第百話「アルバス憤怒」
この物語もついに百話目を迎えました。
だがまだ道半ば。書きたい事書かなきゃならない事は山ほどあります。
それが皆様の期待に沿うものかどうかはまだ解りません。
なので今言える事はただ一つ。
これからもよろしくお願いします。
組み合うアルバスとマサツグ。
傍目には実力は互角に見えるが、
2人には力の差が存在していた。
徐々にだがマサツグが押し返され始めている。
「愚かな。お前は力押しではなく魔法が得意なタイプ。
力比べをしようなどとは、愚かな判断だ」
「ぐあぁぁ…ッ!!」
右手を握られ苦悶の叫びをあげるマサツグ。
「このまま右手を握りつぶして、二度と逆らえない様にしてくれる」
更に右手を握る力を強めるアルバス。
「ッッ!!」
しかしマサツグは空いていた左手に魔力を込め、アルバスの腹に左手を打ち付けると
そのまま一気に左手に込めた魔力を放出した。
窓ガラスを突き破り外に放り出されるアルバス。
しかし彼は地上へ落下する事なく空中で身を翻し、その場に浮遊し始めた。
「やはり飛行魔法程度は造作もなく扱えるか」
「そういう事だ。叩き落として殺せるなど思わない方がいい」
「ぬかせっ!!」
マサツグは割れた窓の向こうにいるアルバス目掛け魔法弾を連射。
アルバスはそれを最小限の動きで回避しつつ執務室へと舞い戻る。
「くっ!?」
「単純かつ単調な攻撃。当たる方が難しいと言うものだ」
ニヤリと唇の端を吊り上げると、アルバスはマサツグの顔を思い切り殴りつけ、
更にマサツグの髪を乱暴につかみその顔に膝蹴りを叩きつけた。
「ガ…ハァッ……!!」
「お前はエタニティの設立以降初めての反逆者だ。
楽に殺すつもりはない…。ゆっくり、じっくりと甚振った上でお前を慕う者たちを、
お前の目の前で殺し絶望の底へ叩き落としてから…」
アルバスがマサツグに怒りの丈をぶつけている最中であった。
開け放たれたままの出入り口から一瞬風が吹き荒れたかと思いきや
アルバスの身体に無数の切り傷が刻まれた。
「!?…私とした事がマサツグ、お前には眷属と呼ばれる仲間がいる事を忘れていた。
しかも事もあろうに…」
アルバスは、駆けつけたマサツグの眷属を一瞥する。
美しい銀色の髪、凛とした顔立ち、細身ながら引き締まった手足、
黄金の瞳は輝きを失っていたがアルバスはその顔を知っていた。
「ルトヴァーニャの、皇女とはな」
リゼルは無言のまま左右一対の細剣を構える。
二対一。しかし戦局は決してマサツグ有利とは言えなかった。
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「デストラ本国へはまず船で沿岸まで接近し、その後上陸艇を使い部隊を輸送。
敵戦力をかく乱しつつデストラの現首魁、アルバス・ロアを探し出し…抹殺します」
円卓の上に広げたデストラ周辺の地図を指さしながら女王が作戦の概要を説明する。
その周囲には円卓を取り囲むように座する部隊長等とコウの姿。
その表情はいずれも真剣そのものであった。
「言うだけなら単純明快。ですが女王、アルバスの力は想像を絶します。
ここにいる、勇者コウですら一度は彼に敗北を喫しております…。」
コウは、カイルの言葉に何も返す事が出来なかった。
どう言い繕おうとしてもカイルが言った事は紛れもない事実であり、
既に過ぎた事である以上変えようがない。
だが、
「…女王陛下、アルバスの事は……俺に任せてください。」
「よろしいのですか?コウさん、貴方は一度アルバスに…」
「確かに俺は、一度アルバス・ロアに敗北を喫しました。
けれど、一度の敗北で全てが無に帰した訳ではありません。
現に俺はこうして生きてこの場に居合わせています。
奴は確かに手強い。だが無敵と言う訳ではない。
ただ一度だけ、奴を打ち負かせば良いだけの話なんです」
「打ち負かす、以外にもやる事があるでしょ?」
そう話の口火を切ったのはシドであった。
「ルトヴァーニャは先の戦いで二つの代え難いものを同時に奪われました。
国王の命と、姉さん…リゼル王女です。
国王はもう取り返しがつきませんが、王女は取り返せます。
いや、取り返さなくてはならない!そうでしょ?」
「…当然だ。やられっぱなし取られっぱなしで、その屈辱を「過ぎた事はしょうがない」の一言で全部諦めてしまっては、
勇者の名折れだ」
円卓を囲う騎士たちも「同感だ」「俺だってやられっぱなしじゃいられない」「ここでやらずいつやるのだ」などと
各々に戦う意思を表明しだしている。
「…作戦会議の初めに、自信のない者、覚悟の出来ていない者は降りても構わないと言ったが、
その様な者はこの国には一人もいないらしい」
カイルがフッと微笑んだ。
「頼もしい限りですね」と女王。
「大和の動向は?」
「本作戦に協力する姿勢を見せています。
おそらく上陸作戦の前に合流できるかと…
出発は明日の明朝。それまで外出は控え自室で英気を養っておくように。」
女王のその一言を最後に作戦会議は終了し、騎士たちは各々に会議室を後にしていく。
コウも、他の騎士たちに倣い自分の帰るべき家へと赴く事にした。
先の戦いで、家が壊されてないかコウは不安だった。
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横薙ぎ、突き、逆袈裟、切り上げ。
目にも止まらぬスピードで繰り出されるリゼルの連続攻撃をアルバスは紙一重、かつ最小限の動きで避けていく。
マサツグがアルバスの後ろから魔法弾を連射し攻撃するが、
アルバスは正嗣の方を見向きもせず片手で魔法弾を弾き飛ばした。
「クッ!」
「焦れば焦るほど、勝機は逃げていくぞ。もっとも、最初からそんな物ありはしないがな」
「黙れぇ!!」
激高したマサツグが右手から紫色の魔力の刃を展開しアルバス目掛け突きを繰り出す。
一瞬の内に五回。しかしアルバスはそれら全てを紙一重で避けてみせた。
更にアルバスはマサツグの右腕を掴み身動きが取れないようにすると、
「君は確かな実力を持っている。自らの罪を悔い改め再び私に忠誠を誓うなら…」
アルバスの言葉は、右脇腹を走る衝撃によって遮られた。
突きつけられたマサツグの左拳から紫の閃光が迸り、アルバスの身体を抉りながら後方へ吹き飛ばす。
「く!た!ば!れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
マサツグはすかさず左拳の人差し指を伸ばすと指先から魔法弾を先ほど抉ったアルバスの右脇腹目掛けて連射する。
この魔法弾は、攻撃範囲は物凄く狭いがその分破壊力と貫通力に特化した一点集中型だ!!
爆風と爆炎が巻き起こり、アルバスの姿を覆い隠す。
「…っあっ!…っはっ・・・・はぁっ……はぁっ……。さ…さすがにやったろ…?」
が!爆炎を掻き分けマサツグの首に掴みかかる影が!!
アルバスだ!奴はまだ生きている!!!
「グゥッ!!?」
「さすがに今のは痛かったぞ。君たちに勝機は最初からないと言った、先ほどの発言は撤回すべきかな」
「勝機なん…て……いらね…ぇ……!
テメェを殺せ……る…なら………それでいい…!!」
嗚咽しながらもなお食らいつくマサツグ。
それに呼応するかの様に二つの影が風のようにアルバスへ殺到し、その背中に二つの切り傷を刻み込んだ。
ルプスと、リヴィア。マサツグの眷属としては最古参にあたる二人だ。
「マサツグ様、ご無事で!」
「まさかアルバス・ロアと一戦交える事になるとは…長期戦は避け一気に決着を!」
リヴィアが手にした槍をアルバス目掛けて突き付け、ルプスが別方向から鋭い爪を振り下ろし、
更にリゼルがまた別方向から細剣で斬りかかる。
三方向からの同時攻撃。並の戦士なら回避困難かつ三乗の威力で致命傷は確実だ。
だがアルバスは、三人の同時攻撃を表情を曇らせる事無く全て紙一重でかわし、
そして回避すると同時に三人を攻撃。
リゼルを蹴り、ルプスへ火の魔法を放ち、リヴィアへは手刀を食らわせ三人をほぼ同時に吹き飛ばす。
煉獄の型と名付けられたその構えは一対多数を想定しアルバスが編み出した技術であり、
その技を受けた者はまるで煉獄に堕ちたかの様な苦痛と衝撃を受ける事から、いつしかそう呼ばれるようになった。
「クッ、強い!」
「当然だ。エタニティを作ったのは私なんだぞ。そして私は今のデストラの大統領でもあるのだよ。
人の上に立つ立場の人間が、人よりも弱くてどうする」
「それは猿の理屈だ!力の優劣だけで人の優劣が決まるなど!!」
ルプスが反論するが、アルバスは「犬公風情の言う事か」と一笑に付すばかり。
マサツグは、アルバスのこの態度が許せなかった。
自分でない者は全てゴミとしか見ない傲岸不遜ぶり、
マサツグ自身人を蔑んだ事も傷つけた事もないとは言い切れない。
だがそれは全て失われた自分の記憶を取り戻す為。
本心でやった訳ではないが、今にしてみればなんと愚かな事をしたのだろうと自己嫌悪に陥ってしまう。
そしてその嫌悪感と罪悪感を払拭する方法は現時点ではただ一つ。
アルバスを討ち自分もその命を捨て去る事だ。
マサツグはまず火球を連射し牽制。その数、実に秒間一万発!
秒間一万発の火球でアルバスの動きを止めると紫の刃を今度は足先に纏わせ、アルバスに飛び蹴りをお見舞いする。
その文字通り鋭い蹴りはアルバスの左目を掠め、眼球を抉る。
本来なら易々とかわせる単調な攻撃ではあったが、
火球による弾幕で動きを封じられた為マサツグの攻撃を許す結果となった。
「……ッ!」
「まだまだぁっ!!」
追い打ちに右側面から槍を突き立てるリヴィア。
しかしその一撃は槍の柄を掴まれ阻まれる。
アルバスの槍を掴む力は強く、引くも押すもできない。
「うっ!?」
「今のはさすがに痛かった…。」
アルバスはさらに力を込め、槍の穂先をへし折ると、
「マサツグゥゥ!お前はこの俺に!ここまでの痛みを与えたァァ!!!!」
折った槍の穂先をリヴィアの脇腹に突き刺し、
「それが如何に愚かな行いか!骨の髄に至るまで、恐怖と苦痛と共に刻み込んでくれる!!!」
何処かより魔剣を呼び寄せ、悶え苦しむリヴィアを切りつけた。




