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12話 よくしゃべる男


「……これは……膠着こうちゃく状態ってヤツかなぁ」


 手甲鉤(てっこうかぎ)で、次々と伸びてくる触手を弾いたり切りつけたりし一進一退のウルフカットの男、生天目(なばため) 親一(しんいち)。どこかボンヤリとした雰囲気のまま呟いた。


 チラリと目を脇に向ければ、マガツキに向かって喧嘩を売り哀れにも襲われた男が、まるでミイラのようになってしまった姿が確認できる。

 ミイラとなった男の近くには一番最初に喰いちぎられたであろう男の片足も、同じくミイラ化した状態で転がっており、状況から察するに、このマガツキは人間の水分なり栄養なりを吸い尽くしてしまうような相手と判断。触手が自分の肌に絡みついたり噛みつかれないよう注意を払いながら両手の手甲鉤(てっこうかぎ)の爪で器用に捌く。


「おーい。」


 捌きながらも、シンイチの後ろの女に声をかけ気配を探るが、女からは動くような気配が感じられない。

 マガツキと女の間に割って入る瞬間、叫び声をあげた女が気を失うような素振りを見せていた事から、おおよそ腰を抜かしたまま気絶してしまったのだろうと想像し一層気が重くなるシンイチ。


「僕の獲物(つめ)はこういう相手にはほんと向かないんだよね~。ただ浅い傷をつけるだけになっちゃうしさぁ。

 ……後ろの子が気がつくか、無いとは思うけどマガツキが疲れて隙をみせてくれるかのどっちか待ちかなぁ。あ~あ。」


 誰に言うでもなく愚痴をこぼす。

 その表情はただ捌くだけであれば、まるで問題無いという余裕すら感じさせる。やはり余裕があるのか、時折チラリと後ろを確認している。

 後ろの女はといえば、白目を剥いて倒れ、パンツ丸出しの状態で気絶している姿。

 その姿に苦笑いをしつつ呟く。


「どんな格好であれ女の子を見捨てるってのは、やっぱりどうにも選択できないんだよね~僕。」


 このマガツキに対して攻勢に出れば、それなりに戦えるし勝つ事もできるだろう。

 だが、攻勢にでるには現在連続で繰り出されている触手を一度(かわ)して隙を生む必要がある。だが、そうすると自分が避けたことで後ろの女の盾が無くなり、おおよそ女に触手が当たり新たなミイラが誕生する可能性が高い。


 かといって真正面からジリジリ距離を詰めていくという先方は、敵に対して自分の挙動を予想されやすくあまりに不用心すぎる。


「はぁ~……このマガツキと一番相性悪いのは間違いなく僕だよな~。

 ……相性の良さそうなトモエさんは、どうせ動いてないんだろうしさ……なんか僕って不幸すぎない? せめて後ろの子を逃がしてくれるような応援が来てくれれば助かるけど、それまではこのまま待機かなぁ。

 はぁ……マナさんかユキちゃん。早く来てくれないかなぁ~。」


 独りごちながらマガツキの触手を捌き切り続けていると、触手が一度引っ込み攻撃が止んだ。

 攻撃パターンが変わる可能性にシンイチが注意を払う。


 するとマガツキが全身を震わせたかと思うと、もぞもぞもぞと動き、


 そして分裂した――


「……うわぁ。」


 その様子にシンイチは顔をしかめる。

 かろうじて人型のような形をしていた状態が崩れ、30cmの(ヒル)のような状態に変化。50匹程がボタボタと地に落ちて地面を這い、各個バラバラに動き出したのだ。


 シンイチはその状況に素早く反応し、気絶した女を抱きかかえ、手甲鉤で地面に小さな円を描きだし、その中心に右手の手甲鉤の爪を突き立てる。

 その刹那、各個動き出したヒルがジャンプして飛びかかりシンイチに襲いかかる。


 が、シンイチにその牙は届かず、空中で吸い付くように止まった。

 まるで半円の見えないドームがシンイチを守っているかのよう。


「あぁ……もうグロイなぁ!

 ほんと勘弁してよ……」


 シンイチの視点からは、まるでタコの吸盤に牙が付いたような物が四方八方から自分を襲おうと吸い付いているような風景しか見えない。


 心から嫌そうな顔をしながら抱きかかえた女を自分に寄り掛からせ、自由になった左手でスマートフォンを取り出し電話をかけ始める。



--*--*--



 ハジメの独身寮を出て本部の指示に従い指定されたクラブに向けて移動している国見。

 運転する車の助手席にはゴリラが座っており、車上にはまるで警察の緊急車両のように赤色灯が回っている。

 そんな国見のスマートフォンが鳴り、国見はチラリと発信者を確認して、すぐさまその通話を受けた。


『ども~サオリちゃん。

 今交戦中なんだけど、ちょっと困った状態になっちゃった。』


 国見はスマートフォンから聞こえてくる危機感の薄そうな声に頭を押さえたくなるが、小さくため息を付く事でその変わりとして気持ちを切り替える。


「……何があったんですか?」

『いやあね、このマガツキってば分裂して襲いかかってきたんですよ。

 一応防御固めてるんで問題ないですが、要救助の女の人を抱えてるって事もあって、ボク、動けなくなっちゃいまして。』


 国見はこれから向かうマガツキの情報と戦況をハジメと共有すべきと判断し、通話をハンズフリーに替え、ハジメにも聞こえるように変える。


生天目(なばため)さん。

 救出に向かうに当たっての現状の説明はできそうですか? もし説明できるのであればマガツキの詳細含め、分かるように説明をお願いします。」

『了解です。

 っていうか……コレもう、誰かと話してないと僕の気持悪さが勝っちゃいそうだから、なんでもいいから話できる方が嬉しいですよ』


 ハジメは国見のスマートフォンから聞こえる、どことなく軽そうな男の声に耳を傾ける。

 通話先の男の説明から、男がその場に居合わせた女を助ける為にデカイ(ヒル)の集団に囲まれ、危機的状況にあるという事だけは何となく理解できた。


「つまり、生天目(なばため)さんが守っている女性を脱出させることができれば殲滅に移れるんですね?」

『うん。いま防御結界作ってるから問題ないけど、ちょっと動けそうにない。

 ……後さ、今、気絶してる子が目を覚ましたらパニック間違いなしの光景が広がってるから、できるだけ早く応援が来てくれると嬉しいかな……』

「他の御魂みたま達には連絡済みですが、多分私達が一番早いんじゃないかと思いますけど……私達がついても生天目(なばため)さんに近づけないような状態であれば、救出のしようがなんじゃないですか?」

『あ~……たしかに。

 う~ん……もしできそうだったら手榴弾でも投げてくれれば、分裂したマガツキが衝撃で吹っ飛んでくれるかもしれないし、そのスキに女の子渡すくらいはできそうな気がするんだよね……。』


 ――ん?


「それくらいでしたら……できるかもしれませんね」

『そう? ありがと。遠くからでいいし、多分マガツキは僕に群がってるヤツだけだから、そこに向けて投げてくれればいい。僕は結界で大丈夫だから何個でもいいよ?

 結界周辺がクリアになったら、その瞬間に気絶してる子をそっちに渡すから逃がしてもらえれば、僕も何も気にせず攻撃できるし。』



 ――しゅりゅうだん?


 聞きなれない、むしろ聞きなれてはいけないような言葉が出たような気がして、男の言葉を脳内で反芻するハジメ。

 国見は少し考えた後、通話がつながったままの状態でハジメに声をかけた。


「ハジメさん。 今聞いた通り……」

「ん?」

『ハジメさん? ……ってゴメンね! サオリちゃんデート中だったの!?

 え゛っ!?めずらしっ! 本当ゴメンねっ!

 ……って、この話を彼氏が聞いてたの!? ソレやばくない!?』


「デートでも彼氏でもありませんっ! 大丈夫ですから生天目(なばため)さんはちょっと黙っててください!」

『はーい』


 『彼氏』という響きにハジメは少し鼻息が荒くなったが、国見の即時の否定で両肩が下がる。


「……ハジメさん。

 説明にあったように今回のマガツキは人を一瞬でミイラにしてしまうような、かなり危険なタイプのようです。

 多分私達が一番早く現場に入る事になると思いますので……女性を運ぶのを手伝っていただけませんか? ……もちろん私も一緒に近くまでいきます。」


 ハジメは正直失敗したと思っていた。

 マガツキは危ない。

 髪のマガツキはなぜかイケる気がしたが、本来はそんな危険な存在に近寄るべきじゃない。


 だからこそ


 『あ。ムリです。ゴメン。』


 と言ってしまいたかった。

 だが、そんなことを口にすれば国見のハジメに対する、今は上がっているっぽく感じられる好感度がストップ安になるのも間違いない。


 ……それに国見自身が、そんな危険な所に乗り込むと言っている。

 か弱いであろう国見が単身でも乗り込むつもりでいるというのに、そんな状況でどうして背を向けれるだろうか。


 それに電話の先の男は女を助ける為に身動きが取れない状態に陥っているらしいし、それに要救助者さえなんとかすれば男が戦うと言っている。


 ならば助けられるものなら助けたい。

 

 さっき自分を黒の髪で覆う事で防御力が上がっている事も確認出来たから手伝うくらいならできるかもしれない。

 そう思い、鼻から荒く息を吹く。


「……わかった。

 やれるだけやる。」

「有難うございます! ハジメさん。」


 国見がニコリと微笑みをハジメに送る。

 微笑んだのは一瞬で、すぐに真剣な表情へと切り替え前を向く。


「では生天目(なばため)さん。さっきの指示の通り、到着次第行動に移ります!

 一旦切りますねっ!」

『ちょっ! ま――』


 国見はスマートフォンを切り、そして車のスピードを上げた。

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