第八話
「魔法少女狩り・・・!?
しかも警察って、一般人がそんな事を!?」
ボクは一瞬動揺したが、よく考えたらわかる。
こんなの、一般人に対してヨクボーンが仕掛けた罠に決まってる。
通常、魔法少女はヨクボーンを退治した後には人々の記憶から消える。
だけど最近は事件が頻発していて、その記憶の書き換え・改ざんが出来ずに
魔法少女の存在を覚えている人達が多いと亜子が言っていた。
だけど、だからと言って自分達を守ってくれている魔法少女を狩るって
一体どういう事なんだろう?
そこへ、カレンがやって来た。
「その様子だと、見たのね。あのニュース・・・。
どうやら人々は、事件が起こると必ず魔法少女がやって来る、
と言う事は魔法少女が事件を起こしているんじゃないのか?と、
勘違いしてしまっているようね。
もちろんその裏には、ヨクボーンがいるのだと思うけれど。」
さくら
「どうしよう、私達が魔法少女だって、もう既にバレてたら
一般人相手では魔法の力を使ったり出来ない。
捕まるしかないのかな?」
そこへ、たくさんの人々がやって来た。
「あ、いたぞ!この前駅前に居た魔法少女達だ!!
捕まえろー!!」
さくらとカレンは逃げたけれど、狭い路地で反対側からも人が来て
多勢に無勢で結局二人は簡単に掴まってしまった。
ボクは二人に付いて行こうとしたけれど、
二人はジェスチャーで来るなと合図を送った。
ボクは一人取り残されて、行くところも無く、
たださくらの部屋で彼女達の帰りを待つ日々を過ごすしか無かった。
(※ここからは、さくら視点)
私達は簡単に人々に掴まり、拘置所へと送られた。
魔法少女であるかを聞かれて、
写真も撮られていたので正直にハイと答えた。
少しの間拘置所に入れられた後は、矯正施設と言う所に送られた。
そこで私達は、地獄の生活を送る事となった。
山の中にある矯正施設。
そこはとても古びていて、あらゆる設備が限界を超えて壊れていた。
エアコンは壊れていて動かないし、水道は捻ってから数秒後に水が出る、
トイレは流れない事も多く、前の人のものがそのままの事が多かった。
そこには、多くの魔法少女達が連れて来られていた。
別の班ではあったが、亜子さんの姿も見つけた。
まず裸にされて、後ろ手に手錠をされた。
そして、施設長と言う人の話を聞かされた。
「良いか、貴様らは存在そのものが悪だ。
本来ならば殺しても構わんのだが、それではあまりに無慈悲過ぎる。
そこで今回、特別に温情としてこうやって矯正の機会を与えた。
犯罪者どもと結託するようなふざけた真似を二度と出来ぬよう、
性根叩き直してやるから、そのつもりでいろ!返事は!?」
多くの魔法少女達が泣き出したが、施設長が何度も聞き返した為、
最後には弱弱しく泣きながら「ハイ・・・」と所々から聞こえて来た。
矯正と言いながらも日中はほぼ狭い檻の中に数人を詰め込んで放置。
一日三回の粗末な食事の時間は手錠を外さないまま、犬のように食べた。
そんな人間として扱われない暮らしが4日ほど続いた後、
私達は体育館に集められた。
「良いか、今日は貴様らのその曲がった根性を叩き直す為に、
ワクチンを打ってやる!
コレを打てば貴様らはようやく、真っ当な人間に戻れるぞ。
嬉しいか!?」
誰も答えたくなんて無かった。
だけど、答えなければまた延々と説教があるだけだ。
皆力なく「ハイ・・・」と答えた。
こんなの、絶対におかしい事をされるに決まってる。
私は幸い、最後列の方だった。とは言え、逃れられるものでも無く、
とうとう私と言う人生が終わるのかと、何となく厭世観に苛まれた。
先頭の子達が注射器を腕に刺されていた。
刺しているのは医者でも無いような男達で、
所々で「痛い!」と言う声が聞こえた。
やがて注射が終わった子達が列から外れて行った後、
信じられない光景が広がった。
突然、床に股間を擦り付け始めた。
コレは・・・まさか!!
「ヒワイダー、ヒワイダー!!」
どうやら最悪な事に、あの注射はヒワイダーの遺伝子が入っているようだ。
と言う事は、日本中から集められた魔法少女はここで皆、
ヒワイダーになってしまう・・・。
私はとんでもなく目の前が真っ暗になった。
そして私の列の前の方、3番目の順番になった時、
そこにはカレンさんが居た。
カレンさんは最初嫌そうにしていたものの、
どう抵抗しても無駄だとわかり、最後には諦めて注射を打たれた。
列から外れるまでは冷静に歩いていたのだが、それから数秒、
おそらく体内にヒワイダーの遺伝子が回り切った所で、
他の子と同じように筆舌に尽くし難い痴態を見せた。
私は、この世の地獄がここにあると思った。
もう、魔法少女は終わりだ。
私もあと10分ほどしたらあんな風になって、
ヒワイダーとして惨めにヨクボーンの配下になってしまう。
泣きそうになったけれどグッと堪えて、
せめて最後の瞬間まで自我を保とうと必死だった。
オタポン、どうしてるかな。
ヒワイダーになったらここを出られるのかな?
だけどもう、ヒワイダーをやっつける魔法少女は居ない。
そうなるともう、ただ恥ずかしい姿を晒すだけのこんな哀れな成れの果て、
私は心が崩れる音が聞こえた。
向こうの列では、亜子さんの順番も近かった。
━その時、
一斉に多くの人達が体育館に入って来て、注射している男達の首を絞めた。
そして中心人物のような人がマイクを持ち、話し始めた。
「皆さん、助けに来るのが遅くなってしまい大変申し訳御座いません。
私達は、魔法少女管理委員会の者です。
私達が来たからには、もう大丈夫です。
もし、もう既に注射を打たれたお友達が居ても大丈夫です。
ちゃんとワクチンを用意してありますから、
安心してまた魔法少女に戻って頂けます。
皆さんには、大変苦しい思いや恥ずかしい思いをさせてしまい、
本当に申し訳御座いませんでした。
私どもがもっと早く気付いておれば・・・。
それでは、順次手錠を外して参りますので、その場でお待ち下さい。
━━突然の出来事に、ワケがわからなかった。
だけどただ一つ、助かった。そう思った。
ワクチンがあると言う事は、カレンさんも助かるんだね。
私はこの地獄の環境から抜け出せる安堵感から、
いつの間にか眠ってしまった。
少しの間気を失っていたのだろうけれど、
体育館での救出劇はまだ続いていた。
私の手錠もいつの間にか外されていた。
そして私の隣には、亜子さんがいた。
「あ、起きたわね、さくら。
ねぇ、あの魔法少女管理委員会ってどう思う?」
「え、凄く良い人達だよね。
こんな絶望的な状況を救ってくれて、
もしあの人達が居なかったら、今頃私もヒワイダーだったよ。」
「まぁ、表向きはそう見えるけれど・・・怪しくないかしら?
だってワクチンを持っている事だって、まるで最初から
ヒワイダーの遺伝子を打たれる事を知っていたみたいに。
それに、そんな団体私がこれまで魔法少女を5年間やって来て
一度も聞いた事無いわ。」
「う・・・ん、だけど助けてくれたのは事実だし、
悪い人達じゃないと思う。
気になるなら直接聞いてみたらどうかな?」
「正直あまり関わりたくないの。
だけど・・まぁ関わらざるを得ない、か。」
亜子さんはその辺にいた魔法少女管理委員会の人に声を掛けた。
「あの、すいません。
私長年魔法少女をやっていて、魔法少女管理委員会なんて
存在自体を知らなかったのですが、いつからあったのですか?」
男性は笑顔で答えた。
「私どもは昔から、影ながら魔法少女の方々のサポートをして来ました。
ただ、あまり表立っては活動していなかったですね。
あくまで魔法少女の方々が円滑に活動を出来るよう、
裏方に徹して来たので、存在を知らないのは自然な事ですよ。」
「今回、どうしてこの場所がわかり、そして何故、
ワクチンを持って来られたのですか?
そもそもワクチンがあると言う事は、
ヒワイダーの注射があるという事を知っていたという事ですよね?」
「ヨクボーン達は裏ではこうした計画をしていた事を私達は、
影ながらに早めに察知しておりました。
そのため、早期にワクチンの製作にも取り掛かっておりました。
そして今回、懸念していた事態が起きてしまった。
そこで、これまでの研究結果としてのワクチンを持ち出し、
既に注射を打たれてしまった皆さまの救済の為に、
これを使っております。」
「そうですか・・・・。」
亜子さんは凄く怪訝な顔をしたまま会話を終えた。
「やっぱり、何かが引っかかるのよね。
タイミング・・・こうも上手く行くものかしら?
と言うより、何故もっと早く助けに来れなかったのかしら。」
正直、それを聞いて私の頭にも疑問符が浮かんだ。
だけどそれは今どれだけ考えても答えが出ないような気がした。
そこへ、カレンさんが近づいて来た。
「さくらちゃん・・・私、注射を打った後、意識はあったの・・・。
あんな汚い所を見せてしまって、本当にごめんなさい・・・。」
「そんな、カレンさんが謝る事では無いですよ!
それに私達だってタイミング・並ぶ順番が違えば同じことでした。
本当に、気にしないで下さい。この事は忘れますから。」
亜子さんがふと、声をあげた。
「これだけ多くの魔法少女、きっと日本中のほとんどの魔法少女よね、
それらが一堂に集められるなんて、中々出来る事では無いわ。
という事は、全数把握と管理・・・そして徐々に管理個体を増やす。
その為にわざと救出のタイミングを遅らせた・・・。」
亜子さんはまだ、この事に関して仮説を立てては壊してを繰り返している。
私は言った。
「とにかく、早くこの場から離れましょう。
もう終わったんですから、どちらにしてももうここには、
一秒たりとも居たくありません。」
そうね、と二人は言い、出口で配られていた元の服を探し出して着て、
私達は帰路に着いた。
私の中でも何となくモヤモヤが晴れなかった。
そしてそれは、あえて言語化するのなら
「魔法少女管理委員会とヨクボーンは実は裏では繋がっている」
と言う恐ろしい仮説だった。
(※ここからオタポン視点)
あれから数日、ボクはずっとさくらの部屋でただ何もするでもなく、
ボーっと空を眺めていた。
彼女達との日々は一体何だったのだろうか。
さくらはもう戻って来ないのかも知れない。
じゃあ、魔法少女のためのマスコットはもう、存在意義が無い。
ボクはこれからどうしたら良いんだろう。
そんな思いがずっと頭の中を巡っていた。
さくらが捕まってから、5日が過ぎた午後のある瞬間、
玄関の扉が勢いよく開かれて、階段をドタドタと駆け上がる。
「ただいま、オタポン!
すっごく大変だったけど、何とか戻って来れたよ!」
そこには、さくらの姿があった。
何だか少しやつれてはいるけど、確かにさくらだ。
「さ、さくらぁ・・・良かった、本当に良かったポン・・。」
さくらはボクをギュッと抱きしめた。
ボクはもう以前のような、この小さな胸に対して劣情を催すような
人間の男としての感情は無かった。
ただ純粋に仲間として、パートナーとして、さくらの帰還を喜んだ。
「もう絶対、どこにも行っちゃダメだポン~。」
「そうだね、私も本当に、帰って来れて良かった・・・。
ずっと待っていてくれて、ありがとうね。」
彼女の無事は本当に何よりの吉報だった。
彼女はボクを抱きしめながら寝た。
その夜は本当に安心して眠れた。
そして翌朝━━。
『ピンポーン』
朝10時頃にチャイムが鳴った。
さくらと一緒に出るとそこには、カレンと亜子がいた。
そしてもう一人、知らない男の子がいた。
カレンが切り出す。
「さくらさん、ちょっとカフェに行きましょう。
この子が、話したい事があるみたいなの。」
一体この男の子は、何を伝えたいんだろう?




