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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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88.羞恥と勇気のガール


 こんなに楽しいのはいつ以来でしょう。

 気の合う仲間と遊んで、食べて、また遊んでの無限ループ。本日の軍資金として王様から結構な額のお小遣いを頂いているので、懐具合を気にする必要すらありません。



「ふぅ、ゴチでした。エリちゃんのお家は料理屋さんだったんですねぇ」


「うん、結構評判良いんだから」



 また前に四人で遊んだ時と違って、今回はエリーちゃん及び友人一同が一緒なのも心強い。十人以上もの地元民がいるおかげで、修道院の先輩方から仕入れてきた以外の穴場のグルメ情報や遊び場をアレコレ紹介してもらえました。


 特にオススメとして連れてこられた料理屋さんは、なんとエリーちゃんの親御さんが営む食堂で、大皿に山盛りの串焼きを振る舞っていただきました。

 大ぶりに切った鶏肉や豚肉を串に刺して炭火で炙り、そこに秘伝のミックススパイスをたっぷり振りかけたというお店の名物は大変に結構なお味。欲を言えばお供として白いご飯があれば完璧でしたが、次に訪れる機会があれば持ち帰りにしてもらって王様にご飯を炊いてもらった白米と合わせましょうか。なんとも夢が広がります。



「こ、これは……!?」


「あはは、たったの五日でよく仕上げたものですねぇ」



 腹ごなしに見物したのは、街中の広場を舞台に行われていた辻芝居。

 かなりの盛況でしたし役者さん達の演技力そのものは実際大したものでしたが、その演目についてはちょっとばかり問題がありました。



『悪魔よ、貴様を倒して皆を救ってみせる!』


『ククク、まさか王子とは! 吾輩が血祭に上げてくれましょう!』



 お芝居として構成するにあたり各人のセリフや展開には脚色を加えられているようですが、つい先日の悪魔との戦いが演劇として上演されていたのです。


 この救国祭の開催が急遽発表されたのが実際にその戦いがあった翌日。

 そこから脚本を書き上げて役者さんが練習したとなると、そのスケジュールは凄まじくハードなものとなったことでしょう。流石はプロの仕事だと感心する気持ちも一応あるにはありますが……、



『おお、愛しい人よ! 貴女を悪魔になど奪わせてなるものか!』


『ああ、王子様! わたくしもお慕いしています!』



 メインヒロインがわたしというのは如何なものでしょうか!?


 声はともかく顔バレはしていないはずですし、まさか役のモデル本人が目の前で見物しているとは役者さん達も思っていないでしょうけれど、ストーリーを盛り上げるべく臭いセリフが山盛りで、なおかつ主役の王子様役とのラブシーンもてんこ盛りです。

 なにしろ他ならぬ自分達が巻き込まれた事件が元ネタとあってか、お芝居に興味関心を持つ通行人の皆さんは多々いる模様。そうした需要というかネタの旬を見逃さぬよう、大急ぎで間に合わせた判断は商売としては確かに正解なのでしょう。盛況なのは結構ですけど、これはいくらなんでも恥ずかしすぎます。



「はぁ……素晴らしいお芝居でしたね。主役のお二人が最後に口づけを交わすところなど、とってもドキドキしてしまいましたわ」


「うぅ、クーちゃん。思い出して恥ずかしくなっちゃうから言わないでよぅ……」



 別にわたしとマー君が皆の前でキスをしたわけではないのですが、あの状況で意識しないほうが無理というものでしょう。他の面々も役者さん達にモデルとなった各人のイメージを投影しながら観ていたに違いありません。どれだけハイレベルな羞恥プレイですか。



「ほら、皆! お芝居はもうお腹いっぱいですし、何か他に遊ぶか食べるかしましょうよ」



 そんな予想外の出来事はあったものの、それ以外については文句の付けようもありません。引き続き遊んで、美味しい物を食べて、ちょっと休んで、また遊んで……いつの間にやらすっかり夜に。

 お酒を飲む人達にとってはこれからが本番でしょうが、十代の少年少女ばかりの集まりである我々は、ぼちぼち解散を考えるべき頃合いです。



「それじゃあ、またね」



 お城に滞在している面々と地元組とで行き先が違うため、まずエリーちゃん達とお別れを。わたし達も明日には王都からの帰路に就く予定なので当分会うことはできないでしょうが、なにしろ共に生死を懸けて戦った戦友同士。付き合いは短いですが、良い関係を築けたのではないでしょうか。また王都を訪れる機会があれば、時間を作って何度でも会いたいものです。



「では、私は今夜は実家に滞在する約束をしておりますので」


「女性の一人歩きは物騒だからな。家の前まで俺が送っていこう」



 続いて本日は実家に泊るらしいクーちゃんと、彼女をエスコートしてくれるレイさんが別の道に。レイさんも今夜はそのままご実家に向かうそうです。滅多に帰省できない暮らしの中での貴重な機会ですし、それぞれのご家族との時間を大切にしていただきましょう。



「では、僭越ながら、りっちゃんさんはボクが城までエスコートをさせてもらいますね」


「はい、お願いします。まあ実際には他に護衛の皆さんがそこら中にいらっしゃるんでしょうけど」



 さっきまで遊び回っていた最中にも、警護隊の皆さんが近くでガードしてくれていたのでしょう。変装しているらしいので周囲の誰がそうなのか分かったわけではないですが、王都中がお祭りムードの中でお仕事に徹するとはご苦労なことです。そういった事情もあるので、この状況になっても二人きりという気はあまりしません。



「明日の朝食は父上が腕を振るってくださるそうですよ。りっちゃんさんがあれだけ気に入ってくれたのが、よっぽど嬉しかったんでしょうね」


「それは嬉しいですねぇ。さぞやお忙しいでしょうに」



 王様には定期的に修道院まで味噌やお米を送ってもらう約束をしています。

 流石に生魚やお豆腐は厳しいですが、お魚の干物や昆布なども融通してもらえるそうなので、わたしが上手く活用して修道院の皆さんに和食の魅力を知ってもらえるよう頑張らねば。将来的にはどうにか世間一般にまで普及させて、そこらのお店で和食の材料を買えるようになれば万々歳です。



「おっと、もう着いちゃいましたか」



 元々お城までの距離は大して長くもありません。

 トラブルの気配すらなく到着し、ここしばらくで顔見知りになった兵隊さん達や侍女さん達に軽く挨拶をしながら城内を進めば、泊まっている客室まではあっという間。ここで別れて、あとはもう眠るだけでも良かったのでしょうけど。



「マー君」


「はい、なんですか?」



 別に昼間のお芝居を意識してのことではないはず……まあ、ちょっとくらいは影響されたかもしれませんが。その件とはあまり関係なく、わたしも少しだけ勇気を出してみることに決めました。



「その、ですね……もう少しだけお喋りしません?」



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