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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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90.ダイジェストなガール


 そんなこんなで驚きの連続だった旅も一段落。

 お祭りの翌日に王都を発った我々は、また慣れ親しんだ日常へと戻っていった……とは、すんなりいきませんでした。まあ、別に悪いことばかりではないですが。



「はい、ただいま! 修道院にはしばらく暇をもらってきたからね。ほら、お母さんお腹大きくて大変なんだから、皆もちゃんとお手伝いしなさいよ」



 あの旅行からそんなに経たないうちに今度はわたし一人で実家に舞い戻り、母上様の出産前後の半月ばかり家事や幼い弟妹のお世話に精を出しておりました。


 もう何人も産んでいるだけあってお母さん本人は落ち着いたものでしたし、本来わたしに対してはお産が終わってから手紙で報せるつもりだったようですが、これから多大なる迷惑をかけるだろうとの引け目もあって親孝行をしておこうと考えたのです。


 事情が事情だけに院長先生からの帰省の許可は簡単にもらえましたし、王都までの往路および復路で一晩そこら滞在するだけよりは、こちらもリラックスすることができました。自意識過剰でなければ家族も喜んでくれていたと思いますし、まあ、これに関しては良い側の非日常と言って問題ないでしょう。



 ◆◆◆



 で、そのすぐ一か月ほど後のこと。



「というわけで、実はマー君は本物の王子様だったんだよ」


「ははは、実はそうだったんですよ。この前は騙していたようで申し訳ありません」


「それで、その……将来、わたしはマー君と一緒になるつもりなので、うちの家族も王家の親戚ってことになるのでよろしく!」



 妊婦さんに大きな精神的ショックを与えるのは好ましくないだろうとの判断で、赤ちゃんが無事産まれるまで伝えるのを控えていたわけですが、いつまでも先延ばしにするのもそれはそれでよろしくない。

 それで一旦修道院に引き返してから、今度はマー君や一緒に説明してもらうため影武者のレイさん同伴で再度の帰省となった次第でございます。



「は、ははーっ、先日はとんだご無礼を……」


「お父さん、それはわたしがもう前にやったから」



 一民間人にとっては天地が引っくり返るような衝撃でしょう。

 土下座でこそありませんでしたが、お父さんの恐縮ぶりには初めてマー君の正体を知った時の自分自身を思い出して変なところから親近感を覚えてしまいました。


 とはいえ、マー君自身の人柄は以前に話して家族の皆も好印象を抱いていましたし、最初のうちこそ驚いたものの最終的には円満かつ穏便に受け入れてもらえたように思えます。


 一応、王家との繋がりを誰彼構わず言いふらしたりすると変なトラブルに巻き込まれかねませんし、この時の帰省で事情を話したのは両親と比較的年長の弟妹達だけ。まだ幼い子達には各自の心身の成長度合いを見計らいつつ、適切な時期に伝えるようにすべきでしょうか。



 ◆◆◆



 次の大きな出来事は、そこから何か月か経った頃。

 味噌やお米を定期的に送ってもらう都合もあって、わたしは畏れ多くも王様と定期的に文通をしていました。最初のうちは品物のお礼だったり貴重な転生者仲間として前世あるあるで盛り上がっていたのですが、冗談半分で地球の料理を世間に広めるアイデアを伝えたら、こちらが予想した以上に乗り気になってしまったようで。



「おっ、しばらく会ってないですけどエリちゃんも元気そうで何よりですね」



 わたしが提案したアイデアというのが、古文書の内容から再現した失われた料理と称したメニューを提供する料理店をどこかに開き、世間の皆さんに食べてもらうという方法。


 とはいえ、そうなると信頼できる協力者が必要です。

 開店資金に関しては王家の財力でなんとでもなりますが、まさか王様ご本人に料理人や店長職を任せるわけにもいきません。そこで信頼できる飲食業経験者が誰かいないかと考えて、そういえばエリーちゃんの実家は料理屋さんだったっけと思い出して、駄目元で推薦したらなんかそのまま通っちゃいました。


 例の悪魔関係の聞き取りも一通り終わって落ち着いたところで(ちなみに例の『本』は調査の後に念入りに焼却処分されたとか)、いきなり王様の前に召集されて仕事を頼まれたと、彼女本人からは手紙でメチャクチャ文句を言われることになりましたけど。

 簡単な調理手伝いや配膳くらいしかやったことのない普通の食堂の娘に、いきなり王家肝いりの一大プロジェクトの責任者を押し付けるとは何を考えているのかとも書かれていましたが、何も考えずに駄目元の思いつきを伝えたら何故かこうなっちゃったとしか言いようがありません。いずれ再会した暁には苦労をかけたお詫びをしないといけないですね。


 なんだかんだと義理堅い彼女は文句を言いつつも立派に店を切り盛りし、飲食店の競争が激しい王都でもなかなかの繁盛店となっているとのことだから大したものです。一番人気はわたしがレシピを提供した焼きギョウザで二番目はトマトソースのピザらしいので、様々な地球グルメの中でも特に和食文化を広めたい身としては少しもどかしい気持ちもありますが。



「それこそ駄目元ですけど、他の元地球人が見つかればいいですねぇ」



 この世界では黄金よりも貴重な地球グルメの破壊力は、他ならぬわたし自身で実証済み。王家が出資した変わった料理を出すレストランとなれば話題はそれなりに広まりそうなものですし、もしかすると噂を聞いて我々のような転生者がやってくるかもしれません。


 これはエリーちゃんやお店のスタッフすら知りませんが、お店の看板や店内のインテリアには単なる模様に見せかけて日本語や英語で元地球人とコンタクトを取りたい旨や連絡先が書いてあるので、誰かが引っ掛かるのを気長に待つつもりです。個人的にはとんかつソースかカレーの作り方を知っている人が見つかってくれると嬉しいですねぇ。



 ◆◆◆



 非日常的なイベントの連続はまだまだ終わりません。

 修道院の先輩のお一人がご実家の事情で家に戻って商売を継ぐことになったのですが、それで空いた修道女の枠に、なんとわたしの妹の一人が入り込んできたのです。当の本人や院長先生からは事前に何も聞いていなかったので、それはもう驚きましたとも。



「わたしもお姉ちゃんみたいにお金持ちの彼氏を捕まえるために来ました!」


「あのね、わたしが言っても説得力ないかもだけど、それは修道院というものをだいぶ誤解してると思うよ?」



 タダ飯目当てで入ってきた自分に言える筋合いはないのですが、この誤解をどう正そうかと頭を悩ませる毎日です。まあ、甘え上手な妹はなんだかんだと先輩方やクーちゃんにも可愛がられているようですし、それなりに毎日楽しく暮らしているようなので今はこのまま見守っていきましょうか。


 あとこちらは修道院とは直接関係ないのですが、同時期に弟が二人ほどマー君やレイさんの後輩として士官学校に入学してきたりもしました。あまり大っぴらにはできませんが、王家から推薦と学費を出してもらっている形です。

 お父さんの工房を継げる人数はどうしても限られますし、間接的にせよ本人達が希望を持てる進路を選ぶ一助となれたなら嬉しいですね。



 ◆◆◆



 そろそろ新ネタも打ち止めが近いですが、王都から戻ってから一年以上も経過した頃から少し気になることが。わたし自身は、この件については単なる外野にすぎないのですが。



「ああ、どうしましょう……」


「クーちゃん、悩んでるみたいだけど何かあったの?」


「ええ、その、実はレイさんのことで」



 なんと、最近クーちゃんとレイさんがなんだか良い雰囲気なのです。

 以前から友達として親しくはしていましたが、ここ最近の距離感はそれとは少なからず異なる様子。まだハッキリ恋心を自覚してすらいない段階のようですが、外出の用事がある時などに二人でコッソリ待ち合わせて頻繁にお喋りをしているとか。


 で、ここからが問題でして。

 普段は王子の影武者として過ごしているレイさんは、ちょっと道を歩くだけで街中の女性達から熱い視線を雨あられと浴びるのが常。そんな姿を見ていたら、なんだか心の中がモヤモヤと落ち着かない気持ちになってしまったらしいのですが……。



「それって独占欲というか嫉妬心というか、まあ要するに好きなんじゃない?」


「そ、そんなことは、その……いえ、ですが私は生涯を信仰の道に捧げるつもりで……」



 芽生えたばかりの恋心と信仰との間で葛藤する親友を見るのは、正直ちょっと面白くもあるのですが、クーちゃん本人は真剣に悩んでいるのでしょう。


 最終的に彼女がどういう答えを出すかは本人次第ですが、わたしは将来的に王都暮らしになるんでしょうし、警護隊に所属するレイさんも恐らくはそうでしょう。仲良しの親友と離れ離れになるのは寂しいですし、できれば彼女も一緒に近くで暮らせると嬉しいのですけれど。


 まあ、この問題については過度な口出しをせず気長に見守るしかないでしょう。



 ◆◆◆



 と、王都から戻ってからも非日常的なイベントが目白押し。

 もちろん以前からと同じ修道院の当番や毒手モドキの修行もありますし、それ以外でもちょっとの空き時間を見つけては、将来的に必要であろう分野のお勉強に追われる毎日でした。


 語学や礼儀作法や歴史やら、他にも色々。

 体質改善の治療ついでに持参したテキストでマー君に教わったり、体力やストレスが限界近くなったら公序良俗に反さない範囲でイチャついて甘やかしてもらったり……と、大体そんな感じです。


 なかなか学習が進まないことにもどかしさを覚えることもしばしばでしたが、それでも王都から帰ってから二年近くも経つと、どうにか赤点を回避できるくらいにはなったはずです。多分、きっと、恐らくは。王都の社交界で学習成果を実践するのはまだ怖くもありますが、そこはもう度胸と勢いで乗り切るしかないでしょう。



 そんなこんなで色々やっていたら、いつの間にやらわたしも十八歳に。

 十二歳でここに来てから、なんと六年も経っていたわけですが……、



「荷物はこれで全部かな? これでこの大部屋も見納めかぁ」



 この修道院で過ごす日々も今日でおしまい。

 これでもう修道服を着ることもないでしょう。


 わたしはこれから久しぶりの王都へと向かいます。

 つい数日前に士官学校の卒業式を迎えたマー君と一緒に、今度は往復ならぬ片道で。


※次で最終回です。

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