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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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89.不意討つガール


 お城の中で一番高い尖塔は、この前の黒龍に落雷で壊されてしまったので現在は再建工事中。なので、現在のところは我々がいる四階のバルコニーが最も見晴らしが良い場所となるでしょうか。



「おおっ、絶景かな絶景かな。こんな場所があったんですねぇ」


「ええ、ボクも昔から気に入ってるんですよ。身体が弱かった頃も、具合の良い日はここに置いた揺り椅子から街の景色を眺めたり」



 普段のこの時間だともっと暗いそうですが、本日はお祭りの日とあってか夜になっても王都の灯りが消える様子はありません。人によっては、このまま朝まで夜通し飲み明かしたりするのでしょう。健康にはよろしくないんでしょうし日常的な深酒は避けるに越したことはないですが、こんな特別な日くらいは羽目を外したくなるのも仕方なし。

 もう何年かして大っぴらにお酒が飲める年齢になったら、わたし達も仲の良い皆で同じようにお酒を楽しむ日が来るのでしょうか。



「あっ、ほら。あそこ昼間に行ったお店じゃないです?」


「ええと、ああ、ボクも見つけました。それと、その向こうの……あっちにあるのが多分エリーさんのご実家のお店ですね。それから、その少し先がお芝居を見た広場だったかと」


「いやぁ、今日はずいぶん遊んだよねぇ。あ、見て見て。最初に行った公園から光がピュンピュン飛んで……聖槍用に準備した的がなくなって、代わりに空の雲を撃つようにしたのかな?」


「途中で近くを通りかかった時も、順番待ちの行列がすごいことになってましたからねぇ。ボク達は最初にやらせてもらえてラッキーでしたね」



 丸一日遊び歩いたこともあり、王都の街並みを眺めているだけでも話題はいくらでも出てきます。このまま思い出話に花を咲かせるだけでも楽しくはあるのでしょうけど……。



「ねえ、マー君。あっちのほう見てくれる?」


「ええと、大聖堂の先あたりですかね? ええと、あのあたりは確か……」



 素直な王子様はわたしが指差した方向を素直に眺めています。

 ここまで引っ掛かり易い子に騙し討ちを仕掛けるのは若干の申し訳なさもありますが。


 つん、と。



「え? あの、りっちゃんさん、今のは?」


「ふ……ふっふっふ、隙あり、ですよ!」



 明後日の方向を向いた彼の頬に、小鳥が啄むような触れるだけの口づけを。


 あー、顔熱い……!


 鏡を見ずとも絶対赤くなっているのが分かります。

 たかがホッペにチューくらいでこの有り様とは、我ながらヘタレなことで。

 彼もようやく状況に理解が追いついたのか、顔を赤く染めながら目をぱちくりと瞬かせています。が、体勢を立て直す時間は与えません。ここは攻めの一手で押し切らせてもらいましょう。



「好きです」



 自分の心臓がバクバク鳴ってうるさいですが、ここまで来たらもう最後まで勢いで突っ走るしかないでしょう。



「わたしはっ、マー君が大好きです!」



 ああ、言っちゃった。

 これまでも言外に好意を示してはきましたが、明確に言葉にしたのはこれが初めて。彼から返答を急かされたことはないですけれど、だからといって心遣いに甘えて有耶無耶な態度を取り続けるのもいい加減失礼というものでしょう。



「優しくて、可愛くて、でも、いざという時には勇敢なところもあって。そんなマー君のことが、好き……です」


「りっちゃんさん……ありがとうございます。では、ボクからも改めて今一度。貴女のことが好きです。心から愛しています」



 うぅ、死ぬほど恥ずかしい……。

 でも嬉しすぎて絶対死にたくない。


 王子様のお相手となると今後は人付き合いやらお勉強やら、さぞや大変な人生となるのでしょう。自由気ままで気楽な暮らしというのは難しくなりそうですが、マー君と一緒にいるためなら大変なことも我慢できる、はず。

 少なくとも努力してどうにかなる範囲であれば、やるだけやってみようと思えるくらいの覚悟は決めたつもりです。いくら大変といっても、悪魔相手に斬った張ったの大立ち回りをやるよりは気楽でしょうし。まあ時には泣き言の一つや二つ出るかもしれませんけれど。



「あっ……で、でも今はまだチュー以上のことは駄目ですからね!? ほ、ほら、こちとら貞淑な修道女ですし? マー君も当分は学校通いを続けるつもりなんですよね?」


「ええ。では、正式に結婚するまでは健全な関係を続けるということで」



 ……こうもあっさり引き下がられると、それはそれでモヤっとしますね。

 いえ、一国の王子様が学生の身分でありながら修道女を孕ませたとかなったら大変な醜聞ですし、物分かりが良いに越したことはないんですけど。まあ、こちらの心の準備的にも助かったと思っておきましょうか。



「では、りっちゃんさん」


「はい、マー君」


「今後とも末永くよろしくお願いしますね」


「ええ、こちらこそ。不束者ですが、どうぞ末永くよろしくお願いします」



 どちらが言い出すともなく軽く抱擁して、今度は互いが互いの頬に口づけを。

 いつかは昼間のお芝居みたいな大胆な愛情表現をすることになるのかもしれませんけど、ひとまず今のところはこれくらいが丁度良いのではないでしょうか。


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