第九十六話「守りたいもの、守りたい理由」
けたたましい鐘の音が見張り塔の頂上から鳴り響いていた。
同時にエルマの男たちが各々に剣や弓で武装し緊迫した面持ちで正門の前へと殺到する。
敵はわずかに一名。しかしたった一人で攻めてくると言う事は裏を返せばそれは絶対に倒されないという自信の証明でもあった。
刀と銃で武装した男の姿を、田島京蔵の姿をエルマ達が捉える。
「ハンヤリ!!」
隊長格のエルマの合図で弓兵エルマたちが京蔵を取り囲むように散開、
剣で武装した一人のエルマが京蔵に切りかかる。
つばぜり合いに入り、京蔵が目先のエルマにクギ付けにされている隙に
他のエルマたちが京蔵の死角から一斉に矢を放つ。
逃げ場も防ぐ暇もない包囲攻撃。エルマたちは勝利を確信した。
しかし、現実は彼らの予想を凌駕するものとなった。
放たれた矢は不自然にも京蔵の拳一つ分と言う絶妙な距離でピタリと静止。
そのままへし折るのではなく、押しつぶされるように折れ曲がり、その場に落下した。
「所詮この程度か」
吐き捨てるようにつぶやくと京蔵は眼前のエルマをいなし、返す手でエルマの腹に刀を突き刺す。
刺されたエルマが崩れ落ちるより早く京蔵は猟銃を構え二射。
猟銃を折り排莢するとたすき掛けしていた弾帯から銃弾を二つ取り出し装填。
再び猟銃を構え二発発射する。
刹那の内に5人のエルマが斃された。
その鮮やかにして残酷な手際は、伊達にアルバスが一目置くだけの事はある。
京蔵は近場のエルマだった物に依然突き刺さったままの刀を引き抜き、懐から取り出した紙切れで刃にこびり付いた血を拭うと
里の奥の方へ向け歩き出す。
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「なんだか、外が騒がしくなってきましたね」
地上の喧騒に気づきそう呟いたのはシドであった。
ツバキに頼み、塞がった両腕に悪戦苦闘しながらなんとか肩車してもらい通気口から外の様子を伺ったかと思いきや、
驚きの声を上げバランスを崩した。
釣られてツバキもバランスを崩しシド諸共転倒。
「だ、大丈夫か?」
「いたた…」
「僕も、ツバキさんも大丈夫です。それよりも…この里が襲われています!」
その言葉を聞いた瞬間、ツバキと女王は眼を大きく見開いた。
「そんな、まさか!?」
「シド、相手の顔に…見覚えはありますか?」
「ありません。初めて見る顔でした…。」
「俺は言ったぞ、敵が来るって」
「それが…あの男なんですか?」
「ああ。そしてここのエルマ達では奴には絶対に勝てない。
争いを好まないエルマと、さっきから殺気だだ漏れで俺ここにいますよってアピールしてる奴とでは、次元が違う」
「じゃあどうするの?」
「今この状態じゃどうにもできない。だから族長と話をさせてもらうしか…」
すると地下牢内が急に慌ただしくなってきた。
大勢のエルマたちが突然押し寄せてきたためだ。
見るとエルマたちは殆どが女性か子供、それに老人たちで、
戦えない者たちは安全な場所に避難させようという魂胆が垣間見えた。
問題は、その避難してきたエルマたちの中に族長がいた事であった。
それに気が付かないコウではない。
「…面倒事は若い連中に全部丸投げで、自分は超安全な場所で見物ですか?良いご身分だな族長さんよ」
皮肉交じりに族長を呼び止めると、それに釣られ族長はコウ達の閉じ込められている牢屋の前まで歩み寄ってきた。
コウにしてみればここまでは狙い通りの展開。あとは族長が交渉に応じるかどうかだ。
「不躾な言い草は相変わらずだな」
「一日二日で性格が変わる人間はいませんよ。
…して族長。貴方に話がある」
「貴様と話す事など何も」
「良いから聞いてくれ!まず、今貴方たちが…エルマが戦っている相手はハッキリ言って強い!
畑を荒らす害獣を駆除するのとは訳が違うんだ。奴は言うなれば超人だ。
人並の知性があるから武器だって使うし力はお前たち以上だろう」
「見てもいないのに解るものか」
「解るさ。奴の気をこの場で感じ取った。とてつもなく強く大きい殺気をな」
「たとえ何者がこの里に現れようとここには里一番の精鋭がいる!そう易々とやらせる物か」
「里での一番は世界で一番じゃあないんだぞ。
見たところエルマの女どもはちゃんとした物食べてるかも解らないくらいやせ細ってるが、
男衆もあんな体型だったら、悪い事は言わない。今すぐ下がらせろ」
「貴様ァ!」
コウの言葉に憤慨した衛兵が声を荒げ身を乗り出すが、族長が右手を突き出しこれを制し、
「お前たちなら今里を襲っている輩に勝てると?」
「勝てる!なんて言える自信はない。だが、やるしかないんだ。俺達が…。
俺たちにしかできない事だから…。」
「よかろう…。ならば試してみるか?我が里を護る戦士たちの力を」
族長が顎をしゃくると衛兵がコウ達の入れられている牢屋のカギを開け、更にコウの枷をも外そうとするが、
「待った。どうせ腕試しの為だけに外すのであって自由にするわけじゃないんだろ?
だったらこのままで十分だ」
「大きく出たな。その言葉後悔するなよ…」
族長が右手を頭上高く掲げると、それを勢いよく振り下ろす。
それを合図に衛兵が手にしていた槍を突き出した。
確かな踏み込みから繰り出される素早い突き。
だがこれまで幾人もの猛者たちとの激戦を潜り抜けてきたコウにしてみれば、
エルマの衛兵の突きなどもはや児戯に等しかった。
衛兵の攻撃を難なくかわすとコウは衛兵に軽く足払いをかけ転倒させる。
衛兵が立ち上がろうとするより先にコウが衛兵に腰掛け、族長を見上げこう言った。
「族長、あんたの言う精鋭の強さってのはこんなもんか?
それとも、こいつ一人だけが飛びぬけて弱いだけか?」
「…もう十分だ。貴様の力は十分理解した…。この一件、どうやら貴様たちに任せるしかないようだ。」
「その言葉を待ってた。」
そう言ってコウは立ち上がり、
「俺と、女王以外の全員分の装備を。それから…手荒な真似をしてすまなかった」
別の衛兵らが持ってきた装備を再び身に着け臨戦態勢を整えるシドとツバキ。
コウも戦いに備えんと聖剣に手を伸ばす。
が、聖剣に触れた瞬間電流が迸り伸ばした手がはじき返されてしまった。
何故…?そう疑問に思っているとコウの頭の中に聖剣の声が木霊する。
『我は聖剣。闇の力に魅入られし者我に触れるなかれ…。』
『もう光の力は使えないから、自分を使う事は許さんってか?クドーに使われた事がある癖によく言う』
『それでもならぬ者はならぬのだ』
『…ならいい。もうお前に頼るのはやめよう。これからは、素手で戦う』
「しかし人間よ。我々は貴様たちにとって益となりうる事は何一つしていないししてやれそうもない。
なのに何故我々を護ろうとする?」
族長が問うとコウは半身だけ振り返り、
「助けてはいけないなんて一言も言われてないし、何より助けなかったら俺が後悔する。
ただそれだけだよ」
そう言い残して地下牢の外へ向かい歩いていく。
その背中を見送りながら衛兵が、
「…良いのですか?アレについて何も話さなくて」
「何も教えないに越した事はない。アレは人間の手には余る代物だ。
あやつが例え勇者であったとしても扱えはすまい……」
「そう、ですね…」
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甲高い金属音を伴い剣が真円を描きながら宙を舞い、乾いた音と共に地に落ちる。
周囲には血にまみれ横たわり、動かなくなった数人のエルマ。
一人生き残ったエルマの青年は尻もちをつき、恐怖に震えながら目先の鬼人…田島京蔵を見据える事しかできなかった。
「あ、あああ…」
「お前らの生き死になんざ心底どうでも良い。が、ワシぁ中途半端は嫌いなんじゃ。
だからお前には…死んでもらう」
言いながら京蔵はエルマの青年に一歩ずつ近づき、手が届くほどの距離に達するとそこで足を止め、刀を振り上げる。
エルマの青年は死を覚悟し、目をつぶる。その時だった。
「ッ!!?」
ゴン、と言う鈍い音を立て京蔵が右へ吹っ飛ぶ。
何が起きたのか解らず京蔵が吹き飛ばされたのとは逆の方を向くと、そこには新たな人影が三つ。
コウ達だ。
「野球勝負がまさかこんな所で役に立つとはな」
「ナイスピッチですコウさん」
「き、貴様ら…何者じゃぁ!!?」
「何って…決まってんだろ。正義の味方だよ」




