07-1 宿主、おっさん商人
一話完結の内容です。
この国はもう終わるか。
クリーチャーの脅威すら無視しての領土戦争。略奪と戦争奴隷の火車操業の国だ。それも支える食料生産があってのこと。略奪だけでは賄えず、戦争奴隷だけではすぐには食料は生まれない。
友好国も静観という形で見放している。物流がない以上、わしは食えはしない。村と村を繋ぐ行商も好きなだけでは食えないのだ。
友好国の1つが活気付いている。勇者と呼ばれる冒険者の存在だ。商人は耳が良いのだ。隠しても流れた情報は取捨選択して美味しいものは頂く。老後の蓄えを失うだろうが、この国に平穏な老後は見込めない。
行くとしよう、ウェルスレラ王国へ。
* * *
片寄ってるなーとは思っていたが、輪廻転生は隣国へと渡りました。が、この度の宿主は僕をあの国に戻すらしい。まあ、僕の世界は狭い直腸ですけどね。諸国漫遊とはいきません。
歳は30後半だろうか。おじさんです。男比率高いな。ぽよぽよタイムはまたお預けか。無念。今世はどんな感じだろうか? 戦闘しないから傍観になるかな?
お、商人なら憧れるだろう鑑定があるじゃないか。鑑定を持つ人って見たことないんだよね。娘っ子が限定版を手に入れていたけど、目立ったかな? 本人が自白しなきゃバレない。いや、教会とかいう場所で見れるのだっけ? よく分からんな。
「帰る気もないからすべて処分だな。馬車と重くない交易品のみか。質素だ。1年先までは見通せないが、情報は折々に収集しようかの」
道中が1年以上? 魔法少女がどうなったか知りたかったが、疾走してきた誰かに救われた事を祈ろう。悪感情を感じなかった誰かよ、魔法少女を頼む。細マッチョ並みに速いやつは初めてだったな。
○ ○ ○
はい。道中で必要なのは鑑定ではありませんでした。意志疎通で虚偽の情報を見抜くことだった。危うく大損の品を引き取るところだったぞ。生産地から運ばれてきたものを生産地に送ってどうする!
おっさん商人のテリトリーから外れたから商人同士の信用でのやり取りだ。おっさん商人の経験と洞察眼が全て。いやな、真っ直ぐに行ったらもっと早いんだけどお金が足りないそうだ。それ以前に失業だ。商売を移しつつ動くので1年を見ているらしい。
「最近、人の良し悪しが見えるの。どうしてじゃろうか?」
わざとらしい。僕の言語機能とも言える意志疎通だ。下腹部に意思があるのはバレていて、わざと気にしない。今も出っ張ったお腹を擦りながら言いやがる。
「スライム師匠とやらに会ってみたいものだの」
わざとらしい!
○ ○ ○
特に不安がらないので、僕が鑑定で商品を見て、良し悪しを感情に乗せる。判断はおっさん商人だ。良し悪しが分かっても儲かるかは別だ。こんな同居生活も悪くないな。
おっさん商人は情報と品を見定めては進む。護衛の依頼料もあるから意外と道中に金がいる。買値の数倍で取引とか当たり前だ。物流コストがとても高いからな。
護衛の選別も意志疎通が役立つ。特に目立った場面は自分を囮にしやがったことだ。兵士に情報を流して、盗賊の仲間だった護衛冒険者を一網打尽に締め上げた。護衛冒険者な盗賊も「なぜバレた!」なんて言っていたがどこ吹く風で褒賞金を貰っていた。いい額だった。冒険者ギルドからも監督不十分と慰謝料をせしめる図太さもあった。
「何か良いスライムが運をもたらすのう」
隠す気がない。が、意固地に無言を貫く。ああ、特に意味はない。なんか面白いからだ。この関係も悪くない。
おっさん商人はスキル『真偽眼』を覚えた。
「この歳でスキルかの。スライム……じゃない、神は見放してはいないのう」
いいぞ、根性だ! 疼く口を閉じて黙秘を貫く。
○ ○ ○
国境は多額の賄賂で通過。痛い出費だが安全な出国だ。国境封鎖も間近で品の流出もかなり押さえていた。行き先が友好国であり、軍事物資ではない品だったのが幸いでもある。下調べの結果だな。
「木工品に宝石を仕込むとはのう。どこで覚えたやら?」
同じ境遇の先駆者だよ! 無一文で追い出す国の境界も過ぎ、友好国であるウェルスレラ王国へと入った。入るのは簡単で出るのは地獄な国だったな。戦争末期だとこんなものか。
「さて、行き先はどうしようかの?」
望みはあるが、場所は知らない。すぽーんって輪廻転生で飛ぶから点は線で結ばれないのだ。
「王都かの?」
それが無難だが、もう寿命が近いな。辿り着けそうにない。
「……そうか。恩に着るぞ、スライム」
喋ってないのに会話が成立する不思議。
「真偽眼はとても役立ったよ。途中からは本当に黙りよの。これも商人として人に頼らせないという意図が見えていたぞ。ああ、スライムか」
(最後は敗けだ。頼みがある)
「何なりと」
(称号「魔法少女」のギフトを持つジェシカが生きていたら、生きていてくれて嬉しい、と)
「お安いご用で」
(宛はないぞ。安くはないだろう?)
「生きて国境を渡れたのです。十分に対価は頂いておりますよ。もう行かれるのですか?」
(耳が聡いな。どこで知ったか?)
「ふぉっふぉ。商人は情報が命ですぞ」
(失礼した。では)
「善き旅路を」
* * *
ふぃー、騙されてくれたの。
スライムの寿命が1年、しかし存在する。そこから無理矢理に推理、いや暴論に近い内容だったが答え合わせもしてくれたのう。
さて、ジェシカとやらに伝えなければ恩は返せぬな。一度でもミスをしたら路頭に迷う難儀な行商だったが、越境での準備にここまでかかるとはのう。
荷物も囮、馬車も馬も囮、手荷物の木像すら囮。持ち出せたのはただの石塊のみ。夜中にこそこそとスライムが仕込んだ粗末で小さな石像。中には全財産とも呼べる大粒のイエローダイヤモンド。
この国で一番売れている宝石だ。
通称の勇者の放つ神々しい雷を彷彿とさせる、と大貴族すら手に入らない希少品となっているからの。これは最後の一手だ。ジェシカに会う時にこそ振るう一手。
スライムも騙せたが、服のボタンには小さな宝石を埋めている。これが元手だの。絶対に会ってやるからな。
* * *
丁度、年末武道大会時期に王都へと入れたが、まさか魔法少女ジェシカがエントリーしているとはの。後援が公爵様とは運が良いのう。渡す相手に不足はない。下手な権力者だと、このイエローダイヤモンドは不釣り合いだからの。
しかし、公爵家が無防備過ぎんかの? 少ない手だが回した。が、ここまで素早く会えるとは思わなんだの。
「またせた。そなたが献上したい物とは?」
「はっ! 此方に御座います」
「それは良い。後に商談だ。して、要件を言って良いぞ」
「はぁ? ……し、失礼しました!」
なんだ? なんでその先を要求するのだ? 全く情報が流れていたわけではあるまい。
「巫女……と言えば分かるか?」
ウェルスレラ王国の巫女。不確定ながらも予言にて国を動かす重臣。その巫女がここで出るのか?
「聡い商人は好む。件のスライムに王はご執心だ」
「先に。隣国よりこの国へと辿り着いた際には、もう……」
「そうか。隣国にまで飛ぶのか。厄介な。それで要件は?」
「魔法少女ジェシカへの言付けを……」
バキンッ!
扉が……砕けた? 何だ?
「聞くわ! 私が魔法少女よ!」
「…………ああ、本物だ」
目配せで公爵様に聞いてしまった。不敬だが、許されたようだ。
「では、失礼します。「生きていてくれて嬉しい」と」
「ダ、ダーリーン!」
ダーリン? よく分からないが、泣いて去っていった。スライムよ、ちゃんと約束は果たしたぞ!
「んんっ。部屋を変えるぞ。隣国の情勢とイエローダイヤモンドの商談をする」
「はっ。喜んで!」
スライム、公爵様との繋がりは聞いてないの。商人として美味しすぎる人脈ではないか。
くそっ。儲けすぎだ!
スライム歴 6年12月~7年11月
エピローグ 7年12月
宿主のネタ、欲しいです。




