表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が『かぐや姫』になったので、俺は配信で物語の結末を書き換える  作者: ささかま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/19

13話 戻ってきたけれど

視界が白く切れた。


次に足裏へ返ってきたのは、月の城の冷たい石ではなかった。

硬い床。

薄く振動する空気。

遠くで鳴る機械音。


俺は反射的に膝を曲げ、体勢を整えた。


目の前には、摩天楼ダンジョンの外壁がそびえている。

青白い光が縦に走る巨大な塔。

その入口前の管理区域に、俺たちは立っていた。


三十層のボス部屋前ではない。


ダンジョンの外だ。


現実に戻されたのだと、少し遅れて理解する。

肺に入ってくる空気に、排気と金属と人の気配が混ざっていた。


隣にいる美月の身体は、かぐや姫が動かしている。

背筋は伸び、視線はまっすぐで、無駄な動きがない。


周囲の探索者が何人かこちらを見た。


摩天楼ダンジョンの入口前に突然現れた三人組。

しかも、ひとりは配信で知られた神代美月だ。


目立たないわけがない。


俺は声を落とした。



「ここでその喋り方、目立つ」


「問題ありません。周囲の認識には軽い補正をかけています」


「そういうことを普通に言うなよ」



かぐや姫は答えなかった。


必要なこと以外は、話す気がないらしい。


シェヘラザードは俺の横で、周囲を物珍しそうに見ている。

協会の受付カウンター。

出入りする探索者。

壁面に並ぶ階層掲示板。


どれも見慣れた現実の光景だった。


少なくとも、ここは物語ダンジョンではない。


俺はポケットから端末を取り出した。


まず確認するべきは、ダンジョンライブだ。


画面を開くと、配信は停止していた。

サムネイルには、摩天楼ダンジョン三十層のボス扉前が映っている。


最後のフレームは、美月が扉に手をかけた直後だった。


そこから先はない。

リアルタイム配信は、そこで終了している。



「……切れてるな」



驚きはなかった。


かぐや姫ダンジョンに取り込まれた瞬間、配信を遮断したのはかぐや姫だ。

外から観測され続ければ、美月の状態も、かぐや姫の存在も配信に乗る。


あの場では、切るしかなかったのだろう。


納得はできる。

ただ、勝手に切られたという事実は残る。



「切断処理は、あなたがやったんだよな」


「はい」



かぐや姫は即答した。



「観測の流入を遮断しました。不要でしたので」



不要。


やはり言い方が冷たい。


俺はコメント欄を開いた。


最後に残っていたのは、いつもの軽いコメントだった。


【きた30層】

【美月無双くる】

【兄、今日も後方支援頼む】

【ボス部屋だ】


そのすぐ下で、コメントは途切れている。


視聴者は、俺たちが消えた瞬間を見ていない。

竹林も、月も、かぐや姫も知らない。


知っているのは、配信が突然終わったことだけだ。


俺はダンジョンライブを閉じ、Dシェアを開いた。


通知が一気に流れ込む。

画面上部の数字が、見慣れない速度で増えていた。


検索欄には、すでに俺たちの配信名が上がっている。


投稿が並んでいた。


【摩天楼30層の配信、急に落ちたんだけど】

【神代兄妹どうした?】

【ボス部屋前で切れるの怖すぎ】

【美月ちゃん無事?】

【通信障害?】

【ダンジョンライブ側の不具合じゃないの】


大半は心配と困惑だった。


一部には、いつもの冷やかしも混ざっている。


【また兄が機材やらかした?】

【神代兄妹、いいところで切るのやめろ】

【演出なら下手すぎ】


俺は小さく息を吐いた。


外の世界は、まだ普通に回っている。

誰も、物語ダンジョンの内側で何が起きたか知らない。


だからこそ、次の配信で話す内容は絞る必要がある。


全部は言えない。


かぐや姫のことも、千夜一夜のことも、美月の状態も。


話せるのは一つだけだ。



「次の配信で言う。物語ダンジョンに行くって」



シェヘラザードが端末を覗き込み、満足そうに目を細めた。



「よい判断です、マスター。語りすぎる語り手は、物語を損ないます」


「そういう言い方されると、ちょっと腹立つな」



軽く返したつもりだった。

だが、声は思ったより疲れていた。

現実に戻ったからといって、全部が元通りになるわけではない。


美月なら、この場で状況を確認していたはずだ。

俺の顔色を見て、軽く突っ込んできたはずだ。


今、隣にいるのはかぐや姫だ。

その差だけで、胸の奥が重くなる。



「ここに長く留まる必要はありません」



かぐや姫が言った。



「準備を済ませてください。次の行動に移ります」


「分かってる」



俺は端末を握り直した。


ダンジョンライブの配信は切れている。

Dシェアでは、もう騒ぎが広がっている。


けれど、それはまだ小さなざわつきに過ぎない。

本当に外へ届くのは、次だ。


俺はDシェアを閉じ、端末をポケットにしまった。


摩天楼ダンジョンの外には、いつもの現実が広がっている。

探索者が行き交い、協会職員が呼び出しをし、街の音が遠くで鳴っている。


戻ってきた。

けれど、元には戻っていない。

俺は千夜一夜を抱え直し、かぐや姫を見る。



「準備をする。まずはメリードールだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ