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14話 対 蛭のマガツキ 2


「っだらぁぁあああっ!!」


 ハジメの絶叫と同時に壁に打ちつけられたヒル。

 どこから音を出したのか「ギュピィ」と悲鳴を上げて潰れ動かなくなった。


 だが、ハジメも焦って拳を打ちつけた為、気配で感じていた迫ってくるヒルの存在を忘れ、ホールに背を向ける恰好になっていた。拳の安否を気遣う間もなく2匹のヒルがハジメの尻と背中に噛みついた。


「ハジメさんっ!! 背中にヒルがっ!」


 国見の絶叫に近い警告。だが時すでに遅く噛みついてしまっている。


「んなくそぉぉぉおっ!!」


 ハジメは、自分の身体と地面でヒルを押しつぶすようには思いきりジャンプし背中から倒れた。


「ンぐふっ!」


 受け身も取らずに背中から倒れた衝撃で一瞬息が詰まる。だが、その甲斐あってヒルは拳を打ちつけたヒル同様に2匹とも悲鳴を上げて潰れていた。


 慌てながら立ち上がりヒルが迫っていないかを確認すると、まだ一か所に固まっている。

 ハジメは少し安堵しながら国見に目をむけると、国見が少し顔を青くしながら言葉を探していた。


「は、ハジメさん……腕……大丈夫です……か?」


 国見の言葉に腕を見ると悲鳴を上げ潰れたヒルが未だ噛みついている状態だった。

 慌ててヒルを毟り取り右手だけ黒色の髪を解くようなイメージをすると、シュルルと素手が露出する。

 右手を動かしながら見るが傷一つなく、握ったり開いたりする動作にも支障は一切ない。


「……だ、大丈夫そうッス。

 国見さんは平気ッスか?」

「え、ええ……その……ありがとう。助けてくれて。」

「いえ、なんかヤバイ気がしたので、つい。

 その、突然引っ張ってしまってスミマセンでした。」

「いえ、とんでもない。今更ですが、ハジメさんが引いてくれなかったことを思うと……血の気が引きます。」


 恐怖と気持悪さがこみ上げてきたのか、少し震える手で口元をおさえる国見。

 その様子を見てハジメは思う。


 そうか……国見さんはこういう場に慣れてて大丈夫なのだと思っていたけど、きっと怖いのを隠しながら頑張っていたんだな……


 ならば……よしっ!


「国見さん! ここは俺に任せてくれないか?

 多分だが、あのヒルの牙は俺には通らない。 今見た通り腕もまったく平気だった!

 それに、殴って潰せた!」


 国見はハジメの言葉に『任せてもいいのだろうか』という不安が過ったが、身に迫った恐怖が先に立ち、もうハジメの言葉を受け入れることしかできなかった。

 ハジメを見て言葉も出さず、コクコクと小さくだが素早く頷く。


「よし。じゃあ後は俺に任せて国見さんはすぐにここから出るんだ。ここはどうにもあぶねぇ。」

「は、はい……入口付近まで退却し、後発隊を待ちます。

 …………すみません。ハジメさん。」

「いいって。こういうのはできるヤツがやる方がいいに決まってるんだから。適材適所ってヤツさ。

 それに国見さんみたいな人をあぶねぇ目に合わせるワケにはいかねぇよ。」


 ハジメから自然と気遣う言葉が出ていた、国見が持ち場を離れる事を苦しそうに思っている事を和らげたいと思ったから自然と口から出ていたのだ。

 かっこつけるつもりは3割程しかない。


 その時、集まっているヒルたちが動きそうな気配がした。


「じゃあ、ほらすぐに行って!

 あのヒルがなんかしてきそうな感じがするんだっ!」


 ホールに厳しい目を向けたハジメを見て、国見は入口付近にまで後退を始める。


 ホールの中ではヒルが半分ほどが集まりだし、また小さな人型を作り始めていた。

 ただ残りの半分はまだ防御結界に食いついており救出は難しそうだ。


 ハジメは腹を決め、ホールに足を踏み入れる。


「ウゾウゾ動きやがって気色わりぃ。

 全部ぶっ潰してやるから覚悟しやがれ。」

『貴様……美味そウなエサが来たと思っタガ、何者だ?

 大人しク食われてオレバよいものヲ』


 ヒルの塊りで作り出された小さな人が言葉を発した。

 髪のマガツキと違い、流暢に言葉を操っている。


「……言葉まで喋るのかよ。ますますもって気持ちわりぃな。」

『我ノ質問に答エラレぬ程の低能か』


 言い終えるかおえないかの内に、ヒルの小人が触手を伸ばして来る。

 ハジメは右手で払いのける。


 だが、弾いたはずの右手に、まるで長いヒルが噛みついたように止まっていた。

 左手で触手を掴み、右手で触手を巻き取るようにして掴み、引き千切る。


『ホう。これは……噛みツケヌか。

 ……ナラば』


 細い触手を伸ばしムチを打つように使い始めるヒルの小人。

 ハジメは当たる毎に多少なりと痛いと感じた。

 だが致命傷には程遠く、さっさと殴り飛ばしてしまおうと決め走り出す。


「おおおおっ!」

『ヤハり低能』


 噛みつくような太い触手が顔を狙ってくる。

 ハジメがそれを払いのけると、それに隠れていた細い触手が首に巻きつき、きゅっと締めてきた。


 目の玉が勝手に上に向くような感覚。

 この感覚をハジメは柔道で味わった事があった。

 血が止まれば人はあっけなく意識を失う。

 そして蘇生を早めにしないと結構やばい!

 そう。落ちる! 失神だ!


 ……っていうか、今失神したらこの防御が崩れる!

 なんだこのヒルのヤツ、頭いいな。


 そう思いながら、一層足に力を入れヒルの小人に飛びかかる。


 気を失う前に元を断つっ!


『ナっ!?』

「おおっらぁあああっ!」 


 フライングボディプレスのように小人に飛びかかり、全体重を浴びせると、首の締まりが弱まりヒルの小人の大半が潰れる。フライングゴリラボディプレスは強烈だ!


 生き残ったヒルが集まり、またさらに小さな小人を作り出す。


『ナ……ナンと、普通は怯ムものデあろう。低能は底ガ知れぬナ、恐ろしイ』

「余計なお世話だ、このクソヒルが!

 ……あんま人様の事を低能低能言ってんじゃねぇぞ! 下等生物のクセしやがって!」

『コ……この我を下等呼ばワリ……許せヌ』


 防御結界に張り付いていたヒルが半分程抜け出し、小人に合流し元の小人の大きさを形づくる。

 すると、防御結界を作っているシンイチの顔が見えた。

 シンイチもまたハジメの姿が見えた。


 シンイチは黒に覆われたハジメを見て細い目を見開く。

 ハジメもシンイチを見て、ウルフカットのイケメンにイラっとする。

 男は皆、女にモテそうなイケメンは嫌いなのだ。


「うっわぁ。本当にゴリラだ!

 これはビビらざるをえない。」

「うるせぇっ!

 ゴリラっていうヤツがゴリラだ馬鹿野郎!」


「あ、ちゃんと人間だった。」

「黙れイケメン! イケメンは黙れっ!

 あーくそ! 今はそれどころじゃねぇだろうがっ!」


 これがハジメとシンイチの初めての会話だった。

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