06-2 宿主、魔法少女は死にたい
前後編の後編です。
なんやと3ヶ月もサバイバル生活をしている。称号「蛮族+10」は意外と優秀で、気配察知、危険回避、と身を守る本能が研ぎ澄まされる。魔法少女は野生っ子になってしまった。
危機回避は野草や自生の果実にも適応され、僕の鑑定と含めて充実した食事となっているが、調味料はない。野生剥き出しの焼くだけの食事だ。
狩りも充実し、モヒカンゴブリン程度なら苦もない。クリーチャーな狼もいける。そして美味しい……らしい。肉だけはありふれているな。
狩りをしていたら魔法少女はスキル『蛮族拳法』を覚えた。
更に魔法少女はスキル『身体強化』を覚えた。
追加で魔法少女はスキル『気配察知』と『危機回避』を覚えた。
称号「蛮族+10」から得るものはないな。卒業して次のステップに移るべきだろう。そう、本来の称号である「魔法少女」へと。
「嫌よ!」
(最近は森の奥へも足を運ぶし、それに伴って赤毛が出るだろう。言うが、火力不足だ)
「うっ! いい思い出がないわ。でも必要なのね」
(そうだ。赤毛のタイプは純粋な打撃だけでは決定打にならん。何かしらの魔法の方が効果が強い)
「仕方がないわ。ダーリンの奴隷だものね」
いつの間にか「貴方」になり、それから「ダーリン」へと呼び名は進化して、魔法少女の地位は奴隷のままだ。それと儀式もできた。僕は食事と行水の時は出るように催促される。
食事では。
「今日も生きる糧をお恵みくださり、ありがとうございます」
とまあ、一段高い石の祭壇に僕を置いて祈る。依存から信仰へと昇華してしまった。普段は普通に接するのに、ここと行水だけはとても丁寧な扱いを受ける。水ではあるがぽよぽよタイムが戻ってきたよ。幸せ。
○ ○ ○
最近の僕の日課に毛皮の鞣しが加わった。と言っても、吸い付いて毛皮についた微量の肉や油を食べるのだ。これは人的に品種改良されたスライムには辛い作業だ。だって、未分解の食物は胃もたれするよ。胃はない……と思うけどね。
この作業は必須なのだ。だってな。
「ダーリン! 私は大丈夫よ!」
(いや、いつか文明に帰るんだ。捨てては駄目なものがある)
「だって! ダーリン辛そうよ!」
(大丈夫だ。時間がかかって悪いがこれだけはやり遂げる)
「嫌よ! そんな無理しても嬉しくない! 私は裸でいいわ!」
そう、服が着れないほどに消耗したんだ。今は腰みのみたいに布切れで覆っているだけ。ポロリと言うかモロ出しだ。暖かくなってきたがこの状態を常識にしては駄目だ。
赤毛の狼が居たので丁度よかった。魔法少女の実戦にもなり、上質な毛皮が手に入った。が、この加工に10日も費やした。毛皮の下着が限度だがモロ出しよりは文明的だろう。
「ダーリン! ありがとう!」
とってもぷにぷにされた。
○ ○ ○
ここは珍しいクリーチャーが存在した。奥には集落もありそうだ。しかし魔法少女は称号「魔法少女」を使いこなしている。突っ込まなければ、はぐれだけを相手すればいいだろう。
と、思っていた。
「ダーリン。初めての来客よ。おもてなしかな?」
(危ないぞ! 上位種の2色だ!)
「逃げれるとでも?」
(いや、本気でぶつかるしかないな)
一般的にクリーチャーは進化するというのが通説だ。その前段階で毛色が変わったり、モヒカンが生えたりと亜種になる。亜種からノーマルに近い姿に戻ったら進化。これを繰り返して進化を進める。
以前の新人坊主のゴブリンキングモヒカンは最終進化形で1色だ。モヒカンを色に数えるのはどうかと思うが、そういう分類だ。赤毛の熊も進化が進んだ最終進化形の1色だった。
今回の虎縞コボルトジェネラルは最終進化形の一歩手前である上位種の赤と黒の2色だ。とても危険。僕を犠牲にすれば……
「ダーリンと共に、勝つ!」
止められなかった。魔力を乗せた攻撃は全身の魔力を回して一点に集約する技だ。そうばれば体内に住み着く最弱クリーチャーなスライムは死滅する。だから魔法少女は上半身のみの魔力運用で挑んでいるのだ。
無茶苦茶なハンデ戦だよ。
魔法少女はスキル『魔法能力強化』も覚えているが、下半身に全く負担をかけずに運用するなんぞ無理がある。
互いに引きもしないインファイトの殴り合い。どっちが勝ってもおかしくはないが……
「ふふっ♪ 生きてるって楽しいわ♪」
やや劣勢となった魔法少女。右目を掠めた爪撃が神経を研ぎ澄ませた。
「これが愛の力よ♪」
乙女のように声を弾ませるが、今は獣と少女の殴り合いだ。閉じた右目が再び開く時、魔法少女は覚醒した。
「見て、ダーリン♪ 潰えぬ愛の炎♪」
同時に繰り出される双拳は指でハートを作り出す。下半身を使わないのであれば上半身を酷使すれば良い。そう言っているかのように漏れ出した魔力は肩甲骨辺りから吹き出す。
まるで炎の天使だ。
後方に漏れ出した炎の翼は漏れただけ。虎縞コボルトジェネラルの胸にハートの烙印を刻む双拳。魔法少女は必殺技を使ったのだ。
○ ○ ○
「ねえ、ダーリン。わがまま言っていい?」
(ああ、聞こう)
「このコボルトで毛皮作って。ウエディングドレスにするの」
(結婚は断ったが、まあいい。休んどけ)
「ありがとー♪」
横たわるのは虎縞コボルトジェネラルと魔法少女。相討ちだ。コボルトは即死だが魔法少女は身動きはもう取れない。衰弱する未来しかない。
スライムパワー全開! 魔法で無理矢理に剥いだ毛皮。余分なものは丁寧に食って鞣す。吐いても食う。時間がないんだ!
(不格好だな)
「あはっ♪ 素敵♪ 愛の共同作業ね♪」
体を引きずり毛皮へと転がる魔法少女。
「私の心は永久にダーリンへ」
(…………)
「返事は要らないわ。ダーリンには先があるもの」
(ジェシカ。お前には幸せに生きて欲しかった。そのために……)
「今が一番幸せ。ダーリンと共に死ねるもの♪」
(僕を師匠と呼ぶ奴に会えば……)
「もう先はないわ。おやすみ、ダーリン。愛してる♡」
(僕も行くよ。おやすみ、ジェシカ)
* * *
「ここ、は?」
見慣れぬ豪華なベッドで横たわっていた。体は……動く。ダーリン?
ああ、行ってしまったのね。
外野がうるさい。よく聞き取れない。メイドなんて初めて見たわ。本当にここはどこよ? 扉の音と共に静寂が訪れた。男2人に女の子?
「また居ないのか」
「そのようです。巫女の啓示でも間に合いませんでした」
「ルーナスの足で間に合わないのだ。誰にも捕らえられん。ご苦労だったな」
「いえ、滅相も御座いません」
話が分からないわ。
「王命とはいえ1匹のスライ「ダーリン!」……んなっ?」
「ダーリンに危害を加えるなら、私は王を殺す!」
この男、早い。私の怒声に瞬間的に割って入った。素早さでは負けるわね。でも、強者じゃない。特徴がダーリンが話した相手に似てる。
「娘。王様は会って話がしたいだけだ。あと、ここに居られる公爵様はお嬢様の命の恩人に礼がしたいだけだ。害意はない」
「あんた……細マッチョ?」
「ぶはっ! 久しい呼び名だ。その通りに細マッチョだ」
「違うよ! 竜脚の勇者だよ!」
幼女だとは聞いたけど月日が経っているとも聞いたわ。立派な淑女でもうお嫁さんに……あっ!
「私のウェディングドレスは!?」
着ている物が違う! ダーリンの手作りじゃない! 誰だ!
「ウェディングドレスは知らないが、スライムの手製だと思われる毛皮は丁重に預かっている。だから、一々殺気だつな」
「あれを返して! お願い! ダーリンとの唯一の繋がりなの!」
「あれだけの獲物を仕留める力を貰って、まだ欲張るか?」
「違う! この力はダーリンのものよ! 私が貰ったのはウェディングドレスだけよ! それを着て、もう、寝たいの……ダーリンっ、うぅ、ううぅ」
あの瞬間が一番の幸せだった。ダーリンは先に進むけど、私はダーリンを見送って穏やかに眠りたかった。何で生かしたのよ!
「そなたよ。件のスライムを探さないか? そなたを見付けたのは王命による探索の結果じゃ。もう一度、会いたくはないか?」
「私の望みはあの時の安らかな静寂よ。もう一度、ダーリンに看取ってもらう。どう使うかは知らないけど、私の心はダーリンのものよ。それでもいいの?」
「よい。元々、件のスライムには定住は無理じゃ。寿命が短すぎる。どうこうする事もできん。害はない。ただ、王は話を、わしは娘の命の礼を、望むのはそれだけじゃ。皆、会うだけの目的で探しておる」
「分かったわ。使いなさい。あと、新人坊主には会っておきたいわ」
「「「ぶふっ!」」」
「な、何よ!」
「いや、国民が勇者と称えるオリバーをそう呼ぶのは、本人とスライム師匠とやらだけだ。国中の猛者が集まる年末武道大会での優勝者を、新人とも坊主とも呼べんよ」
んー、強いとは聞いていたけど、正義が過ぎる坊主だとも聞いていたわ。会って話をしましょう。
悔しいけど、ダーリンのお手製ウェディングドレスには手を加えたわ。着て歩くには不便だからよ。あと、加工が荒くて腐ると言われたらちゃんとするしかないわ。
待たなくていいわ。私が見つけるの。そして再び共に静寂を誓い合いましょう。
ダーリンの心で私は眠るの。
スライム歴 ~6年11月
エピローグ 6年11月
宿主のネタを募集しています。




