第百四話「賽は投げられた、と先人は言った」
街中に出たコウ達を待ち構えていたのは路地を埋め尽くさんばかりの数のデストラ兵だった。
剣、槍、銃と多様な武器を手に凄まじい剣幕で襲い来る様に思わず気圧されそうになるが、
かと言って逃げるわけにもいかない。
「どけぇぇぇぇぇぇ!!!!」
コウも負けじとばかりの気迫で抜刀。
素早い身のこなしでデストラ兵たちの首筋を剣の側面や柄で殴り昏倒させていく。
しかし残りのデストラ兵等はなおもコウ目掛け押し寄せてくる。
左右を見やるとそのどちらからもデストラ兵がコウの方へ向かっているのが解った。
一人一人を相手にしていたのではキリが無い。
そう判断するやコウはツバキ達に「伏せろ」と叫び、空高く飛び上がると、
両掌に魔力を込める。
両掌に蓄積された魔力は紫色の輝きを放ち、
その輝きにある者は目を伏せ、またある者は狼狽え、またある者は危険を察し踵を返して逃げ出そうとする。
コウは、それらを薙ぎ払うのに一切躊躇はしなかった。
より多くを救う為、大切なものを取り戻す為、コウは叫び、放った!!
「ヴォルッローア!!!!」
ヴォルローア。
餓狼の咆哮を意味するその魔法は紫の閃光と衝撃を以てデストラ兵等を吹き飛ばしていく。
華麗に着地を決めるコウの前に一人の女が悠然とした足取りで現れた。
「ずいぶん派手にやってくれてるじゃない」
「お前は確か…スカーレット・マンダか」
「あら。覚えてくれて光栄だわ」
「どいてくれ。アンタと遊んでいる時間はないんだ」
「悪いけど、そうも言ってられないの。こっちもアルバス様に言われてるのよ。
貴方達をここに足止めしろ。ってね」
「…兄ちゃん、ここは私たちに任せて」
そう言ってコウの前に歩み出るシャインとシャッテ。
「シャイン…シャッテも」
「さっき言ってたでしょ?遊んでいる時間はないって」とシャイン。
「取り戻さなきゃいけないんでしょ?お姉ちゃんと、友達」とシャッテ。
スカーレット・マンダもまた転生者。
一筋縄でいく相手ではない事は2人も重々理解している事だろう。
だが、それを承知の上であえてこう言っているのなら、二人の覚悟は相当なものだろう。
「…解った。2人とも、絶対に死ぬなよ」
「兄ちゃんも、絶対生きて…生きてまた会いましょう!」
シャイン達をその場に残し先へ進もうとするコウ達。
だがスカーレット・マンダがそれを阻まんと立ちはだかる。
「行かせないよ!」
「それはこっちのセリフ」
更にシャインとシャッテがスカーレット・マンダの前に立ちはだかる。
「お前の相手は」
「私達」
「…良いわ。そこまで言うなら相手をしてあげる。」
コウ達がその場を走り去るのを見届けるとシャインとシャッテは各々杖を構える。
スカーレット・マンダもまた懐から鞭を取り出し、一振りしてみせた。
ビュンッと風を切る音が鳴り、それが戦いの合図となった。
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コウ達が突撃し敵の注意を引き付けてくれたおかげで、
後続の部隊がデストラに上陸するのはかなり容易になった。
それはカイルやミハイルの部隊も例外ではない。
崩れた敵の防衛網を掻い潜って上陸。
そのまま残りのトーチカを無力化させるとそのまま都市部へと進撃を開始する。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!」
ルトヴァーニャ兵が建物一つ一つを確認しつつ、歩を進めていく。
だが兵士の一人が酒場だったであろう店の扉を開け、中を確認しようとしたときだった。
「ぐあぁっ!!?」
扉を開けた兵士が真逆の方へ吹っ飛んだ。
ミハイルが駆け寄ると、その胸には剣が突き刺さっているのが解る。
兵士は…即死だった。
「ダニー…」
ミハイルは何者かに殺された兵士の名を呟いた。
そんな時だった。
ダニーと呼ばれていた兵士の命を奪った張本人が姿を現したのは。
「その男も、これからアルバス様が築かれる新時代の礎となる。
それを覚悟したうえでこの地に来た筈です。違いますか?」
「ジュリア・O・カーター……!」
ミハイルは開け放たれた扉を睨み、声の主の名を忌まわし気に呟いた。
「それによく言うでしょ?『死んでいった人たちは貴方の心の中で生きている』と。
貴方が彼の顔と名前を憶えているのなら、それで良いじゃないですか」
「…もう俺の友だったジュリアは死んだんだな」
「何を言っているんですか?私はこの通り生きています。心臓だって動いてるし呼吸だって…」
「そうじゃねぇ…今までは昔の好で許してやろうかとも考えていたが、甘かった。
お前があのアルバスって野郎に魂売ったと言うのなら、もう容赦しねぇ。
全力で…お前をぶっ潰す!!」
「無理無理無理無理。私にはアルバス様より賜った暗黒剣があるのだから!」
怒るミハイルを非情に嘲笑うジュリア。
彼女の態度は、ミハイルの怒りをさらに加速させる。
「貰い物の力で粋がるな!!!!」
ミハイルがハンマーを振るい、ジュリアの暗黒剣がそれを受け止める。
飛び散る火花がミハイルの険の深さをより一層際立たせた。
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「状況!」
デストラ沿岸に上陸するやスタンは苛立たし気に近場の兵に怒鳴る。
スタンの率いる部隊を乗せた上陸艇は機銃掃射を避けようと右へ左へとフラフラと航行した結果
予定していたポイントから大きく離れしまっていた。
大変由々しき事態である。
「我が隊は現在上陸予定ポイントより南に400キロの地点にいます!
国境近いこの場所からポイントへ向かうのは合理性に欠けます。
それだったらいっそ、このまま大統領府まで向かった方が早いかと…」
「そうせざるを得ないみたいだな。くそっ…誰かさんの臆病風のせいで無駄な体力使わされる羽目になっちまったじゃねぇか」
悪態つきながらスタンは部隊の仲間を引き連れ前進を開始する。
既に戦闘が始まっているのか、先日のクーデターの爪痕か
町のあちこちには無残な破壊の後が刻まれていた。
壁は銃痕で抉り取られ、店の看板は何の店の物だったのか解らない程八つ裂きにされ、
良く見ると惨死体がロクな処理もされず放置されている。
「…ひでぇ有様だ。」
「この死体、死後数日は経ってますよ」
「死んだ人間を弔いもせず放置し続ける、無茶苦茶な命令で敵も味方も引っ掻き回す、
不可侵条約があった筈なのに無視する……。この国終わるな」
「けどアルバスが健在な限り終わらせる事もできな」
会話を遮る様に一発の銃弾が彼方より放たれた。
銃弾は一人の兵士の頭を直撃し、血と脳漿をまき散らしながら兵士はその場に倒れ込んだ。
「!?狙撃兵だ!全員建物の中に!!」
部下共々近場の廃屋に逃げ込もうとするスタン。
だが、廃屋の扉を開けた途端無数の銃口がスタンに向けられる。
罠だった。さっきの狙撃も含めて…。
「一部隊の隊長がこんな所に来るとは実についてるな。さて捕虜になるかこのまま死ぬか…
どっちがいい?」
「…俺は………」
鳴り響く銃声。
スタンは自分が激痛に苦しみながら死んでいく事を覚悟したが、現実にはそれとは逆の事が起きていた。
胸から血を滲ませ倒れるデストラ兵その1。
その背後には赤黒い服装赤黒い覆面の異様な出で立ちの男が立っていた。
「そりゃお前ぶっ殺して生き抜く方が良いに決まってるだろ。なぁ?」
「いや、いきなり聞かれても…て言うかあんた誰だよ」
「おぉっと。そういや俺とは初対面だったな。俺の名はテリブルデッド。自由気ままな傭兵で…転生者さ」
「転生者って…味方なのか!?」
スタンは驚いていた。
彼は転生者に会った事は過去にもあったがその殆どとは敵対しており、
勇者コウ以外の転生者は敵であると言う先入観があった。
それ故明らかに協力的な態度をとる目の前のテリブルデッドと名乗る男に偉く驚嘆し、そして感動すら覚えていた。
「俺だけじゃない。元エタニティのシロウやスーパーシバタブラザーズ、エタニティやデストラに反発する転生者たちが
殆どこのデストラに集結している。あの小妻コウとか言う勇者と共に、こんな馬鹿げた戦争を終わらせるためにな。」
「つまり、援軍って事か」
「そう言う事。さぁ、街中のおばちゃんみたいに雑談に時間割いてる暇ねぇぞ!」
テリブルデッドは左右で身構えているデストラ兵たちを一瞥すると、踵を返すと同時に拳銃を構えなおす。
「パーティーはまだ前菜が出てきたばかりなんだからな」




