08-1 宿主、堕ちた薄幸美人
前後編の前編です。後編は夜に更新です。
住めば都、という言葉は嘘よね。
身を売って稼げる歳は過ぎたわ。今も身を売ってるけど、買うのは同じ底辺の男たち。払いは食べ物よ。日々、飢えないように股を開く女。それが私。
色町で男を選べるはずもないのに、若かった私は選り好みをしてしまったわ。股を開いてるのに「安い女」と思われたくなかったのね。要らないプライドであっという間に売れ残りよ。
転がるのは早いわね。待っていたら勝手に来る獲物から、自ら捕らえに行く女になって、最後にはスラムに捌け口として置いてもらっている哀れな女へと堕ちてしまったわ。
胴元の崩れの男たちがいるから、その辺りで野垂れ死にはないけど、いつ捨てられるかしら? もう女の魅力より、ただの捌け口。使えればいいのよ。使えるならね。
これが最後のスライムかしら?
ねえ、どっちが先に朽ちるか競争よ。
* * *
はい、スライムです。
情報が少ないが、多分、ウェルスレラ王国のどこかのスラムです。いや、以前よりも情報収集は楽になったんだ。おっさん商人から得たギフト『聞き上手』が声を鮮明に拾うんだよ。いいギフトだ。
今や王都では空前の勇者フィーバー。年を越しての新年祭は、一昨年、去年、今年、どんどん盛り上がっている。何とも、公には否定されている通称な勇者が、王宮主催の年末武道大会で3連覇の殿堂入りらしい。
つい最近の3連覇を賭けた決勝は見物で、初めて通称勇者の必殺技である『雷帝』を受け止めたマッチングだったらしい。マッチングは「通称勇者vs魔法少女」だったそうな。うーん。突っ込んだら負け?
年々波及した勇者フィーバーはウェルスレラ王国を活気立たせている。特に、勇者結婚、勇者出産……勇者は男なので奥さんが出産だな。と、通称勇者の活動はゴブリンキラーから育メンにジョブチェンジしているが、大々的に出る年末武道大会はとても好評らしい。年末年始は王都が祭りだ。
とまあ、今世の宿主の取るお客さんからの情報だ。
この度の勇者出産が宿主を虐めている。煽られた者が老若男女問わず妊活しているのだ。その余った興奮を抑えられず男が女を買うので、売り手の宿主はボロボロ。元々が体を弱めているので、客が来る度に泣いている。
「あと何人かしら?」
虚ろな目で呟くのは本日の客の数ではなく、命のカウントダウンだ。僕に出来ることはない。体力の底上げしようにも、体力に魔力もカラカラ。僕がギフトを貸すだけで死に一歩近づく。
「ふふっ。私って看取ってくれる人が居るだけで幸せね。スライム師匠かしら? スライムさんかしら? ダーリン、と呼んだら魔法少女に殺されちゃうわ」
何故か全くアピールしてないのにバレた!? 客が来ない間はずっとお腹をさすっていた。この宿主は身籠れない程に傷めている。なのに子を慈しむようにお腹をさするのだ。何時から?
「スライムさんがいいわね。ねえ、スライムさん。お願いだから話さないで。酷いこと言ってるけど、外に希望を持ちたくないの」
何も言えん。
「ただただ、静かに看取って。それからなら自由にしていいわよ。スライムさんには酷いことしか出来ないけど、誰かに甘えたいのよ」
いいさ。今世の宿主だ。魔法少女とは違う。あの娘は生きて欲しかったが、今回の薄幸美人には先はない。どう足掻いても体が死に向かっている。スライムを入れられたのも汚物の軽減なだけだ。
「ふふっ。最後に幸せが来たわ」
疲れ果てて横たわる薄幸美人はいつ消えてもおかしくない笑顔をしていた。
○ ○ ○
命とは時に残酷だ。生を諦めている薄幸美人の体は肉体機能が生かす。僕が居なければ食事すら放棄しているだろう精神でも、僕のために無理に喉を通す。
終わりの地獄は継続中だ。
「うふふ」
客は途絶えてきた。薄幸美人はもう生気を感じず、客には魅力的な商品には見えないのだろう。それでも少なくは客が来る。しかし、薄幸美人の心境に変化はあった。
「うふふ」
「何だよ! 気味悪ぃ。もういい! くそっ!」
抱かれて泣くことはなくなった。ただ微かに笑う。壊れた人形のように虚ろな目で笑う。もうすぐか。内蔵も動きが悪い。僕の食事もほとんどない。看取れるか心配だ。スライムも弱いのだよ。
「おい! 客を逃がすっちゃあ……あっ? 壊れたか。おーい」
狭く汚い部屋に入ってきた男が、数人の男を呼び薄幸美人を外に捨てる。ほんと、スラムの日常だろうが、経験すると辛いな。
町を囲う外壁の外、そこに簡素な木の壁でスラムは囲ってある。更にその外に捨てられた。森が近い、王都ではないな。
自然と処理されるのか、獣やクリーチャーによって。
○ ○ ○
「やっと解放されたわ。最後の男は、私、囲ってるの。うふふ。いい男なのよ。こんな女の我が儘に付き合う律儀な男。あー、しあわせー」
静寂が包む森に小さく響く声。誰も聞いてはいない。僕以外は。
「私ね。いいところの娘だったのだけど、悪さが過ぎてね勘当されちゃった。それでも自由だったし、男は寄って貢ぐし、幸せだったの。少し甘い声で唆せば言いなりの男。ちやほやされたわ」
語る過去には今はあの幸せが嘘だと言っているかのようだ。
「少し悪さが過ぎちゃった。王都からは逃げたけど、次は上手にって思ってたら、転がり出した石のように止まらなかったわ。生きるので精一杯よ。そこでやっと後悔したけど遅かったわ。誰も側に居てくれないの」
独り、か。
「それでもね、一夜でも付き合ってくれるってだけで誤魔化していたわ。そう、誤魔化している間に私の値打ちが失われちゃった。その辺りからかな、誘われる側から求める側になったのは。男って薄情。追ってくるのに、追いかけると逃げるの。浅い男しか引っ掛からなくなったわ」
…………。
「そこからはもう地獄だったわ。安い女を安く売るから、どんどん居場所は奥へと奥へと転がるの。堕ちた先はここ。でもね、堕ちた先に光るものがあったの。スライムさんよ」
もう少し早く出会えていれば、いや、僕も堕ちていってるのかな?
「人がこの姿を見て幸せだと言うと思う? ふふっ。そんな事は……「あるわよ!」」
ぬっ! 僕も朦朧としていたか。周りに無警戒だった。
「私の理想を横取りするなー!」
何故、魔法少女が?
スライム歴 7年12月~




