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18話 肉食系女子

 ハジメはシンイチの指示に従って国見を運び病院にまで付き添った。

 そして病院で国見が検査に回される姿を見届けてから、ぶっ倒れた――


 ヒルのマガツキとの戦闘で外傷を負ったワケではなく、眠かった。

 ただただひたすらに眠かったのだ。

 引きずり込まれるような眠気の中


 また夢を見た。


 前にも訪れたぼんやりとした世界。

 そしてボンヤリと夢であることを理解している自分。


 またも大きな金毛の猿が、何かを食っている光景。

 この間は何を食っているのか分からなかったが、今回は分かった


 『ヒル』だ。


 ヒルのマガツキを食っている。

 そして嬉しそうに自分を見ながら笑っている。

 金毛の猿はヒルを喰い千切り飲みこみ、そして指をペロリと舐めた。


 ― 食え ―


 ― もっと喰らえ ―


 ― そうすれば力を貸してやる ―


 言葉が響き金毛の猿が手から黒い髪や牙のような物を出して遊び始めた姿を眺めていると、またも意識は遠のいて行った――


「……また変な夢を見た。」


 完全に覚醒したような目覚め方。


 目に飛び込んでくる天井は、もう見慣れた。すぐに病院の天井である事が分かり自分がベッドで寝かされている事を理解する。

 ただ、なぜか甘ったるい匂いが鼻をつき、香りに違和感を覚える。


「え~~? なになに?

 どんな夢を見たのー?」


 どこかで聞いたような声。

 ハっとしその声の方向に目を向けると、フワフワのウェーブのある髪をクリクリと指に絡ませるようにしている女の姿。


 あの薙刀を使っていた女がベッドの脇のイスに座ってスマートフォンを片手でいじりながら目を向けていたのだ。


 薙刀を向けてきた謎の女。

 シンイチの知り合いだろうし、多分ユキちゃんの知り合いでもあるのだろう。


 だが、そんな事よりも服装だ。


 ゆるゆる胸元の服に、ミニスカート。

 そんな恰好でイスに座っているのだから視点の低いベッドに横になりながら見てしまうと、目が向かうところはただ一つしかない。


 全神経が一点に集中する。


 ミニスカートで足を組んでいるから、下着が隠す気配すらないように見える。

 しかも足を組み直したりまでしている。


 これはいけません。


「ふふっ。エロいんだ~、ハジメさんって。」


 女の声で我に返り、ようやく顔を見るとニヤニヤとした表情を浮かべている女。


「スッ! スマンっ!」


 慌てて逆方向に顔を向ける。


 『見たいんでしょ? 気が済むまで見たら?』と言わんばかりの表情に気圧されたのだ。

 明らかに経験豊富な余裕を見せつける女は怖いのだ。

 逆方向を向いた事で病院の個室におり、今はこの女と二人きりという事が分かった。


 そんなハジメをお構いなしに、呑気な女の声がする。


「ん~ん。見たいなら別に見てていいよ?

 見たくなるくらいマナが魅力的だったって事でしょ?

 別に減るもんじゃないし、それで元気になるんなら気のすむまでどーぞ。」


 マナから溢れる余裕。


「いや、なんか!

 本当にスマンっ! 寝ぼけてたと思って許してほしい!」

「ふふふっ、ハジメさんって可愛いんだ~。」


 マナの人差し指が、そっぽ向いている頬をウニウニとつつく。

 ドキマギしながらも可愛い女の子に頬をつつかれる事に大きな嬉しさを感じてしまうハジメ。


「か、かわ、かわいいって、どう見ても俺の方が年上だろうが!」

「ふふふ~。そうだねー。

 でも年は関係ないよ~。かわいー。」


 まったくひるむ様子もなくつつかれる頬。だんだん嬉しさが風船に空気を送り込むようにどんどんと膨れてゆく。


「や、やめろよ。」

「え~? やめちゃっていいの?」


「…………」

「……かわいー!」


 嬉しいことは嬉しいが、やはりいい大人が『可愛い可愛い』と連呼されるのは恥ずかしいので、やめさせようとマナに顔を向ける。


 Oh……


 なんという事でしょう。


 そこに広がるは谷間。


 前かがみになっている事により、ゆるゆるの服のたわみはさらに強調され、たわわなたわわの谷間をたわわわわ。


「おっぱいの方が好き?」

「はい。」


 即答だった。

 意識を谷間に集中するあまり無意識で応えていたのだ。


「なんならもっと、じっくり見ちゃう?」


 わざとらしく寄せられる胸。


 しばしの無言。

 追いつく思考。


「ぐぅっ!!」


 反対に向き直り身を縮こめるハジメ。


 そう。

 血が巡ったのだ。


 あまりの刺激的な視界と言葉に血が巡ってしまったのだ。

 一度血が巡りだすと見てしまった国見の胸であったりも脳裏に思い起こされ、どんどんどんどん血の流れ加速する。 


 今仰向けになるわけにはいかない。

 仰向けになってしまえば、なんというかさらに馬鹿にされそうな気がする。

 これは疲れているから寝るふりをしよう。そうしよう。『ぐー』といびきをかくのだ。それがいい。


 マナはそんなことを考えている全てを見透かしたかのような表情で、自分の唇をペロっとひと舐めする。

 その姿はまるで肉食獣が獲物を目の前にしたかのような鋭さがあった。


「あれぇ~~?

 どうしたのぉ?ハジメさ~ん。」


 顔を近づける。

 つまり、たわわなたわわもたわわわわわ


「い、いや。そのっ!

 なんだっ! 疲れが出てきて、疲れががが」


「そうなの~? それは大変~。

 マナね。こう見えてもマッサージとか得意なんだ~。

 疲れを癒すの上手だからマッサージしてあげちゃう~。」


 マナがかけられている掛布団に手をかけ、剥ぎ取ろうとしてくる。


 布団を剥ぎ取られたら血が巡ったアレがお披露目しマナに馬鹿にされてしまう。

 そう感じたハジメは必死に剥ぎ取られそうな掛布団を掴む。


「いやっ! いいっ、別にマッサージとかいいからっ!」

「そんな遠慮せずに~!」


 掛布団を引っ張り合う。

 引っ張り合っているからこそ、掛布団は空中に浮かび血が巡ったアレでテントを張らずに済んでいる事に少しの安心を覚える。


 だが間もなく驚嘆する。


 掛布団の綱引き。


 このいかにもか弱そうなふわふわゆるゆるの金髪女が、ゴリラの如き自分と対等に綱引きしているのだ。


 その力は強い。

 さらにマナはベッドの上に立ち、一層力をこめて掛布団を引きはがしにかかっている。


「ちょ、ちょ、何その力っ! 

 ほ、ほんとマッサージはいいから!」

「だいじょぶだいじょぶ! ちゃんと天国見せてあげるからーっ!」

「うぉおっ!?」


 綱引きに負け、ハジメの手を離れ奪い取られる掛布団。

 綱引きの最中もチラチラ見える生足であったりたわわであったりで、一層血流が速くなった下半身。


 ソレを凝視するかのように光るマナの眼。


 『あれ? 俺……食われる?』


 自分の下半身に集中するかのように光るマナの眼を見たハジメは、そう直感する。


 ただし……マナは美少女である。

 その美少女に性的に食われるのであれば、それはそれでバッチコイ的な感情もあり脳は混乱を極める。

 正しく嫌よ嫌よも好きの内状態に突入しながら、なんとなくなるようになれと思い始めるハジメ。


 その刹那。


 ガラガラスパン!


 病室出入り口のドアが開く。

 そこにありしは女子高生にして仮の恋人。ユキちゃんの姿。


 勢いよくドアを開けたユキが目にしたのは、ベッドの上に立って下着を相手に見せつけるような恰好で布団を引きはがしているマナ。

 そして、ソレを困ったように抵抗しつつも、どこか嬉しそうな顔で盛大に下半身を反応させているハジメの姿だった。


 ハジメはマナとユキに交互に視線を送る。

 掛布団が地面に落ち、血が巡ったままの下半身もどうしようもなくそのままだ。


 ユキはすっと目を細め。


「汚らわしい」


 と一言呟く。


 その言葉はハジメに突き刺さり、巡っていた血流は止まり、あっという間にしおれ、ハジメ自身も起こしていた上半身も支えきれなくなりパタリとベッドに倒れ込むのだった。

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