第百九話「ラストバトル パート1」
「コウ!!!!」
ヴァルジオンと組み合うガンダイオーのコクピットの中でリゼルは叫んでいた。
その瞬間ヴァルジオンが僅かにたじろぐのをツバキは見逃さなかった。
一度ヴァルジオンを突き放し距離を取り、
「ガンダイソード、展開!」
ツバキの声に応じてガンダイオーの左腰から剣の柄が出現し、
ガンダイオーの右腕が柄を引き抜くと鍔先から流体金属が噴き出しガンダイソードの刀身を形成する。
ヴァルジオンもまた剣を引き抜き身構える。
一瞬の静寂の後激しく刃を交錯させる二体の鉄巨人。
甲高い金属音と共に繰り広げられる攻防は、
不用意に近づけば瞬く間にバラバラに切り刻まれるであろう激しさを醸し出していた。
横薙ぎに振るわれたヴァルジオンの剣をガンダイオーは避けると同時に空高く跳躍!
必殺の一撃の体勢に入った!!
ヴァルジオンのまた剣を腰だめに構え必殺技の体勢に入る!
「ガァァァン・ダイナミック!!!!」
「ヴァル・ジ・エエェェェンドッッッ!!!!」
互いの必殺剣が激突!
ヴァルジオンが両脚をめり込ませ、ガンダイオーが宙に浮いている都合生じる踏ん張りの利かない故ジェットを噴かしながら競り合う!
「うっ…くく……ぅぅぅ…!!」
「…!いっっっっっ‥‥‥‥けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
リゼルが絶叫しながらレバーを押し出し、ペダルを潰れんばかりに踏むとガンダイオーは背中と脚のジェットを全開にしヴァルジオンを押し出した。
体勢を崩し、切り捨てられるヴァルジオン。
ガンダイオーは着地と同時に片膝をつくと、目の輝きを失いその動きを止めた。
「勝った…けど……」
「一瞬のうちに力を出し過ぎたみたいね。急速冷却が必要だって」
ツバキがコンソールに表示されたガンダイオーのコンディションを見やりそう告げた。
リゼル達は一旦ガンダイオーを降りコウの元へ急ぐことにした。
コウの無事を祈りながら。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
同時発動した魔法の衝撃でコウの周囲には土煙が立ち込めコウの視界は狭まっていた。
正嗣がどうなったかさえ、土煙に遮られて見えない。
コウは膝から崩れ落ち、両肩を使い呼吸を荒げている。
もはや立ち上がる気力すらない。
今正嗣の反撃を許せば確実に死ぬ。
コウは正嗣が立ち上がらず、かつかろうじて生きている事を祈った。
土煙の向こうから人影がコウの方へと近づいてくる。
嗚呼、まさか、そんな…。
リオローアとヴォルローア、二つの魔法攻撃をまともに受けたはずの正嗣がコウの目の前に!
しかもダメージは見た限り殆ど見受けられない!!
「ち…くしょぅ……!!」
正嗣と戦うどころか身を護れるだけの体力すら今のコウには残されていなかった。
打つ手は…ない…。
「やるなら…苦しませずに一思いにやってくれ……」
正嗣は何も言わずに右手を伸ばす。
コウは自らの首が掴み上げられ、無残にへし折られるのを覚悟した。
…が、痛みはおろか首を圧迫される感覚も無い。
それどころか今まで受けた傷と消耗した体力がみるみる回復していく。
「ま、正嗣…お前……!?」
「俺は、自分が何者か知りたい、失くした記憶を取り戻したかった。
そんな時あの男が…アルバスが言ったんだ。『協力すればお前の記憶を取り戻す手伝いをしてやる』って。」
「………」
「だがそれは嘘だった。アルバスは俺との約束を不意にした。
いや、そもそも俺の記憶がどうこうなんて赤の他人であるアルバスにはどうでも良い事だったんだ………。」
「アルバスにとってはそうかも知れないが俺は違う。
お前の記憶が戻らないと言うなら、俺がお前の新しい記憶を作ってやる!!」
「フッ…噂以上に甘い奴だ。だがその甘さこそが、お前とアルバスとを隔てる決定的な差であり、この世界を救うカギとなるのかもしれないな。
洗脳された身で、本気で戦ってみてようやく理解した。アルバスを止められるのはこの世界でただ一人…小妻コウ、お前だけだ」
「正嗣…」
「コウ!」
駆けつけるリゼル達。
コウと正嗣、傍目にはどちらがどうなったのか解りえない状況に多くの者が困惑した様子を見せていた。
「…どちらが勝ったの?」
「さぁ?正嗣が俺の傷を治してはくれたが、勝敗までは…」
「…コウの目的は俺の命を奪う事ではなくて、俺にかけられた洗脳を解く事なのだろう?
だとすればコウの目的は果たされ、コウを殺せと命じられた俺は目的を果たせなかった事になる。
だから…俺の負けだ」
「…だってさ。あとはアルバスを見つけて倒すだけだが……」
「何処にいるか解ってる?」
ツバキの問いにコウは無言で首を横に振る事しかできなかった。
「見当もつかないし、この辺の地理は全く解らない。いやそもそも、何処に何があって敵がどの様に配置されているか、
それらを知っていたらもっと合理的に作戦を遂行できていた。」
だがそれを知りうるのは全知全能かつ未来を見通す力を持った神くらいだろう。
無論そんな者はこの世にいないだろうし自分たちに力を貸してくれる訳でもない。
虱潰しに探すしかないだろう。
などとコウが考えていたら、
「一つよろしいでしょうか」
話を切り出してきたのはザルディンだった。
「なんですか」
「デストラの地理でしたら私良く覚えてますけど…」
考えてみたら当然だった。
ザルディンはかつてデストラでも指折りの魔術師と謳われていた。
ともなれば仕事を探しに来た訳でもない限り生まれも育ちもデストラと考えるのはむしろ当然。
そして同じ事はモアザさんや2人の娘であるシャイン、シャッテにも言えるだろう。
渡りに船とはまさにこの事か。
ザルディン・ペガサスは北の方を顎でしゃくり、
「ここから北にずぅっと行った山の麓に、私が生まれるずっと前に建てられた時計塔があって、
そこから街を一望できるんですよ」
「懐かしいわねぇ。あの日見た美しい夜景。そして街の明かりに照らされ光り輝く指輪…」
「いやアンタ達の馴れ初めとか結婚秘話はどうでも良いから」
「えー何で?」
「滅多に聞けないよこんな話ー」
両親のコイバナを早々に切り上げようとするコウにシャインもシャッテも口を尖らせ文句を垂れる。
こういう所は妙に子供っぽい。
この世界はともかくコウのいた世界ならもうお姉さん扱いされてもおかしくない年なのに。
「父さん母さんの馴れ初めだったら、後で好きなだけ聞かせて貰えばいいだろう。
今重要なのはアルバスが何処に潜んでるかの手がかりだ。
時計塔以外に街を一望できる所はありませんか?」
「高台自体は幾つか思い浮かぶんですが時計塔より見晴らしのいい場所は…無いですね」
「決まりだ。まず時計塔に行って、そこにアルバスがいなかったら他の高台を虱潰しに探していく。」
「でも、ガンダイオーは使えないわよ。
さっきの戦闘でエネルギーを使いすぎて、急速冷却が必要だって」
リゼルのその報告はコウにとって思わぬ痛手だった。
顎に手を添え苦々しい表情を浮かべるコウ。
「参ったな。空から探せないとなると最悪見つけるより先に逃げられる可能性が…」
「それでしたら」
モアザの身体がみるみる巨大化していき、先程のおよそ10倍の大きさに変貌した。
コウ達リゼル騎士団一同を見下ろせる今のモアザの大きさなら全員を乗せて空からアルバスを探す事は容易いだろう。
「しかし、どうして?」
「今の私の肉体は魔力エネルギー体同士を細胞の代わりに結合させた物。
魔力エネルギー体同士の距離を操作すれば大きさを変える事など造作もありません…。
とにかく、皆さん私の背中に乗ってください。」
モアザに促されコウ達はその背中に乗り、シャインとシャッテがザルディンの背に乗ると、アルバスがいると思しき時計塔を目指す。
火の鳥故体の火が燃え移らないかと言う不安に駆られはしたが、モアザの背中は意外にも熱を全く感じさせなかった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
人を乗せ空を飛ぶ巨鳥の姿は嫌でも人目に付く派手さがあり、
それはデストラの兵士ひいてはエタニティの残存兵力も例外ではなかった。
「勇者とその仲間だ!!」
「きっとアルバス様の所へ向かうつもりだ!!」
「撃て撃て!撃てぇーっ!!」
囃し立てるやエタニティの弓道警察隊は一斉に弓を構え、コウ達を背に乗せたモアザへ狙いを定める!
「!?狙われてるぞモアザさん!!」
「大丈夫」
モアザがそう言った時、弓道警察に襲い掛かり次々無力化していく幾つもの人影が見えた。
カイル達騎士団だ。
カイルが上空のコウの存在に気付くとコウ達のいる方を向き左手の親指を立てた。
これは「ここは俺達に任せろ」と言うサインだろう。
「言ったでしょう。大丈夫って」
「ああ。行こう!全てを終わらせに!!」
モアザとザルディンはコウ達を乗せたまま時計塔目掛け一直線。
少ししてモアザとザルディンは時計塔手前のやや広めの敷地に着地した。
「手狭な塔の中では私達はむしろ足手まといになるでしょう。
この場で待たせていただきます」
「あぁ。その方が良いのかもしれませんね」
コウは時計塔と外界とを隔てる大きく重々しい扉の前まで歩み寄ると、そこで一度立ち止まり塔を見上げた。
「…この世界に転生してきてから早一年。
振り返ってみたらずっと戦ってばかりだった…。
普通に食べたいモノ食べて、普通に仕事して…アルバスを倒してこの戦争終わらせたら、
そんな生活が出来るんだろうか」
「…出来るかどうかは、コウ次第だと思う。
コウが平穏を望めば平穏な暮らしが約束されるだろうし、逆に波乱を求めればこれからも険しい日々が待っている筈」
「…そんなモンなのかリゼル」
「そんなモンよ」
「開けるぞ。全員、戦闘態勢。不意打ちに備えろ」
リゼル達に武器を構えさせるとコウは四肢に思い切り力を込めて扉を押す。
その見た目から想像できる通りに錆びついた蝶番の擦れる音を伴い扉がゆっくりと開かれる。
開け放たれた向こう側。コウの眼に留まったのはいつか見たツンツンヘアーの男の首を締めあげる赤紙の男の姿…!
赤髪の方は紛れもなくアルバス!そしてツンツンヘアーの方は……シロウ!
「アルバス…テメェ…!!」
アルバスがコウ達のいる方へシロウを無造作に投げつける。
シロウは二、三度地面を転げまわった後、コウの足元で静止した。
シャッテがシロウの治癒を試みようとするが、ツバキがシャッテの肩を掴み無言で首を横に振る。
シロウは、死んでいた。
「テメェ、自分の仲間を手にかけたのか!!?」
「仲間ではない。裏切り者だ。裏切り者を処刑するのは当然の事だし…
何よりその男はコウ、貴様にとって関係のない他人の筈だ。
貴様に責められる理由も貴様が怒る理由も無いだろう」
「俺が許せないのは…自分の仲間でさえ嬲り殺しにするテメェの情の無さだ!!」
「…ここまで来たらもう言葉は不要だな」
「話し合いなんて、最初から応じるつもりも無い癖に」
アルバスの冷酷さにリゼルも怒りを露わにし、シャインとシャッテのアルバスを見る目も一層険しさを増す。
「デストラ大統領アルバス・ロア!いいえ魔王アルバス…!今日こそ貴方を倒して、この世界に平和を取り戻してみせる!!」
「魔王…フッ、私の事をそんな風に見ていたのか。やれやれ、自分の正当性を疑いもしない貴様達らしい稚拙な表現だ。
よかろう。そこまで言うのならかかってくるがいい。
貴様らのその陳腐な正義感、完膚なきまでに叩き潰してくれる」
「上等だ。お前の邪悪な野心と野望、今日ここで終わらせてやる!!」
コウとアルバスは互いに魔剣を構え全力疾走。
二振りの刃が交差するとその周囲に衝撃波が迸り、時計塔の四方の壁を切り裂いた。




