第百七話「友との、決着を」
目の前に赤黒の巨人が現れたかと思いきや
巨大な魔法の奔流に呑まれ吹き飛んだ事にテリブルデッドは驚いていた。
勇者の力がここまで凄まじい物とは。
デストラのやり方が面白くないと裏切った彼の判断は結果的に間違ってはいなかった。
そして目の前で起きた事に驚いているのはテリブルデッドと対峙するアースドラゴンも同じ。
こいつの処分を足元の勇者と皇女に丸投げするほどテリブルデッドは横着な性格ではない。
ちゃんと倒さねば。
「ぃよっしゃゲージ溜まったぁ!一気に決めさせてもらっぞ!!」
無論そんなものはない。
テリブルデッドは刀を抜くと怒り狂ったかのようにそれを振り回し、
アースドラゴンを切り刻んでいく。
「ほあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「ほあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「ほあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「ほあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
アースドラゴンの体を覆う堅牢な表皮が切り裂かれ全身から蛍光グリーンの血が噴き出し雄たけびを上げる。
しかし刀の方も振るう度に悲鳴を上げ、ついには甲高い音と共にへし折れた。
もはやこれまでか!?いや、テリブルデッドは諦めていなかった!!
テリブルデッドは折れた刀の柄の方をアースドラゴンに口の中に突っ込んだ!!
悶え苦しむアースドラゴンに、
「テリブリウム光線!テリブリウム光線!!テリブリウム光線ー!!!」
トドメと言わんばかりに口目掛け拳銃を乱射!!
口内を銃弾で抉り取られたアースドラゴンはその場に倒れ絶命。
テリブルデッドもその場で膝をつき、元の大きさに戻っていく。
「やったなおい!」
テリブルデッドが戦い終えるやスタンは喜びの表情と共に彼の元へ駆け寄っていく。
一方のテリブルデッドはかなり疲労困憊気味だ。
「おぅ……疲れたし喉も乾いた。俺ぁ少し寝る。敵が来たら…お前で何とかしろ」
「んな無茶苦茶な…」
「俺はお前を助けたんだから今度はお前がその借りを返すのが筋ってモンだろ。
マジ〇ガーZだってグレートに助けられた後ちゃんとグレートを助けたぞ」
そう言うとテリブルデッドは返事も聞かずその場に寝転がった。
なんと滅茶苦茶な奴だと内心悪態をつきつつもスタンは弓矢を構え何処かに潜んでいるであろう敵に備える。
ここで何もしないのは、騎士の名折れだ!
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よろめきながら立ち上がるジュリアをミハイルは憂いと辟易の入り混じった表情で見つめていた。
目は虚ろで、唇の端から血が滲みだし、剣を握る腕には全く力が込もっていない。
もはや戦う力など残されてはいないのになお立ち向かおうとするジュリアの姿は、かつての友であるミハイルには耐え難い物があった。
「何故…立ち上がる…。何故…戦う…!」
「私は…アルバス様の……剣にして…盾………!
アルバス様に背く…者…は……敵………」
「友達よりも、尊重しなくちゃいけない存在なのかよ。アルバスってのは…」
「アルバス様に…認めてもらう為…にも………負ける…訳に……は……いかないんだぁぁぁ‥‥‥…!!!!」
かろうじて残されていたであろう力を振り絞り、剣を振りかぶってミハイル目掛け突進するジュリア。
しかしその足取りはおぼつかず、とても人の命を奪える力があるものではない。
「……っ!」
ミハイルは近づいてきたジュリアに対し最小限の力でハンマーを横薙ぎに振るう。
ハンマーはジュリアの腹を直撃し、彼女の肋骨と内臓を砕きながら大きく吹き飛ばした。
「ごほっ…!!」
その場で血を吐き出し倒れるジュリアに近寄り、ミハイルは彼女を憂いを帯びた目で見下ろしながら、
「…力もない、それを補えるだけの知恵もない、何が最善で何が最悪の選択かも理解していない…」
「………!………ッ」
聞き取れないほどか細い声。
ミハイルは仰向けに倒れているジュリアに馬乗りになるとハンマーを頭上高く掲げ、
「ジュリア、お前は…戦うべきではなかった」
そのままジュリアの心臓目掛け振り下ろした。
立ち上がり、空を見上げるとミハイルは自分の頬が僅かに湿っている事に気が付いた。
「…俺……泣いている…のか?」
ミハイルは、自分が無意識のうちに泣いている事に動揺していた。
騎士になる上で一切の感情は捨て去ったつもりだったが、結局ただ捨てた気になっていただけだったか。
ミハイルはただその場に立ち尽くし、涙が枯れるまでただ空を仰ぎ見た。
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顔に誰かの吐息がかかる様な感覚でコウはふと目を覚ました。
ゆっくりと瞼を開くと、そこにはこちらの顔を覗き見る…火の鳥と羽根の生えた馬の姿。
「うおぉぁあ!!?」
驚き、腰を下ろしたまま後ずさるコウ。
「あらまぁ、驚かせてしまいましたね」
「無理もないさ。今の私達は人としての姿を失い再構築した肉体を用いているのだから」
目の前の火の鳥と羽の生えた馬が人の言葉を喋ったことにコウは思わず目を丸くした。
いや、片一方は鳥の姿をしているが鳥ではない。
コウは、この鳥の姿をした者の事を知っている。会った事がある。
それは紛れもなく…。
「…モアザ、さん?」
「お久しぶりです勇者コウ。お察しの通り、姿は変わりましたがモアザ・バルバです。そしてこちらが、」
「ザルディン・バルバ。モアザの夫であり、シャインとシャッテの父です。こうしてお会いするのは初めてですね」
火の鳥と羽の生えた馬はそう言うとコウに深々とお辞儀をする。
しかしコウには一つの疑問が芽生えていた。
「貴方達、死んだはずじゃ…」
「確かに、ザルディンは10年前、私はルトヴァーニャ襲撃の折に一度命を落としました。
ですがこの世界、アーサレナは勇者コウの元いた世界とは異なり死した者の魂は一度冥界へ降り、
そこでの功績を認められれば条件付きで蘇る事が出来るのです」
色々と聞きたい事がコウにはあったが、聞かずともおのずと察する事の出来る事柄も少なくなかった為
コウはあえて聞きたい事を一つにまとめる事にした。
「…それでそのフェニックスとペガサスの姿に変わってると言う事か」
「ええ。こうして現世に留まっていられるのはあと21時間が限度でしょう。
それまでにアルバス・ロアを討ち、彼が引き起こしたこの戦争を終わらせなくては」
「解ってますよ。その為に俺はここに来たんだ」
「けど、そのアルバスの居場所は…」
ツバキの言葉にコウは思わず目を伏せた。
探せない、ではなく探していない。
ただ眠っていたとなればぐうの音も出ない。
だがザルディンはコウを責めようとはしなかった。
「…察するに、勇者コウには探す事が出来ない事情があったのでしょう。
ならばそれ以上言及する事は致しません。
それに、そのアルバスと言う者の魔力を感じ取りさえすれば捜索は容易い」
「じゃあ…!」
「そうはいかない」
抑揚のない言葉と共に巨大な塊が空より飛来しコウ達の前に立ちはだかる。
脚だ。巨大な脚だ。
そしてコウが巨大な脚を見上げた、その先には!
「マサツグ…!」
「お前は我々エタニティの邪魔をし過ぎてしまった。その報いは必ず受けねばならない」
あまりに抑揚が無く、あまりに機械的で、正嗣が本心で言っているとはとても思えなかった。
それに正嗣の眼から生気が失われている。まさか、アルバスに何かされたのでは…?
コウの脳裏に一抹の不安がよぎる。
「………どうしても、戦わなくちゃならないのか…!」
「言ったはずだ。報いは受けねばならないと」
「…そうか。平和的に解決すると言う選択肢は初めから無い訳だ。
親友とは戦いたくないと考えていたが、俺が甘かった。
一度お前をぶっ倒して…その性根を叩きなおす!!
ガンダイオー!!!!」
コウの呼び声に呼応して空の彼方より五つの飛行体が近づき、空中で一つの人型を成して着地する。
ガンダイオー。
ルトヴァーニャの、コウ達リゼル騎士団の最強の切札たる鋼鉄の巨人。
デストラ突入時は人員不足の為使えなかったが、今は違う。
ガンダイオーを動かすのに必要なメンバー、ガンダイオーの力がどうしても必要になるほどの敵、
必要なメンバーの心、ガンダイオーの強大な力を使う為に必要な条件は全て揃っている。
コウはリゼル騎士団の皆をガンダイオーのコクピットに乗せ、自らも乗り込み操縦席に腰を下ろすと、
「…お前も、やられっぱなしでいるのは性に合わない口か。
良いぜ、俺にとって友人救う為の、そしてお前にとってのリターンマッチ始めるぞ!!」
そう言ってコウが操縦桿を握りしめるとガンダイオーは顔を上げ、ギラリと目を光り輝かせる。
対する正嗣もヴァルジオンの肩からコクピットへと滑り込み、ヴァルジオンがファイティングポーズを構える。
デストラ攻防戦において、最大の戦いが始まろうとしていた。




