地下駐輪場の神隠し(6)
「おい、動けるか」
男は遥の前に立つとそう尋ねた。
「うん…」
放心状態だった遥はゆっくりと立ち上がった。
そして、男を見上げる。
「どうして、私が…」
「普通ならお前はこの場にいないんだ」
どうして、私が普通の人じゃないと分かったの?
そう聞こうとしていた遥の言葉は遮られた。
「今日、ここに入る前にな。どうしても自分も行く、って聞かないヤツに言ったんだよ。俺が出てくるまで、誰も入れないでくれって」
ポカンとした表情の遥が呟く。
「じゃぁ、最初から?」
「そうだな」
「そっかぁ…」
微かに笑った遥に、男が尋ねた。
「お前、あれから守っていたのか?」
尋ねられた遥かがバツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべる。
「私みたいに、なって欲しくなかったから」
その後、遥が自分のことを話始めた。
部活が終わった帰りに、この地下駐輪場に来たこと。
そこで、赤い合羽を着た男に殺されたこと。
気付いたらここに居たこと。
しばらくして、あの化物も出るようになったこと。
狙われているのが若い女性だったこと。
そこまで話して、遥は首をかしげた。
「なのに、なんでおじさんを狙ったんだろう?」
「さぁな」
不思議そうな遥に男は素っ気なく答える。
そして、更に付け加える。
「お前、生きてるぞ」
その言葉に、ピシリと遥が固まる。
「え、だって…」
「病院で意識不明の重体だそうだ」
自分の掌を見つめる遥はくしゃりと顔を歪める。
瞳からはボタボタと涙が溢れている。
「でもっ…きっと、前みたいには戻れない、でしょ」
遥は部活で水泳部に所属していた。
タイムもなかなか良くて、大会で受賞できるかもと周囲からも期待されていた。
でも、重体になるほどに鉈で受けた傷。
それはきっと軽いものではないと分かっている。
分かってしまう。
生きていたことへの喜びと、絶望が押し寄せる。
そこに男が言葉を濁しながら声をかけた。
「恐らく、恐らくだが…傷はほぼ完治するし、後遺症も無いだろう。傷は…多少は残るだろうが、支障無いくらいだろう。」
確信しているかのように言った男を遥は訝しげに見る。
「おじさん、なに言ってるの…?」
「お前、ちゃんと神社にお参りに行くタイプなんだなぁ…」
眉間に皺を寄せた男は、苦笑いを浮かべる。
「は…?」
何を言っているか分からない、といった表情の遥に男が笑う。
「とりあえず、安心して帰れ」
「えっ…あっ?!」
男が遥かの手を引き、地下駐輪場の入り口に向かう。
そして、そのまま外に出た。




