地下駐輪場の神隠し(5)
男は背後を怖がる少女の後ろ歩き、通路を進んでいた。
そして、うつむき気味に前を歩く少女の背中を見ながら尋ねる。
「名前を聞いても良いか?」
「…桃園 遥」
そう答えた遥に男は更に問う。
「何で人を拐うんだ?」
その言葉が薄暗い通路に響いた。
コツ…と遥の足が止まる。
それと同時に、再び男の背に悪寒が走る。
何かの気配。
目の前の遥はぶるぶると震えている。
男はその様子に目を見張った。
遥は完全に怯えていた。
「なんで…なんで…」
そう呟いた遥はその場で蹲る。
その間にも気配は強くなる。
振り返ってはいけない。
そう、分かっている。
それなのに、男の身体がぐるりと反対を向いた。
まるで、何かに身体を回転させられたかのように。
『見ィタァァ…』
それは歓喜の声だった。
そして、振り返った先には赤い合羽を着た男――…のような物がいた。
合羽から覗く顔はパーツがぐちゃぐちゃと蠢いている。
それでも判別出来る口元はニタニタと嗤っていた。
そして、片手とおぼしき部分には大きな鉈がぶら下がっていた。
男が静止した瞬間。
背後から叫び声が響いた。
「逃げてぇぇぇ!!!」
遥のつんざくような叫び声に男は駆け出す。
そして、こちらを向いて泣いていた遥の手を取る。
「な、なんで、私っ…」
動揺する遥を他所に、男は考えを巡らす。
こういった、"人ではないもの"に関しての出来事の解決に協力者として関わっている男だが。
男自身が何か出来る訳ではない。
そう、自分は何も出来ない。
後ろからは、ぐじゅぐじゅと音が鳴っている。
見た目に反して早いそれが、直ぐそばまで迫っていた。
――ブォ…
その音が聞こえた直後。
男の左肩が抉れた。
その拍子に遥の手を離す。
肩に赤く生暖かい物をを感じた。
その瞬間に男の足元から黒いものが吹き上がった。
そして、男は振り返った。
そこには、再び鉈を振り下ろそうとする合羽男の姿があったが、男の足元から吹き出した黒いものに絡め取られ蠢いていた。
なおも振り下ろそうとする合羽男の顔面が歪む。
細く小さな手がギリギリと掴んでいた。
「ゔ、げぇ、げ…」
呻き声のような物を漏らす合羽男を握り潰す。
ぐちゃり、と潰れた音を立ててその場に肉塊が散る。
しかし、それで終わりではなかった。
小さな手は手を離された拍子に倒れていた遥に向かう。
遥の眼前に伸びたその手は、ピタリと静止した。
そして、小さな掌が遥の頭を撫でるようにして霧散した。




