第百十二話「ラストバトル PART4-光と闇の勇者-」
「少しばかり本気にさせた、だと?」
アルバスの言葉に甚く憤慨した様子を見せるザルディン。
腹に一撃を受けてもなお余裕を崩そうとしない態度が気に食わない様だ。
「ハッタリに決まっています。腹部の出血からも解る通り先程の一撃は致命傷。
再び食らえばいくらアルバスが強大な転生者だとしても無事では済まないでしょう」
「フン…。私があの技を食らう前提か。なら試してみるがいい。」
「言ったな!」
「!?待て!駄目だ!!今魔導串刺し刑を使ってはダメだ────────────────!!!!」
コウの懇願の叫びに耳を貸さず、ザルディンが再びアルバス目掛け突進!
アルバスの身体をかち上げようとする。だが!!
「なに…ッ!?」
アルバスはユニコーンヘッドの先端に右手の人差し指だけで倒立している。
「一度喰らった技を二度も受けるほど私は愚かではない」
アルバスは倒立姿勢のまま回転。勢いをつけたキックで上空に待機していたモアザ目掛けザルディンを蹴り飛ばす。
モアザとザルディンはバランスを崩し墜落した。
「うぅっ…!!」
「ハハハ。魔導串刺し刑敗れたり」
「モアザさん!ザルディンさん!!」
墜落した二匹に駆け寄るコウ。
「すまない、油断した…。なまじ攻撃が通ったばかりに」
「一度受けただけでこちらの技の性質や対処法を一瞬で編み出すとは…。
恐るべきはその才能と戦闘センス!コウさん達が危険視するのも頷けます」
「だが同時に、何が何でも倒さなくてはならないと言うプレッシャーもある。
プロアク〇ョンリプレイでアルバスのステータス全部1にしないと無理そうにも思えるが」
「そのブロアーとシルブプレが何なのかは知りませんが、それ程圧倒的な力量差だと言うのは理解できました。」
「…まぁ意図が伝わったんならそれはそれで良しとしよう」
「何か策は?このままではただやられるのを待つばかり。白旗を上げる以外なら協力するが」
この世界でも白旗は降伏の意味があるのかと感心しつつもコウは顎に手を添え、
必死に策を考える。
狙い目は間違いなくユニコーンヘッドの突き刺さった腹だが、アルバスも負傷した箇所を曝け出しておく程間抜けではない。
となれば如何にして腹から注意を逸らせるか考えるのがベターだが…。
「いや待てよ…?確かにアルバスは腹を負傷しているが、何もそこだけ狙わなくても…」
「コウ!」
コウ達の元にリゼルが駆け付けた。
「リゼル…!」
「状況は?」
「アルバスにようやく一発当てられた。
だが一度見た技はもう通じそうにない」
「…進展してるのそれ?」
「少なくとも、リゼルが来てくれた事で打てる手は増えた」
「なら、その打てる手を試しましょう」
「よし。まずは…」
リゼル、モアザ、ザルディンに耳打ちするコウ。
作戦が漏れ、アルバスに悟られない為の策の一つだが、
それも何処まで隠し通せたものか…。
「いつまでそうしてるつもりだ!作戦会議のフリをして逃げる算段を考えようとしても無駄だぞ!!」
コウ達がいつまでも仕掛けてこない事に苛立ったのか、アルバスが囃し立てる。
「んなモン微塵も考えちゃいない。考えてるのはお前の倒し方だ。行くぞ!!」
そう言い放つとザルディンが再びユニコーンヘッドを突き立て突進。
「先程と同じ手とは、芸のない奴!」
身をひねりザルディンの突進をかわすアルバス。
だがザルディンには狼狽える様子は微塵も見られない。
「同じでは…ない!」
瞬間、ザルディンの陰から何者かが飛び出し、アルバスに斬りかかった。
コウだ。コウがザルディンの腹に隠れていたのだ。
「リゼル!」
「サンダー…スコール!!」
コウの合図と共に落雷が雨霰の如くアルバスに襲い掛かる。
更に、
「ファイアフラップ!!」
モアザの放った炎がアルバスを焼く。
斬撃に雷撃に炎。
この怒涛の波状攻撃、常人ならばまず耐え切る事が出来ないであろうが、
生憎アルバスは…常人などではなかった!!
燃え盛る炎の中から飛び出た腕がコウの頭を掴み上げる。
「ぐぁっ!!?」
「いくら私が人より丈夫に出来ていたとしてもな、こう何度も斬りつけられたりしたら……
流石に痛ェんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
急に言葉を荒げコウの頭を思い切り地面に叩きつけるアルバス。
更にコウの腹を蹴り上げその身体を空高く舞い上がらせ、
舞い上がったコウの真後ろにアルバスが一瞬で回り込み再びコウを蹴り飛ばす。
更に吹き飛ぶコウにアルバスが回り込むと裏拳で後方に弾き飛ばし、
トドメに右ストレートでコウの顔を殴り倒す。
コウはそのまま街中まで吹き飛ばされ、建物三棟を破壊しながら魔道具屋に激突しようやく静止した。
「う…ぐぐぐ………、いきなり火が付いた様にキレやがって…。
あいつあんなキャラだったか?」
少し考えた末コウは一つの解答を自力で見出した。
「いや…むしろあれこそが本来のアルバス・ロアで、冷静で落ち着いた物腰はそれを他人に悟られない為の仮面なのか」
いつまでも寝ている訳にはいかない。コウは上体を起こそうとするが、全身を駆け巡る激痛に遮られる。
予想以上にダメージは深刻。いやむしろ生きているだけでも儲けもんか。
「ててて…。みんなに来てもらって回復してもらうのが一番だろうけど、それまでの間アルバスが悠長に待ってくれる可能性はゼロ…。
それまでに、応急処置で良いから回復手段を…」
痛みを堪えながらコウは首を左右に巡らせる。
すると視界の右側に戸棚が倒れ、陳列してあった魔宝石が散乱しているのが見えた。
その中の緑の魔宝石。あれが多分回復効果のあるものに違いない。
コウは痛みを堪えながら必死に手を伸ばす。だがギリギリの所で届かない。
指先にまで意識を集中させ伸ばすが、僅かに魔宝石を掠めるばかり。
そればかりか指先が魔宝石を弾いてしまいその距離は更に遠くなってしまう。
「クソッ…もう少しだったのに…!」
今度は上体も寄せ魔宝石を掴もうとするが、まだ届かない。
もう痛みなんてどうにでもなれ。
コウは半ばやけ気味に上体を起こし、苦悶の悲鳴を上げながら緑の魔宝石に飛び掛かった。
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「う~…。こっちは手も足も出ないのに向こうはやりたい放題できるとかズル過ぎるよ~…!」
依然攻略法が見出せない亡霊戦士たちにシャインが宣う。
「この際塩でも撒くとか…」
「何故そこで塩?」
脈絡もない事を言い出すツバキにシドが問うた。
「あぁ知らない?大和では厄や霊を清めるのに塩を撒く事があるのよ」
「でも、この近くに塩なんてありませんよ。雪なら残ってるけど…」
「清める塩が無いなら、お前たちがその塩になればいい」
威厳のある男性の声。
ジーベン国王だ。
「父上…!?何故ここに…!」
「簡潔に説明すると…アルバスに呼び出された。とでも言ったところか。
リゼルに纏わりつくのをやめさせる為尽力してはいたが、流石に一人では限界がある…」
「だから私達に霊共を倒す手伝いをしろと?手も足も出ないのに無茶言わないでよ」
シャインの言う事も最もであった。
相手が並の兵士や転生者ならまだ一矢報いるか倒したりもできるが、何分既に死んでいる相手。
それもまともに触る事の出来ない亡霊が相手ゆえ手の打ちようが無いのだ。
「だが方法はある。目には目、歯には歯、霊には霊。
君たち自身も霊体となれば亡霊戦士どもに対抗する事が出来る」
「霊体にって…それ死ぬって事じゃない!」
「実の息子もいるってのに!」
国王の提案にシャッテとシャインが抗議するが、国王は即座に、
「霊体になる、と言っても一時的に仮死状態となり霊となるのだから安心したまえ。
ただし霊体化していられる時間は三分が限度だ。
それを超過してしまえば最後、名実ともに亡霊となり永遠に現世を彷徨う事となる…。」
亡霊戦士とまともに戦えるもののそれには多大なリスクが伴う、危険な選択肢の提示に一同は言葉を詰まらせた。
「…無理強いはしない。やるかやらないかの最終的な判断は君たち個人に委ねる。
だが、亡霊たちはやがて勇者を襲い、デストラの人々さえもその毒牙にかける事は理解してもらいたい」
「…最後にそんな事言うなんて人が悪いですよ父上…。そんな事言われたら、やるしかなくなるじゃないですか!」
「私も。やられっぱなしは性に合わないし!」
「お姉ちゃんいじめたのは許せないし、何よりあいつらすっごいムカつくし!」
「シャインに同じ」
「…決心はついたようだな。では行くぞ。ルトヴァーニャ秘技!散喪・反・魂・法───!!」
瞬間、眩い閃光がシド達を包み、その身体から魂が抜け出ていく。
シド達はこの瞬間より仮死状態となり、亡霊戦士と戦う術を得たのだ。
「凄い…ホントに幽霊になった…!」
「これであいつらとも戦える!」
「急げ!こうしてる間にも限界時間は刻一刻と迫っている!!」
シド達は弾丸の如きスピードを発揮し、クドーたち亡霊戦士たちの前に立ち塞がった。
「貴様等その姿は…何故!!?」
「教える義理は無いですが、これだけは覚えておきなさい。
僕たちはこの世に蔓延る邪悪を止める為ならば命すら惜しまないと言う事を!!」
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「今のは何なのですか…?アルバスがあんな目にも止まらぬスピードを発揮してパワーも先程より増した様な…」
アルバスの急激なパワーアップにモアザは狼狽えた。
「確かに。強化魔法を使ったようには見えないしここまで唐突かつ急激な変化は、
魔人族の変身以外に例が無い………」
「おそらくは、アルバスが異能を使ったんじゃないかと…」
アルバスが異能を使う場面など直接見た者はコウ以外にいなかった為
リゼルも憶測でしか語る事が出来なかった。
アルバスが舞い降り、一歩ずつリゼルの元に近づいてくる。
その表情は先程までの穏やかな物とは打って変わって殺意と狂気を混ぜ合わせた様な物に変わっており、
リゼルは恐怖のあまりそこから動く事が出来なかった。
アルバスとリゼルの距離が息の臭いが解るほどにまで近づくとアルバスは、
「思えば私の計画は、君と小妻コウに会ってからと言うもの腹立たしいくらいに失敗の連続だったなぁ…」
「計画…?」
「この世界、アーサレナにある国家全てを支配下に納め、その中から私が存在価値があると判断した者を選別。
そうでない者を間引き未来永劫争いも犯罪も無い理想的な世界へと作り変える…。
名づけるならば、そう『エタニティ・ユートピア』………!」
典型的かつ狂気に満ちた選民思想。
デストラの民達も、兵士達も、そして彼にエタニティの一員として招かれた転生者たちも、
こんな邪悪極まりない野望の為に利用されていたのかと思うとリゼルは腹が立ってしょうがなかった。
「…貴方の理想とする世界に、私達リゼル騎士団の居場所はあるのですか?
いいえリゼル騎士団だけじゃない。貴方に付き従ってきたエタニティの人たちの居場所は?」
「残念ながらないな。優秀な者はみんな死に後に残ったのは軽率か無軌道な者ばかり。
そして君達リゼル騎士団は私のエタニティ・ユートピア完成の邪魔をし続けた借りがある故…決して許す訳にはいかない」
リゼルの腹にアルバスの鉄拳が打ち込まれる。
速く、鋭く、そして重い一撃にリゼルは嗚咽しその場に崩れ落ちる。
「リゼルさん!!」
「貴様ぁ!」
ザルディンが跳躍。
前脚でアルバスの頭を叩き潰そうとするが、アルバスは身を半回転させてこれを回避。
「消えてろ、死にぞこない」
魔剣でザルディンの腹を切り裂く。
腹から鮮血めいて魔力を噴出させながら横ばいに倒れるザルディン。
「いやぁぁぁ!!」
半狂乱状態になりアルバスに襲い掛かるモアザ。
眉一つ顰める事無くアルバスが付きつけられた足を掴み無造作に叩きつける。
「うるせぇんだよクソババァ」
駄目押しにとばかりにアルバスはモアザの翼を鷲掴みにする。
炎が腕に燃え移るが、それにさえ構う事無く毟り取り、傷口から鮮血めいて魔力が噴き出す。
一仕事終わったとばかりにアルバスが首を左右に鳴らす。
「さぁ~てぇ…小妻コウを引きずり出してくるか…。」
そう言うとアルバスはコウを探しにふもとの街まで下りて行った。
「小妻コウ!貴様等リゼル騎士団には散々苦汁を舐められてきたが、中でも特にお前の行いが許せん!!
だから決して一発で楽にしてはやらん!!身動きをとれなくした後でゆっくりじっくりと貴様の仲間を1人ずつ嬲り殺しにして、
自分のしてきた事を後悔させてから殺してやるから、覚悟しろ!!」
「しねぇよ。俺は後悔するような事をしたつもりは毛ほども無い。」
そう返しながら店の陰から現れるコウ。
アルバスと対峙するとコウは懐から緑の魔宝石を取り出し、それを口の中に含んで見せた。
「常に回復し続ける事で継戦能力を高めようと言う狙いか。
長期戦に持ち込んだところで、そんな中途半端な闇の力しか使えない勇者が私に勝てると思うのか?」
「闇だけならな」
そう言うとコウは魔剣ランスロットを左手に持ち替えて右手を空高く掲げる。
すると稲妻と共に一本の剣がコウの右手に収まるように現れた。
その剣は…聖剣ペンドラゴン!!
今、勇者コウは聖剣と魔剣、光と闇の力両方をその両手に宿した!!
アーサレナ史上において、光と闇二つの剣を携える勇者が初めて誕生した瞬間である!!!!




