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妹が『かぐや姫』になったので、俺は配信で物語の結末を書き換える  作者: ささかま


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3話 『千夜一夜』と契約しろ

「美月に何をした」



声が勝手に荒れた。

握りしめた札が、指の中で歪む。


目の前にいるのは美月だ。

けれど、俺を見ている瞳の奥に、美月とは違う静けさがある。



「答えろ。ここはどこだ。お前は誰だ。美月を今すぐ返せ」



言葉が止まらない。


考えるより先に、口が動いていた。

美月の姿で、知らない誰かが喋っている。


それだけで、胸の奥が焼ける。


白い着物の袖が、月光を受けて静かに揺れた。

美月の顔をした存在は、俺の問いに答えない。


ただ、ゆっくり瞬きをした。



「私は、かぐや姫」



その声は冷たくなかった。


けれど、人間の温度もなかった。

昔話の一文を、そのまま現実へ置いたような響きだった。



「この地の物語を核とするもの。あなたたちの言葉で言えば、怪異ダンジョンの主です」



「主だろうが何だろうが関係ない。美月を返せ」



一歩踏み出そうとして、足元の土が沈んだ。


霊力が乱れる。

足の裏から抜けていく感覚があった。


ここでは、いつもの支援術式が形にならない。


かぐや姫は、俺の焦りを見ても表情を変えなかった。



「心配は不要です」



「不要なわけあるか」



「彼女は死んでいません。消えてもいません。意識は奥にあります」



その言葉だけで、喉が詰まった。


奥にある。

つまり、表にはいない。


胸の内側で、嫌なものが軋む。



「なら、戻せ」



「今はできません」



即答だった。


美月の顔で、当たり前のように言う。

その平静さに、怒りが遅れてこみ上げる。



「ふざけるな」



「ふざけてはいません。彼女は最適でした」



月光が濃くなる。


竹の葉が揺れていないのに、白い光だけが流れていた。



「適合率が高い。器として強い。精神の芯も折れにくい。何より、あなたが近くにいた」



最後の言葉だけ、少しだけ重く聞こえた。


俺が近くにいた。

その意味が分からない。


だが、かぐや姫はそこで言葉を切った。



「あなたには、干渉の適性がある」



「俺が?」



思わず聞き返す。


笑いそうになった。

こんな状況でなければ、鼻で笑っていたかもしれない。


俺は神代の家では落ちこぼれだ。

攻撃術は弱い。


結界も一流には遠い。

式神召喚だけは使えるが、それも後方支援止まりだ。



「俺に戦闘力なんてほとんどない」



「戦闘力は不要です」



返答は早かった。


かぐや姫の視線が、俺の手元の札に落ちる。

そこにある霊力ではなく、その奥を見るような目だった。



「必要なのは、物語へ触れる力です」



空気が変わった。


竹林の奥から、紙がめくれるような音がした。

一枚ではない。


何百枚もの頁が、見えない場所で同時にめくられている。



「行きなさい」



「どこにだ」



かぐや姫は、わずかに間を置いた。



「千夜一夜」



聞いたことのない名前だった。


だが、胸の奥で何かが引っかかった。

知らないはずなのに、音だけが妙に残る。



「……なんだ、それ」



「あなたが向かう場所です」



説明はない。


ただ、それだけを告げる。



「そこで、契約してきなさい」



「契約?」



「できたなら、あなたの適性は本物です」



「できなかったら」



聞きたくない問いだった。

それでも聞かずにはいられなかった。


かぐや姫は、ほんのわずかに首を傾ける。



「その時は、ここで終わりです」



竹林が静まり返る。


美月の身体を使っているのに、声はまったく揺れない。

残酷さではない。


ただ、結果だけを告げている。



「目的は何だ。どうして美月なんだ。千夜一夜と契約したら、全部話すのか」



「契約できたなら、話します」



「今話せ」



「今のあなたには、聞く資格がありません」



拳に力が入る。


殴って済む相手じゃない。

分かっているのに、体が前へ出そうになる。


その瞬間、美月の指先がわずかに動いた。


かぐや姫のものではない。

俺には分かった。


止めて、と言っているように見えた。


奥歯を噛み締める。


美月がまだいる。

なら、ここで壊すわけにはいかない。



「……行けばいいんだな」



声が低くなった。


情けないほど、他に選択肢がなかった。



「千夜一夜と契約する。それで、お前の目的を聞く。美月を返す方法も聞く」



「はい」



「ただし、覚えておけ。美月を道具みたいに扱うなら、俺はお前を許さない」



かぐや姫は、初めて少しだけ笑った。


美月の顔で。

けれど、美月とは違う笑みだった。



「その感情は、悪くありません」



足元に月光の円が広がる。


まずい。

そう思った時には、もう遅かった。


竹林の土が消える。

満月が足元に落ちてきたように、白い光が視界を塗り潰していく。



「待て。まだ話は終わってない」



「終わっています」



かぐや姫の声が遠ざかる。



「適性がある者なら、千夜一夜が導くでしょう」



体が沈む。


いや、落ちているのか。

上下の感覚が消えた。


最後に見えたのは、美月の瞳だった。


白く濁った奥で、ほんの一瞬だけ、人間の色が揺れた。



「兄さん」



声が聞こえた気がした。


次の瞬間、世界が書き換わった。

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