第十話
━『魔法少女と言えば、マスコットが付き者』━
それが、ボクの世代にとっての常識だった。
だけど今や、魔法少女は一人でもやって行ける。
そもそも仲間達もいるから、最初のアレコレについては先輩に教えて貰い、
コミカルギャグ枠については担当の魔法少女がいたりする。
個人戦からチーム戦へと変遷した魔法少女の歴史の中で、
マスコットはその地位を落し続けて行った。
ネットでは『淫獣』などと貶めて呼ばれ、ネタキャラ扱い。
独特な形状を論って、『ウ〇コみたい』と嘲笑ったり。
戦闘では役に立つ事も少なく、戦力にはならない。
その割に魔法少女にお説教だけは偉そうに垂れる。
そんな様々な要素が絡み合い、マスコットは近年の魔法少女界隈では
絶滅危惧種になっていた。
黒幕説とかまで出て来て、マスコットを忌避する動きさえある。
カレン
「ここ一週間皆で手分けして探してみたけど、いないねぇ、マスコット。」
亜子
「そもそも最近は魔法少女のマスコット離れが進んでるらしいわ。」
さくら
「直接話せた魔法少女の子達も、死なせてしまったりケンカ別れしたり、
ちゃんとマスコットを連れてる子はいなかったよ。」
春川
「もう、魔法少女にとってマスコットは必須では無くなっているのかも。
魔法少女自体がアイドル的に扱われる中で、画面に映る不要物として
もう誰も求めていないのかも知れませんね。」
春川の言葉はボクの心をグサッと刺した。
望んでなった体では無いけれど、美少女達の側にいられるこの立ち位置、
案外マスコットも悪くない、そう思っていた。
だけどもう魔法少女にとってマスコットは必要ない。
その事実と自分の存在意義について、ボクはとても悲しくなった。
「ねぇ、皆。ボクはもういらないポンか?
確かに元々は45歳童貞のどうしようもないダメおっさんだけど、
この体になってから少しずつ変わったんだよ。
皆より年上のクセに幼くて、役に立たないけれど、
それでも息をしていて、皆と一緒に泣き笑ってるんだよ・・。」
亜子
「別に、あなたの事を不必要だなんて思ってる子はここには居ないわよ。
ただ世の中の流れがそうだってだけ。
だけど困ったわね、このままじゃ、マスコットの力で世界を変えるなんて
夢物語のままで終わっちゃうわ。」
さくら
「いるじゃん、ココに。」
カレン
「さくらさん、それはそうだけど、
オタポンだけじゃ、荷が重すぎるわよ。
もっとたくさんの魔法少女にあたって、探さないと。」
さくら
「どうして?
オタポンだってマスコットだよ?
それに、オタポンの触れたものをファンシーにする力は
一人でも十分過ぎるほどだよ。
他にマスコットがいないからって、それだけで諦めるの?
オタポンの可能性を信じようとは思わないの!?」
カレン・亜子・春川が黙った。
さくら
「オタポン。確かにあなた一人に託すには、あまりに大きいかも知れない。
それでもオタポンも私達の仲間だもん。わかってくれるよね?
私達がやらなきゃ、他の魔法少女の子達を頼っていたってダメなの。」
「うん、わかるよ。いや、わかるポン。
他の誰かに頼っても意味が無い。自分がまずやらなきゃ。
これは今までキミ達を見ていて、ボクも凄く学んだ。
キミ達から貰った勇気を、今度はボクが実践する番だポン。」
さくら
「良かった。わかってくれてありがとう、オタポン。」
さくらは目にうっすらと涙を浮かべながら、ボクを抱きしめた。
とは言え今のボクは、触れたものを必ず意図して何かに変えられなかった。
能力の発動はランダムだし、こんな事では役に立たない。
ボクはトレーニングをする事にした。
「よし、亜子が教えるの上手そうだし、頼んでみるか。
亜子、ボクの触れたモノをファンシーに変えてしまう能力、
訓練を手伝ってくれないかな。」
亜子
「あら、良い心がけじゃない。
そういった努力方面の協力なら惜しまないわよ。
私が使っている魔力を具現化するための練習部屋においで。」
正直ボクはそう言われて、どんな凄い場所かと想像を巡らせた。
地下の冷暗所でストイックにただ魔力を打ち込む亜子を想像した。
しかし実際のその場所は、亜子の自宅の彼女の部屋の隣だった。
「え、ココなの?
もっと何か凄い場所を想像していたポン・・・。」
亜子
「バカね、普通の中学生にそんな特別な場所、用意出来ないでしょ。
学校の教科書とか漫画とか、気が散るものが無くて集中出来る、
こういう場所が魔力に集中するには最適なのよ。」
そう、つい忘れがちだが、彼女達はあくまで普通の中学生なのだ。
特に亜子とカレンは大人びていてボクより年上と感じる事もあるが、
普段はオシャレや友達とショッピングを楽しむ学生なのだ。
亜子
「それじゃあ、この部屋にあるものを何でも触ってごらん。
強く集中するのよ。そうね・・・マカロンとかどうかしら。」
だけど、こんな事を言われながらもボクは悪いクセが出て来た。
クセと言っても性癖だ。亜子が普段のクールで大人びた様子から
実は中学生で子供だと言うギャップ、そこから連想して
『こんな美少女でもう〇こするんだろうなぁ』と言う、
最悪な考えが頭から離れなくなっていた。
そして、そんな思考が便器にこびり付いた便のように取れないボクは
とんでもないやらかしをやってしまった。
何と、触るもの全てをう〇こに変えてしまったのだ・・・。
女の子の家でう〇こを生成しまくる最悪なマスコット
亜子
「ちょっと・・・・オタポン、・・・もう、やめさせて貰うわね。
それ全部、片付けて頂戴。どうせ食事しないのなら味を感じないでしょ?
じゃあ、それ全部自分で食べなさいよ。失礼にもほどがあるわ。」
せっかくやる気を出したのに、亜子を失望させてしまった。
ボクは本当にどこまでもダメなヤツだ。
この日以降ボクはさくらの部屋に引きこもるようになった。
ヨクボーンが出現して戦いに行く時も、手だけ振って布団の中。
ボクは何もしない方が良い。
マスコットの力で世界をファンシーに変える。
あの日さくらが提案してくれた素敵な夢の世界は、夢物語で終わる。
それは仕方ない事だと思った。
だって45歳童貞だったボクにそんな夢みたいな事は不可能だ。
一瞬でも夢を見せてくれたさくらにお礼を言おうと、
さくらが部屋に帰って来た時に言葉をかけようとした時、
さくらからボクに声を掛けて来た。
さくら
「オタポン。訓練だなんて、身構えるからダメなんだよ。
オタポンの好きなものって何かなぁ。
えーっとぉ、私のパンツとか?(笑)
まぁ、本物はあげないけどぉ、だったら、
想像して作っちゃえば?ホラ、コレと同じデザインとかさ。」
さくらはそう言って、タンスから一枚のパンツを取り出した。
あの最初の時の『頭にパンツ被った事件』以降、
見ないようにしていた美少女のパンツを目の前に出されて、
ボクは目が覚める思いだった。
「やってみるポン!」
スッカリ元気になったボクは、調子に乗ってドンドンと
パンツを生成しまくった。
さくら
「なぁんだ、ホラやっぱり、オタポンやれば出来るじゃん。
コレさ、もしヨクボーンや魔法少女管理委員会にやれば
十分に有効な攻撃だと思わない?」
確かにそうだ。
いきなり、武器がパンツに変えられれば、敵も戦意喪失だ。
そうか、こんな事で良かったんだ。
ボクは亜子からの厳しい訓練では緊張して、その緊張を緩和する為、
極端な妄想をしてしまいそれが仇となってしまった。
しかし、さくらは凄く自然にボクが作りたいモノを導き、
可能性を示してくれた。やっぱりこの子は凄い。
ボクはさくらの事をどこか、可愛い美少女とかを超えて、
人間的に尊敬していた。この子とならもしかしたら、
本当にヨクボーンや魔法少女管理委員会を倒せるかも知れない。
「ねぇ、さくら。もしさ、本当にヨクボーンも魔法少女管理委員会も
ぜんぶやっつけて戦いが終わったらさ、さくらのパンツ一枚、
ボクにくれるポンか?そしたらボク、頑張れるポン。」
多分、カレンや亜子なら「キモ・・・」とかで終わる反応だろう。
だけど、さくらは違った。
「ふふ、本当にオタポンはダメダメだね。
私みたいな中学生のパンツを欲しがるのって、本当にダメな事だよ。
だけどさ、もし本当に全部を終わりに出来た時には、
私のパンツ、一枚あげるよ。」
さくらが天使に見えた。
この子は他の子と違って、思考停止からの否定に入らない。
ちゃんと事の大きさを測った上で、その見返りとして妥当なら
自らの恥ずかしさも厭わない。
ボクは俄然やる気が出て来た。
「よし、行こう!!
今すぐ行こう!ヨクボーンのアジトに!!」
「ちょっと、オタポン、アジトって知らないでしょ(笑)
まずはしっかりと情報収集して、見つけたら、皆で行こう。
オタポンがいれば、きっと大丈夫だからさ。」
不思議と、さくらと一緒だと行き詰ると言う事が無い。
もしかしたらこの子は戦いのセンスとかだけじゃなくて、
あらゆる事に希望を見出す天才なのかも知れない。
そんな事を感じながら、ボクはさくらと笑い合いながら、
この日を幸せな眠りで終わらせた。
しかし、翌朝に起き出したボク達が見たのは
[春川薫死亡] のニュースだった。
コレは・・・
明らかに魔法少女管理委員会は春川の動きを知っていて、
ボク達への警告として春川を殺害したのだ。
「何て事を・・・酷過ぎるポン。
さくら、カレンと亜子に会って、
魔法少女管理委員会の居場所を突き止めよう。
もう、ヤツらの好きなようにはさせたくないポン!」
そこへ、羽を携えたスラッとした男が開けていた窓から部屋に入って来た。
「そっちから来るまでも無いで。
僕が、今ここであんたらを殺してやるわ。」




