第百三話「本土上陸」
改元おめでとうございます!
令和になっても、本作をよろしくお願いします
ルトヴァーニャ艦隊から発進した無数の水陸両用の上陸艇がデストラの浅瀬を凄まじい速度で駆け抜けていた。
その中の一隻に、コウ達リゼル騎士団の姿もあった。
「俺はやれる。俺はやれる。俺はやれる…」
壁際の座席に座り込み、俯いたまま壊れたテープのように同じ事を繰り返すコウの姿はある種の不気味さを醸し出していた。
「ちょっとコウ!私達の突入ルートについてなんだけど…」
右隣に座るツバキの声に耳を傾けるどころか見向きもしないコウにツバキは肩をすくめて見せる。
「無理ないよ。今回のは今までと違って失敗したら取り返しがつかないどころの話じゃないもの」
「緊張、しない方がおかしい」
仕方ないのでツバキは僅かに身を乗り出し、上陸艇の操舵士に話しかける。
「あの!突入ルートの事なんですけど…」
「上陸まではこのまま直進!その後船を降りたら都市部を抜け、まず大統領府を目指し…」
操舵士の言葉は突如飛来した銃弾によって遮られた。
弾丸は上陸艇の窓ガラスを突き破る事は無かったが、蜘蛛の巣状に広がったヒビがその威力を物語っている。
「!?銃撃!!?しかも正面から!?」
「大丈夫です!この上陸艇は窓も含め防弾仕様になっていて、
ライフル程度だったら耐えられる様に作られています!!」
狼狽するツバキをなだめる様に操舵士は怒鳴った。
怒鳴るのは銃撃が先ほどの一発では終わらず、スコールのように激しく窓を叩きつけているからだ。
コウは立ち上がり、操舵席まで身を乗り出すと、
「船速最大!このまま突っ込め!!」
「最大!?危険すぎます!身の安全は保障出来かねます!!
それにそういう話は自分じゃなくて機関室の人に」
「身の安全なんて物、この場には存在しない!
現に今俺たちの船が狙われてるんだぞ!!」
「でも防弾仕様なので…」
「いくら防弾でも限界はあるんだよ!!
デストラが防弾性の装甲を貫通する銃弾を開発していたり、
魔法で貫通力を強化してくる可能性だって0じゃ…」
再び、会話を遮る銃声。
しかも今度は窓ガラスを突き破り、操舵士の眉間を貫いた。
操舵士は即死。コウが想定していたであろう中でも、最悪の展開が現実となった。
「ひぃぃっ!?」
悲鳴を上げるシャイン。
コウが右手を見やると、既に幾つかの上陸艇が黒煙を上げながら沈んでいき、
乗組員等が次々海に投げ出されるのが見えた。
砲撃によるものなのか、それとも魔法による攻撃か、そんな事は今はどうでも良かった。
コウはかけられていた無線機を手に取ると、
「機関室聞こえるか!操舵士がやられた!!これ以上は持ちこたえられそうにない!」
「これ以上はって…!?」
「良いかよく聞いてくれ!今すぐ機関を最大船速に!!
この船ごと突っ込む!!」
「んな無茶な!!」
狼狽する機関士にコウは流れ弾に当たらないよう身をかがめながら、
「防弾ガラス突き破られてんだ!下手に踏みとどまったりしっぽ巻いて逃げれば逆にハチの巣にされるだけだ!!
そもそも俺達に逃げるという選択肢は、用意されていない!!」
「…身の安全は保障しかねますよ」
「もとより承知の上だ」
無線機越しに機関士が「機関最大船速」と叫ぶのが聞こえ、
コウはツバキ達に弾が当たらない所にしがみついている様に命じる。
直後、船体がガクンと大きく揺れた後コウ達は急に後ろに引っ張られる感覚に襲われた。
車を急加速させると椅子に身体が押し付けられるアレに似た感覚だ。
コウ達の乗る上陸艇は、最大船速で対岸へ向け突き進んでいた。
水面を滑る様に直進するその姿は、まるで弾丸だ。
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「サノバビッチ!!撃っても撃ってもキリがねぇぞ!!」
止めどなく押し寄せてくるルトヴァーニャの上陸艇の数にライアンは思わず悪態をついた。
デストラ沿岸に設置されたトーチカの銃座を任されたは良いが、数が多すぎる。
それに一隻沈めるだけでもかなりの銃弾を当てる必要がある為かなり効率が悪い。
と言うか、砲弾の方がよほど敵艦を沈めている。
「文句を言う権限は与えられていないぞライアン上等兵!
無駄口を叩く暇があったら撃て!」
そうライアンを注意するのは彼の上官ジョンソン軍曹だ。
ライアンをはじめ彼の部下たちはいずれもデストラ防衛の為砲撃に従事しているが、
ジョンソン本人は命令を下すばかりで肉体労働の類は一切行っていない。
ライアンはそれが気に入らなかった。
ああやって偉ぶってはいるが本当は何もできないんじゃないのか?
ライアンは訝しんでいた。
そんな折、
「正面!急速に接近する艦あり!!」
誰かが叫び、ライアンは正面へ向き直った。
明らかに他を引き離す勢いで近づいてくる艦が一隻。
「う…撃て!!撃て!!!」
ジョンソン軍曹に促されるがままライアンは機銃の引き金を引いた。
命令に従うのは癪だが、目の前の脅威を無視する訳にもいかない。
だが、止まらない。
銃弾の雨を受けても標的は直進をやめようとはしない。
砲撃で海の藻屑にしようともしたが直進するスピードは砲弾のそれを上回っている。
「止まんねぇぞ!!?」
「やっぱ機銃じゃ足止めすら…」
瞬間、ライアンは我が眼を疑った。
標的の艦が姿を消したのだ。
いくら超高速で移動するとしても一瞬で消えるなんてありえない。
そう自分に言い聞かせたまさにその時、ライアンのいるトーチカ内が急に暗くなった。
誰だ部屋の中暗くしたのは。
そう言おうと顔を上げた瞬間、ライアンは再び我が目を疑った。
目の前に巨大な上陸艇の姿。
先程急スピードで突っ込んできた艦だと言う事は直感で理解する事が出来た。
だが、ジャンプしてこっちに突っ込んでくるのは流石に予想の斜め上を越えていた。
「嘘だろ………」
その驚嘆に満ちた言葉はライアン達迎撃隊のいたトーチカごと押しつぶされた。
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トーチカに激突しその機能を失った上陸艇。
その扉が蹴破られ人影が顔を出した。
コウだった。後に続くようにツバキとシャイン、シャッテ、シド、エルも次々と外に出る。
「さすがにやりすぎですよ!敵のトーチカに体当たりするなんて…」
首筋を抑えながらシドはコウを怒鳴った。
「だが相手の注意を引きつける事は出来たし、結果オーライってヤツだ。見ろ」
友軍の上陸艇が後に続けとばかりに次々と上陸を果たし、兵士達がデストラ本国へと突入していく。
無論、他のトーチカに撃墜される者も少なからず存在してはいたが。
「俺達は道を切り開いたんだ。勝利への第一歩をな」
「…カッコいい事言ったつもりなんだろうけど、こんな無茶は二度とゴメンっスよ」
エルの返答は思いのほか辛辣であった。
「…行くぞ。アルバスは、必ずデストラの何処かにいる」
そう切り出しコウは先へと進む。
コウにはアルバスがこの状況を目の当たりにして尻尾を巻いて逃げ出すような性格ではないと言う確信があった。
直接話をした機会は多くはないが、奴の人となりはそれなりに理解できたつもりだ。
散々デストラひいてはエタニティにたてついてきたコウを、アルバス自身いい加減潰したいと感じている事だろう。
だから、奴が逃げる事は無い。逆に決着をつけるべくデストラの何処かでコウの到着を待ち構えている筈だ。
それこそ、RPGのボスキャラのように。
それはコウにとっても望むところであった。
今までの戦いには殆どアルバスが裏で絡んでおり、
コウのアーサレナでの二度目の人生は実質アルバスと共にあると言って良いほど。
ここまで来るともはや舞台装置である。
今いる所を動くなよアルバス。
俺達の方からそっちに行ってやる。
コウはそう胸中で何処にいるのかも解らぬアルバスに語り掛けた。




