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21話 国見の病室へお見舞い

更新が、ものすごく久しぶりになってしまいました。すみませぬ。

そろそろ物語が動き始めます。




「正直助かった。」

「モテモテだねハジメさん。」


 ニコニコと笑い隣を歩くシンイチに勢いよく振り返り、その肩を掴むハジメ。


「あ、アレはモテてるのか!? モテてたのか!? も、もしかして俺に人生で3度あるというモテ期の内の『初モテ期』が来たのかっ!?」

「ん~。すっごい力だね落ち着いて。痛いから。

 まぁモテ期ではあるんじゃない? みんなハジメさんに興味があるみたいだし。」


 モテ期到来を肯定した言葉に頭の中ではリーンゴーン、リーンゴーンと大きな鐘が鳴り響く。

 都市伝説のような事が本当だった事を思わず神に感謝したくなり、胸に手を当て天を仰ぐ。あぁ、神様。ありがとう。


 その様子を見ていたシンイチは、ポリっと軽く頬を掻き少しバツが悪そうな顔に変わる。


「えっ……と、なんだか…本気で感動してない?

 流石にちょっと茶化したのが申し訳なくなるんだけど……」

「茶化されていたのかっ!?」


 愕然とした表情に変わってしまう。

 ソレを見て吹きだすシンイチ。


「あははゴメンゴメン。じゃあちゃんと客観的に見た印象を正直に伝えるよ。

 皆が興味があるのは本当だよ。ただ……あの3人はそれぞれ個性的すぎて『女性』という括りで見るには少し難があると言えるからね。だからハジメさんの言う『モテ』に入らないかもしれないから。」

「むぅ……」


 盛り上がった気持ちが萎む。


「そうだなぁ、じゃあまずトモエさんだけど……彼女は基本的に興味が沸いた物は、とにかく納得がいくまで調べないと気が済まない性質なんだ。そして調べる為には手段を選ばない。」


 トモエの発していた言葉を思い返すと確か処女の身体を好きにしていい的な事を言われていたような気がするけれど、それに対して交換条件が付いていたような気がする。


「だから率直に言えば『検体』としての興味だけ。まったくもって男女のそれとは程遠いと言っていいね。」

「ぐはぁっ!」


 ハジメは盛り上がっていた心に100のダメージを負った。


「次にマナさんだけど、彼女は……まぁ、基本的には誰とでも寝るというか――」

「ごはぁっ!」


 ハジメは心に300のダメージを負った。


 ショックだった。

 なんとなく分かっていてもショックだった。

 好意を寄せてくれる人がビッチ。この事実は童貞にはただただ猛毒だ。


「マナさんのは男女のソレには違いないんだけど……どっちかというと身体だけが目的というか……」

「ぐっ――」


 膝から力が抜け崩れ落ちる。だが両手に力を籠めて支え、なんとか倒れずに耐える。

 耐えていると『いやいや、むしろ返って都合がいいじゃないか』と頭が思えはじめ膝に力が戻りかける。


「ユキちゃんは――」


 そこは聖域だ! も、もうやめてくれ。

 ユキちゃんという存在は『(仮)の恋人』であり、俺の天使なんだ!

 過酷な現実を見せるのはやめてくれ。


「まぁ……ハジメさんの能力が気になって近くにいるのは間違いないよね。

 そもそもが恋人だの甘い事を言う性格じゃあないから。」


 踏ん張っていた手から力が抜け崩れ落ちる。


 ハジメは心に5万のダメージを負った。


 分かっていた……分かってはいたんだ

 でも……少しくらいは夢を見てもいいじゃないか。

 コイツはなんの恨みがあって俺の夢を踏みつぶして行くんだ……


 そんな事を思い、ぼやけて滲んだ視界で見上げていると、シンイチは片膝をついて俺の肩に手を置いた。


「そこまでショックを受けられると、なんだか心苦しいね……でも、きちんと把握しておかないと全部ハジメさんに返ってくるからね。だからこそ誤解の無いように伝えておくよ。彼女達は皆ハジメさんに『興味』を持っている。

 でもそれは男女の恋愛には程遠い興味だよ。

 彼女達3人はあまりに個性的すぎて、そもそも皆、恋愛には向いてない。」


 恋愛の『れ』の字もありませんと言わんばかりのシンイチの言葉。視界が白くなってゆく。


 どうやらここで夢は終わりのようだ。

 さようなら。俺のモテ期。

 さようなら。初恋。


「――で、僕がハジメさんのモテ期で一番可能性があると思うのは……サオリちゃんですよ。国見沙緒理。」


 シンイチの言葉に視界に力が戻る。


「サオリちゃんは僕らとは違って一般人の括りに入ってるし一般常識も弁えてる。

 こっちの世界の事にも詳しいし、なにより個性的すぎないから恋愛観もきちんとしている。

 だから男女の関係、一人の男としてハジメさんを見れるのは実はサオリちゃんじゃないかと思うんですよ。」


 抜けていた手に力が戻りはじめる。

 国見さんが俺の部屋にやってきたことや、助けた時におっぱいをみた事。それでも有難うと言ってくれた事が次々と頭を過り、思い出の数だけ腕や足にも力が戻ってゆく。 


「それにほら、ハジメさんはサオリちゃんの命の恩人なワケじゃない?

 僕は少しサオリちゃんと話をしたけど、サオリちゃんはハジメさんに助けられた事をしっかりと覚えていたよ。」


 『命の恩人』のフレーズに身体に電気が走り、力が一気に戻り立ち上がる。


 まだだ。まだ死んでない。

 俺のモテ期はこれから始まるんだ。

 まだこれから始まる可能性があるんだ!


 気を取り直し頬を一度叩く。


「ふぅう……落ち着いた。

 ……なんだかようやく自分を見つめ直せたような気分だ。」

「そう。良かったね。」


 とりあえず3人が俺の望む好意では絡んできてくれない事は薄々気づいていたのだ。それを改めてしっかりと認識できた。


 そもそもの話、ユキちゃんは好き嫌いではなく単なるユキちゃんの厚意で恋人の練習をさせてもらえている関係でしかなかったのだから、元々それ以上でもそれ以下でもない。

 目覚めてからの刺激が強すぎて混乱したが一度落ちつけば自分の環境が見えてくる。


 これまで女っ気が無さ過ぎて女性の機微が分からんからこそ、ズバズバ言ってくれるユキちゃんのような存在は有難い。

 こういった混乱をするのも、そういった女性に対した接し方がわからんせいだろう。

 まずは女性と会話する事から慣れなきゃイカンのかもしれない。


「じゃあ、ここをまっすぐ行った突き当りにサオリちゃんの病室あるから、ハジメさんお見舞い行ってきなよ。ボクがいない方がサオリちゃんもお礼を言いやすいかもしれないしさ。」

「えっ!? ちょっ!」


 男女の関係になれる可能性が高いと言われた人の所に行くのは、とてもハードルが高い。

 つい尻ごみをする。


「だってボクさっき見舞ったばっかりだし何度も顔出すのも……ね? 単にお見舞いなだけなんだし。顔見に来ましたーってだけじゃない。」

「わかった……そうだよな。よしっちょっと行ってくる! ただの見舞いだもんな! うん!」

「まぁ、飲み物の差し入れでも買ってから向かうからさ。」


 ニコニコなのかニヤニヤなのかが判断しにくい表情だが、このシンイチという男は悪い雰囲気はしない。

 きっと何かしら気を使ってくれているのだろう。


「よしっ! まずはしっかり謝る!」

「まさか……ほんとに『オッパイみてごめん』とか言わないようにね。」

「……あ、当たり前だ。そ、その、なんだ! 守りきれなくてごめんと謝るつもりだったんだ!」

「ならいいと思うよ。じゃあ買ってくるよ。ハジメさんはコーヒーでいい?」

「あぁ。スマン。」


 財布を探そうとするが無い。あるとしたら部屋かもしれない。

 シンイチは気にせず既に背を向けて歩き出していたので俺も国見さんの病室へ向かう事にした。



 シンイチの指示に従い突き当りまで進む。

 それまで通り過ぎた病室を横目で見ていると、どの部屋も未使用のようで開け放たれている。

 一つの部屋だけ戸が閉まっていて『使用中』の札が表示されており、ここが国見の病室なのだろうと推測できた。


 コンコンコンとノックをする。


「ん? 誰ぞ?」


 声が返ってきた。

 だが違和感がある。国見の声というよりもまるで子供のような声だ。

 つい他の部屋を見回すが使用しているのは目の前の部屋だけ。


 首を捻りながら口を開く。


「あ、開けてもいいですか?」

「かまわぬ。」


 了承を得て扉を開くと中には横たわって眠る国見さんの頭に、そっと手を添えている女の子がいた。

 その女の子は、まるで日本人形のように見えた。

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