『エッジ』 第11章 裏切り(4)
待つこと、およそ15分。高倍率の望遠鏡がかろうじて、島津陣から北に向かう男を捉えた。
三成だ、と礼韻が断定する。馬上で、しかもうしろ姿。はっきり分かろうはずもない。しかし、この切羽詰まった状況下というのに、馬は並足で、それを急かす風もない。その様から見て、たしかに三成以外に考えられない。
涼香は望遠鏡をはずし、礼韻を見た。夢にまで見、友とまで言い切った三成を肉眼で捉えていることを、今、どう感じているのだろう。
果たして礼韻は、大きく震えていた。瘧ともいえるような途切れのない震えだ。望遠鏡が定まらず、両手で支えていた。手の甲と指に強い力が加えられているのが、はっきり分かる。
涼香は見つめてはならないような気がして、再び望遠鏡に目を当てた。馬上の武将は首が傾いでいる。島津ににべもなく断られてうなだれているようにもとれるし、なぜこちらのまっとうな要請が通じないのだと不思議がっているようにもとれる。
「あれはな、すず、両方だ。肩を落としてもいるし、まったく分からんと首をひねってもいる」
涼香は礼韻を見つめてポカンと口を開けた。なんで考えていることが分かったのだろう。
「すず、お前とも少しずつ拈華微笑ができるようになってきたな。もっとも一方通行らしいが」
礼韻は望遠鏡をはずすことなく、フフッと笑った。本当なのだろうか、と涼香は半信半疑だった。礼韻ほどの洞察力の持ち主だったら、この状況で人が考えることなど分かっても不思議はない。
「三成は自分の出動要請を突っぱねた島津の態度に、心底意表を突かれたのだろうな」
そして大きくため息をつき、
「あれが三成の武器でもあり、同時に弱点でもあった」
と付け加えた。少しの間を置き、再び薄く笑う。思い描いていた人物像と行動が一致するのを見て、礼韻は満足の極みに達しているように涼香は感じた。ため息をつくときの礼韻は、案外がっかりなどしていない。涼香は知っていた。
「すず、なんで三成は豊臣政権で出世したと思う?」
礼韻がちらと涼香に向き、尋ねた。




