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22話  謎の御嬢

「国見さんの……妹さん…か?」


 違和感。


 国見沙緒理の姉妹というにはあまりに雰囲気が違いすぎる。

 国見さんはやわらかい雰囲気を持っている人なのに目の前にいる12~3歳くらいに見える子供は、和服を着ているせいか大人びた鋭利な棘のような物が隠れているような、どこか得体のしれない雰囲気に見えた。


 女の子は目線を外し少し伏し目がちに視線を国見さんに向け、そして額に乗せていた手をゆっくりと髪の方に移動させて撫で、そして改めて俺を見て目を細めニコリと笑う。


其方そちがハジメじゃな?

 サオリが教えてくれた通り、なんとも面妖ななぁ。」


 ちょこちょこと目の前にやってきて、右に左に身体を傾けては様々な方向から俺を観察する女の子。

 その雰囲気は興味本位の子供その物で、当初感じた大人のような雰囲気はどこにも無かった。


「俺はハジメで間違いないが……国見さんに何を聞いたんだ? というか、そういうお前さんは一体どこのどちらさんだ? もしかして国見さんの妹とかだったりするのか?」

か? は――」


 俺を見上げ、そして国見さんに一度目をやってから再度俺を見上げ、女の子は何かを企んだように片眉を上げて口角を微かに上げる。


「ふふふふ。

 もしかするとはサオリの妹かもしれんの?」

「いやいやいやいや、何をよくわからんことを――」


 問い直そうとして止める。


 女の子――


 俺が普通に道を歩いて追い越しただけなのに防犯ブザーに手を伸ばされるのは当然。ただ追い越しただけなのに、なぜか泣かれた事もある。そんな出来れば自分からは近づきたくない存在である女の子が、向こうから好感らしきものを感じさせる雰囲気で近づいてきているのだ。

 度胸試しで近づいてい来る男の子ならまだしも、それ以外で子供から声をかけられる事など珍しい。


 つまりこの状況として考えられる事は、この女の子が俺の事を何かしら詳しく知っていて俺に悪い印象を持っていないという可能性がある。というよりも今実際に『国見さんに教えてもらった』というような事を言っていたのだから、この女の子が国見さんの関係者である事は間違いない。

 もしかしなくても本当に妹という可能性がある。


 そんな妹(仮)が悪戯を思いついたように変な問答をしてくるというのは……俺を試しているのだろう。

 なぜ俺を試しているのかという疑問が浮かぶが……それは、きっと単純な事。


 なんせ俺は恩を着せるワケじゃないが国見さんの命の恩人だ。


 それに国見さんは俺の部屋に来た時の様子から、そんなに男が得意そうな感じもしなかったし初心うぶな人のようにも思える。

 そんな国見さんが俺の事を親しい間柄であろう女の子に話していて、その女の子が良い印象を持っているだろうということは……シンイチも言っていたように国見さんはもしかすると俺に好意を抱いている可能性があるのかもしれない。

 いや、きっと妹に看病されている時にでも好意的に俺の話をしたに違いない!


 この女の子が国見さんの妹だとすれば『おねーちゃんの恋人候補? 私が見極めてやるわ!』という気持ちになるのも理解できる。

 であれば、国見さんが眠ってしまっている今、俺のやる事は一つ!



 ――この女の子と仲良くなっておこう。



 もし本当に国見さんの妹であれば、いずれ義理の妹になる可能性も無きにしもあらず。

 それに妹ではなくても親戚の子かもしれない。その場合でも好印象を抱かせておくに越した事は無い。


 考えをまとめ、改めて口を開く。


「いや……聞くのはよしておこう。

 隠しておこうとするのも何か訳があるのかもしれんからな。」


 女の子はキョトンとした顔をした後、小さく笑い始めた。


「ぷっ、ふ、ふふ。」

「ん?」

としては構わぬが、其方そちはそれで良いのかの?

 大らかというか大雑把というか適当……悪く言えばボンクラのようにも思えてしまうぞ?」

「言いたくないのであれば、わざわざ聞かん。」

「ほほっ、可笑しな男よの。」


 またも体を傾けながら細い目で俺を見あげる女の子。


は気にいったぞ。

 のうハジメ。ひとつ話にでも興じようではないか。」

「話? 構わんが……病室だし煩くしちゃイカンだろ?」

「大丈夫さね。サオリはぐっすり眠っておるから起きん。

 それに其方そちはサオリの見舞いに来たのであれば顔を見せてやるのが目的なんであろ?」

「ん~……でもなぁ――」

「なんならの知るサオリの秘密を話の種にしてやっても良いぞ?」


「よし。折角見舞いに来たんだし話でもしようじゃないか。

 って……イスが一つしかないんだな。」

「ふむ?」


 女の子に手を引かれイスまで移動する。

 正確には女の子に指を引っ張られているのだが、どこかひやりと冷たい手に感じられた。


「ほれハジメよ。其方そちが座れ。」

「いや、お前が座ってていいぞ。」

「よいから座れ。が座る場所はもうある。」


 疑問に思いながらもイスに座ると女の子は俺の膝の上に飛び乗って座った。軽い。

 首を伸ばして見上げてくる女の子。


「おいおいおい」

「ほっほっほ。特等席ななな。存外悪くない座り心地の。

 さてハジメ何が聞きたい? はサオリの事であれば知らぬことはないぞ?」 

「なん……だと。」

「おぉ、そうな。ここはひとつ聞きたい事を一問ずつ質問しあおうぞ。

 ハジメ。其方そちからでよい。」


 頭が高速回転しだす。

 妹ならば知っている事も多々あるはず。


「ほれほれ、はよう問わぬか。」

「お、ん……ん~…国見さんは今……その恋人とかいるのかな?」

「おらんな。」


 女の子の即答に春の風が吹き抜けたような気がした。

 感慨に浸っていると女の子が口を開く。


「ではこちらの番な。

 ハジメ。其方そちはまつろわぬ神を喰ろうて何を得た?」


 質問の内容に風がやみ思わず女の子を見る。

 女の子は目を細めたままニコニコとしている。


「まつろわぬ神?」

其方そちらがマガツキと呼んでおるアレな。察するに2匹目喰ろうたんろ?」


 思いがけぬ質問に女の子を見ていると、やがて女の子は細めていた目を開く。

 その黒い目はどこまでも黒く人間離れしているように思え、ゾワリと背中が粟立った。



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