第百八話「たとえ、この力弱まろうとも」
ガンダイオーとヴァルジオンの右ストレートがぶつかり合い、生じた衝撃波が周囲の建物をなぎ倒していく。
しかし周囲の被害とは裏腹にガンダイオーもヴァルジオンもさしたるダメージは受けてはいない。
続けてガンダイオーが左足を上げミドルキックを叩きこもうとするが、
ヴァルジオンは左足を掴む事でこれを防御し、そのままガンダイオーを持ち上げ、叩きつける。
衝撃で激しく揺さぶられるコクピット。
しかも今回は規定人数を大きく超えた人数が乗り込んでいる為
ガンダイオーの中はまさにすし詰め状態だ。
「ちょ、押してる!押してる!!」
「コウさん!読まれやすい動きをしてはダメです!!
もっと相手の裏をかかないと!!」
「簡単に言う!!」
「気を付けて!」
リゼルの声に気付き正面に向き直ると、ヴァルジオンの双眸が光り輝くのが見えた。
慌ててガンダイオーの上体を捻らせると先程までガンダイオーの頭があった場所にヴァルジオンの眼から放たれたレーザーが突き刺さる。
あと少し反応が遅れていたらあのレーザーにガンダイオーの頭部は貫かれ、頭に内蔵されたコクピットの中にいるコウ達は丸焦げになっていただろう。
更にヴァルジオンの放つレーザーはガンダイオーの頭部を熔断せんと土と石畳を焼き、横一文字の軌跡を刻みながらガンダイオーを追いかける。
地面を転げまわりながらヴァルジオンのレーザーを回避し続けるガンダイオー。
50メートルほど転がった所でコウは反撃に転じなければこのまま海まで転がる事になると悟り、両方の操縦桿を前に倒し、ガンダイオーを腕の力だけでジャンプさせた。
宙返りと同時にガンダイオーは生成したエネルギー球をヴァルジオン目掛け蹴り飛ばす。
ガンダイシュート・オーバーヘッド!!
ヴァルジオンは飛来するガンダイシュートを苦も無く弾き飛ばして見せた。
「こんな物で俺を倒せると…?」
空中のガンダイオーを見上げる正嗣。
だが彼はここである事に気が付いた。
ガンダイオーの…頭と両腕が無い!!
「何処だ…何処に行った…」
ヴァルジオンの頭部を巡らせガンダイオーの頭と腕を探す正嗣。
あんな巨大な物が一瞬で無くなるなどあり得ない!
と、コクピットが強い衝撃を受け左右に揺さぶられる。
正嗣が自分の頭を左右に振ってからスクリーンの方を見ると、そこにはヴァルジオンの周囲を旋回するガンダイオーの両腕と頭部が変形した戦闘機!
両腕が旋回しながらヴァルジオンの頭を殴り、戦闘機がレーザーを撃ち、更にガンダイオー本体も脚や肩からミサイルを斉射してヴァルジオンに反撃の隙も与えない!!
「小癪な…!」
しかしこれらは全てヴァルジオンの、正嗣の注意を引き付ける為の囮!!
本当の狙いは別のところにあった!
ヴァルジオンのコクピット、最後方にある扉が開け放たれる。
本来なら操縦席か外部から操作しない限り開く事のない扉が何故…?
正嗣が扉の方を見やると!
「うりゃぁっ!!」
突き出された拳に鼻柱を殴られ後方に吹き飛ぶ正嗣。
扉の方には、コウの姿が!!
「まさか機内に乗り込んでくるとはな…予想だにしなかった」
「お前を殺す事なく無力化するにはこれが一番いいと思ってな」
「…良いだろう。俺とお前の決着をつけるにはこのヴァルジオンのコクピットはあまりに狭すぎる。
場所を変えるぞ。…レミー」
「はい」
「以後の操作はお前に任せる」
動揺しながらもレミーと呼ばれたエルマは小さく頷いた。
コクピットの天井が開きデストラの空が露になると、
正嗣は開けた天井から外に躍り出て、コウもマサツグの後に続く。
ガンダイオーとヴァルジオンから50マル―ルほど離れた場所で正嗣は一度立ち止まった。
そして正嗣の目の前にコウも着地する。
「…何故、俺を殺したがらない」
「………」
ふいに悲し気な表情を浮かべるコウだが、マサツグは気にせず続けた。
「何故俺を助けようとする…!俺は敵だぞ」
「例えお前にとってはそうでも、俺にとってお前は敵なんかじゃない。お前は直江正嗣。俺の友達だ」
「お前を友達に持った覚えなどない」
「かもな。お前は自分が元の世界にいた時の事を全て忘れ、おそらくだがアルバスにその事を利用されている。
俺はお前と戦う事を少しばかり躊躇していたが、生半可な気持ちでいたってお前の為にならない事は解った。」
コウが左手を伸ばすと、彼方から魔剣ランスロットが飛来しコウの左手に納まった。
「だから俺はお前と本気で戦う!お前も俺と、本気で戦え!」
「良いのか?本気を出しても」
正嗣が合掌し、両腕を左右に広げると彼の目の前に紫色に煌めく幾科学模様が現れ、
正嗣の大きく両腕を回す動きに合わせて回転し、変形し、分裂し、そして二本の剣の姿を成した。
「後で泣き言言っても聞かんぞ」
「冗談!!」
肉弾戦を繰り広げるガンダイオーとヴァルジオンを背にコウの魔剣とマサツグの魔法剣が激しく交錯。
けたたましい剣戟音が周囲の銃声、爆発音、怒号と悲鳴と混ざり合い、盛大なオーケストラを奏で始める。
正嗣の斬撃をコウは魔剣で防ぎ、続けて繰り出されたパルクールからのあびせ蹴りも魔剣で防ごうとするが、
僅かに反応が鈍り正嗣の左脚を顔面に食らってしまう。
「づぅっ!!?」
頭に響く重い衝撃に眩暈を起こし、頭を左右に振るうコウ。
何故防げなかった?正嗣の攻撃を何とか防ぎながらコウは考える。
『弱くなってる…』
頭の中に響く声。
魔剣ランスロットの声だ。
『この期に及んでなんだって言うんだ!?人の気を散らすような真似はやめろ!!』
『貴方の闇が…弱くなってる……』
『俺の闇が…?』
『貴方は闇に堕ちる要因となった王女を救い出した。
だがそれによって怒りと哀しみが薄れ、憎しみを忘れ、闇が弱まった…。
それは闇の勇者たる今の貴方にとって、致命的な弱体化…。』
正嗣が振り下ろした二本の剣をコウは両手で受け止める。
『本来なら今戦っている正嗣に力負けはしない筈。
なのにこうして押されているのが何よりの証明…。』
『らしいな…!だが俺の闇が弱まったからと言って、聖剣に頼るなんて事もできないんだろ?あいつは頭が固いからな』
聖剣は現在ルトヴァーニャに置いて来ている。
使い手として選ばれたコウの危機には雷鳴と共に瞬時に現れる筈なのだが、
聖剣自体が自我を持っている都合本人(剣だから本剣か?)が必要だと判断し、かつコウが闇の力を有していない時でなければコウの元には現れない。
そうでなければエルマの里で田島京蔵と対決した時あそこまで苦戦する事は無かった筈だ。
なので闇の力が弱まった事で生じた不利は、気合でどうにかするしかない。
コウはほんの少し飛び上がると正嗣の腹を蹴り、大きく間合いを取ると、
意識を集中させ闇の魔法を放とうとする。
だが!
正嗣は二本の魔法剣をコウ目掛け投擲!!
コウはこれを避けようとするが、正嗣が活を入れると魔法剣は瞬時に弾け飛び、
無数の刃となってコウに殺到する!
あまりに予想外の攻撃をコウはかわす事が出来ず、魔法弾の雨を諸に受けてしまった。
「っづぅっ!!?」
流石に致命傷は避けられたが、今の攻撃を連続で、かつ弾幕を張る様に使われたらマズい。
遠距離で戦えばじわじわと体力を奪われるだけだ。
近距離戦に切り替えねば!
しかし!
「そうはいかんぞ」
正嗣はコウの接近を許さない!
両手から魔法弾を広範囲にわたり連射し、コウが近づく隙を与えないばかりか逃げ場すらも奪い去る!!
「くっ…そぉ………これじゃ進むも退がるも出来ねぇ…!」
では正嗣を元に戻すのを諦めるか?いや駄目だ!
今攻撃を受けている状況であきらめると言う事は即ち死を意味するし、
何より今の正嗣を放っておく事は出来ない!
そんな自問自答を頭の中で繰り返したコウが辿り着いた結論は…!
「やるしかねぇ!!」
雄叫びを上げながら正嗣目掛け突進するコウ。
当然正嗣は魔法弾の弾幕で応戦するが、コウは急所への直撃のみを防ぎ手足へのダメージは無視しながら正嗣との距離を徐々に詰めていく!
「正気か…?」
そして!正嗣との距離をワンインチにまで詰めると!!
「くっ!」
「こう近づかれては弾幕もあの魔法も使えないな!」
そう言うとコウは正嗣の腹に掌打を打ち付け掌に魔力を集中させる。
「待て!こんな近距離で撃てばお前もただじゃスマンぞ!!」
「死なば諸共!ここで死ぬ様ならアルバスには絶対勝てん!!」
そう言うとコウは、正嗣の制止も聞かず右手からヴォルローアを、左手からリオローアを放った。
目も明けられない程眩い閃光が、デストラの地を昼間以上に明るく照らし出した。




