第三話
「それじゃあ、今日はこの辺で一旦帰りますね。
助けてくれて、あと色々と教えてくれてありがとうございました。」
さくらがそうカレンに伝えて、二人は別れた。
ボクは空を飛びながらさくらに付いて行こうとした。
(あ、この体、空を飛べるのか。)
しかし、さくらがボクをぎゅっと胸元に引き寄せた。
「ダメだよ、オタポン。
空飛んでる所なんて見られたら、悪い大人に連れて行かれちゃうよ?」
確かにさくらの言う通りかも知れない。
だが、そんな事よりも何よりも、こんな美少女の胸に抱きしめられた事が
ボクの心臓をバクバクと脈打たせた。
最も、この体がどんな仕組みで動いているのかはわからないし、
この心臓のドキドキが元の体だとどれほどのものかはわからない。
それでもボクは女の子特有の甘い香りのするこの空間に
至福を感じて思わず口走ってしまう。
「ふわぁ~、とっても良い匂いがするポン。
ボク、ずっとここに居たいポン!」
するとさくらが応えた。
「もう、オタポンって中身45歳のおじさんなんでしょ?
パパよりも年上だね。だけど、オタポンが私に何か悪い事を
出来そうな感じも無いし、一緒に居る時はここに居させてあげるね。」
ボクはもう、この最高のシチュエーションと彼女の優しさにたまらなくなり
男としてのシンボルが反応していないか不安になった。
しかし残念ながら、この体にはそんなモノは付いていなかった。
「え・・・?
あ、付いてないんだ、この体・・・・。
え、アレ?じゃあ、美少女達とウハウハハーレムしても、
舐めさせたり出来ないって事?」
「どうしたの、オタポン?
変な独り言なんて言ったりして。」
ボクは気付いてしまった。
たとえどれだけ恵まれた環境であろうと、
その幸せを受け取り自分の反応として返せなければ、
それは単なる絵に描いた餅のように、いや、
ボクが前の体で毎週日曜日の朝に見ていた美少女アニメのように
ただ見ているだけの世界で、それはボクとは切り離された世界。
「さぁ、帰ろっか。」
さくらはそう言って、ボクを抱きかかえながら家路を辿る。
だけどボクはその柔らかな匂いを感じながらも、
全く体のどこもそのフェロモンを受け取らず、
ただ心地良い空間として処理してしまっている。
ボクの心だけが、この空間の興奮を理解しているだけだった。
ボクは狂いそうになった。昔、中国の科挙という試験の中で
男性のシンボルを切り取る事を条件とした宦官と言う制度があった。
彼らは宮中の女性達に手を出せないように王から出された条件として
自らの一番のアイデンティティを差し出した。
例え身に余る金が貰えたとして、それを使う先はせいぜい食料か。
そんなの、そんな人生、何の意味があると言うのか。
せっかく男として生まれたのなら、可愛い女の子とイチャイチャしたり
キャッキャウフフするのが人生の目的なんじゃないのか。
だけどこんな事を考えているボクは生涯を童貞で過ごした。
だから女の子の体がどうだとかは本で見ただけだ。
急にこの体が呪わしくなり、ボクは自分自身を殴った。
「わ、オタポン、何やってるの!?
どこか痒かったの?」
さくらがボクを心配する。
だが、自らに打ち込んだパンチは全く痛くも痒くも無く、
ただ『ポフッ』と柔らかく顔にめり込むだけだった。
ボクは恐ろしい事に気付いた。
もしかするとこの体、高い所から飛び降りても死ねないかも知れない。
だったら、火の中に入るとか、敵に倒して貰うとかしないと、
死ねないんじゃないか。
こんな美少女と超近距離に居ながらも手出し出来ないなんて、
生殺しも良い所だ。だからと言って自ら死ぬ事が難しいなんて、
そう思った時、カレンの元マスコットの事を思い出した。
戦いの中で敵に殺されたカレンの元マスコット。
もしかすると彼も、自分の存在そのものに絶望し、
死ぬための方法として敵に殺される事を選んだのでは無いか。
ボクは自分の運命を呪った。
それならば、こんな中途半端な体になんて転生したくなかった。
もちろん選んでこうなったわけでは無いが、それでも
もし他の選択肢があったとしたなら、生前のボクよりも
もっとブサイクな男にでも良いから、男として生まれたかった。
そしてさくら達みたいな美少女を見ながら、興奮していたかった。
だってそれならば自分の欲望を吐きだす快感を得られたから。
そんな出口の無い自問自答を続けながら、ボクはさくらの家に着いた。
「さぁ、ここだよ、オタポン。
もう一度言っておくけど、家の中では私の前以外ではちゃんと
ぬいぐるみとして振る舞ってね。
もしママやパパにバレちゃったら、捨てて来なさいって
なり兼ねないんだからね。」
「わ、わかったポン。」
思わず彼女の言葉に焦りながら返答する。
こんな体ではあるけれど、やはり雨風を凌げる場所は必要だ。
今はとりあえず、さくらの厚意に甘えてゆっくりと考える時間を作ろう。
「ただいま」と玄関で家族に声を掛けて、さくらは二階の自室へと向かう。
そして扉を開くとそこには、中学生の女の子らしい、
可愛くてとても良い匂いが漂っている空間があった。
「それじゃあ私はまずお風呂に入って来るから、
オタポンはここで待っててね。」
「わかったポン!」
自分でも、このワケのわからない語尾が板に付いて来てしまった。
さくらがゆっくりと階段を降りて行く。
その音を聞きながらボクはニヤリと笑った。
「あんな美少女の部屋に一人きりって、
コレはもう・・・・『やる』しかない。」
ボクはさくらの部屋を家探しし始めた。
彼女の使っているリップの匂いを嗅ぎ、自身に塗りたくる。
布団に入り込み、匂いを肺いっぱいに吸い込む。
タンスの中の靴下の匂いを嗅いでみる。洗剤の匂いがした。
そしていよいよ、タンスの最下段にあるパンツに手を伸ばした。
「コレは・・・。やっぱり、頭に被るものだよな?」
童貞をこじらせていたボクは、女の子のパンツ=頭に被るモノと言う、
偏った認識でそれをそっと頭に被る。
すると、パンツの形状が変わってしまい、帽子のような形状になった。
「な、何だコレ?
まさか、ボクに触れたものをファンシーなアイテムに変えてしまうとか?
そんな設定の漫画を見た事があるかも知れない・・。」
いよいよ、残念過ぎる体だ。
パンツ一枚、満足に被る事が出来ないのだ。
この調子ならきっと、彼女達の体に触れようものなら、
触れた所に花が咲いてしまうといった事も考えられる。
どこまでも性的なものからは切り離された体だ。
不幸にも生前のままの僕の意識だけがずっと彼女達に対して
性的搾取を行いたい欲求が渦巻いていた。
しかしこの体も存在も空間も、全てがそれを許さなかった。
ボクはさくらのパンツを頭に被ったまま、固まっていた。
そこへ、さくらが階段を上り、部屋に戻って来た。
「あー、オタポン、何やってるの!?
ってか、それ私のパンツ!
ちょっとオタポン、何で頭に被って・・・
え、って言うか形変わってない!?
返してよ、お気に入りだったのに~!!」
パンツを頭に被る淫獣マスコット
「わ、ごめんポン!
つい、頭に被り易そうだったから、被っちゃったポン。」
ボクはワケのわからない言い訳をしながら、パンツを脱いだ。
さくらみたいな優しい子なら許してくれると甘い期待をしていたのだが、
さすがに自分のパンツを頭に被られて怒らない子はいないようだった。
ボクの体から離れるとパンツは元の形に戻り、
さくらはそれをタンスに戻した。
「もう、オタポン・・・こんな事するんだったら、
ウチに泊めてあげないよ?」
それは死刑宣告も同じだった。
さくらに見放されれば、おそらくカレンはボクを泊めてはくれない。
こんな謎のマスコットが街の片隅にいたら興味本位で捕まえて
謎の実験とかをされるに決まってる。
さくらの部屋は今のボクにとって、唯一の居場所であり、
安心して寝られる場所のように思えた。
ボクは誠心誠意、さくらに謝った。
「ご、ごめんポン!
生前の悪いクセで、可愛い女の子を見ると妙に興奮しちゃって。
もうしないポン!確かにパンツを頭に被られるなんて、嫌だよね。
ボク、女の子と付き合った事が無かったから、わからなかったポン。
だけどこれからはちゃんと、嫌かどうかを考えてから行動するポン。」
口から出まかせだったが、生前に工場で働いていた時も、
こうした反省のテンプレートは頭に刷り込まれており、
少しでも自分に不利な状況の時には謝るが勝ちと、
こうした謝罪の言葉がスラスラと口を出るようになっていた。
長い底辺社会人生活で身に付いた悲しい能力だ。
「うん、わかったよ・・・。
本当にね、女の子の事は大切にしなきゃだよ?
特に私みたいな年頃の女の子は気持ちが不安定だから、
ちょっとでも変な事されちゃったら、すぐに嫌いになっちゃうんだから。
オタポンが困ってるのはわかるし助けてあげたいけれど、
こんな事をされると助けてあげられなくなっちゃうよ。」
「本当に、ごめんポン・・・。」
ボクは自分の事を何てバカなんだと責めた。
こんなの、女の子と付き合った事があるかどうかとか関係ないじゃないか。
人としての基本、相手が嫌がる事はしない。
それが出来ていなかったから、そもそも誰とも付き合えなかった。
そうして自己反省をしていたら、さくらが表情を変えて言った。
「うん、もうわかったから、許してあげる。
それで、オタポンは何か食べたりするのかな?」
「食べ物・・・どうだろう・・・。
だけど、お腹は減って無いポン。」
「そっかぁ。今から夕食食べに一階に行くけれど、
もし食べたくなったら少しだけ残しておいてあげるから、
遠慮なく言ってね。あと、もう部屋を漁っちゃダメだよ?」
「わかったポン・・・あと、ありがとうポン、さくら。」
「ふふ、良いよ。それじゃ、ゆっくりね、オタポン。」
正直、彼女の優しが心に沁みた。
45歳でどうしようもないボクに対して、
まだ中学二年生の女の子が広い心で許してくれた。
ボクは自分がどうしようもなく情けなくなって、泣いた。
涙は実際には出ていないようで、だけど心で泣いていた。
「ボクは、あんなに良い子を、あんなに良い子のパンツを被って、
性的搾取をしようとして・・だけどそれすら叶わなくて、
結局怒られて、反省して(したフリ)それで、許されて・・・。」
自己嫌悪に陥りかけた時、彼女が上がって来た。
「オタポン、一応コレ、ラップ掛けて置いておくから、
お腹減ったら食べてね?もし食べなかったら、
明日の朝に私が食べるからね。」
どこまでの優しい彼女の綺麗な心と汚い自分の心の対比が辛くて、
ボクはいつまでも心で泣いていた。
そしてやがて夜が深けてさくらが寝静まり、ボクも考え事をしながらも
いつの間にか眠りに就いていた。
翌朝になり、さくらは学校へと登校して行った。
ボクは学校へ持って行くと目立つとの事で部屋で待機する事となった。
さくらや両親が家を出て行くと、周囲の喧騒さえ無い住宅地で
ボクは痛いほどの静寂の中で考えた。
ボクが今の現状で出来る事はさくらを魔法少女にして、
彼女が願いを叶えられるまでを全力でサポートする事だ。
そのためにはまず、魔法少女が何なのか、そして敵組織の
ヨクボーンとは何なのか、マスコットの役割とは何なのか。
知らなければならない事は無数にあった。
しかしそれをどうやって知れば良いのか。
ボクは途方に暮れながら、リビングに向かった。
そこでTVを点けた。ワイドショーがやっていた。
しかし突然、緊急速報が入った。
『町で突然、通行人に下痢便を浴びせかける事件が発生。
警察が対応しているが、警察も多数被害に遭っている。』
とのニュースが流れた。
間違いない、ヨクボーンだ。しかもヒワイダーだろう。
コレはおそらく下痢便浴びせかけフェチによる犯行だ。
長い事インターネットで特殊性癖を深堀していたボクにはわかる。
こういう鬱屈した特殊性癖ほど、爆発した時がヤバい。
ボクは当てもないまま、とにかく現場へ急ぐ事にした。
何の知識も無いし、対抗手段だって無い。
それでも、ボクに何か出来る事は無いかと考えると
居てもたってもいられなかった。
やがて現場が見えて来た。
「ヒワイダー!!
ヒッヒッヒ、皆、俺様の下痢便を浴びて粛清されろー!!」
狂った一人の男が、そこに立っていた。
ボクは一体、コイツをどうしたら良いのだろうか。
やがてヒワイダーは腰を屈めて、ボク目掛けて尻を突き出して来た。
「発射ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
大量の下痢便が、ボクを目掛けて発射されてしまった!!




