85.英雄になったガール
「知らない……いや、知ってる天井ですね」
いったい何時間くらい眠っていたのでしょう。
わたしはここ数日泊まっていたお城の客間で目を覚ましました。
「あれ、ええと……?」
長く寝すぎていたせいか、頭がなかなか動き出してくれません。
ううむ、ひとまず思い出せるところから順に思い起こしていくべきか。
たしか建国祭が悪魔の出現で台無しになって、それから成り行きで半日ほど王都のあちこちを駆けずり回り、最後は紳士風の食いしん坊悪魔を相手に一か八かの奇策を皆で成功させて……と、たっぷり体感三十分ほどもかけてそこまで思い出した頃には、脳ミソも次第に普段の回転を取り戻しつつありました。
お腹のあたりををバッサリ切られて穴の開いた修道服ではなくバスローブ風の格好になっているのは、恐らくお城の侍女さん達が着替えさせてくれたのでしょう。ちょっと恥ずかしいですけれど、血の染み込んだ服のまま寝て高そうなベッドを汚すよりは幾分マシというものです。
「もうすっかりお日様が昇ってますねぇ……」
お部屋のカーテンを開けて太陽の位置を確認した限りでは、もうお昼近い時間になっている模様。たしか昨日の戦いが終わったのが夕方のちょっと手前くらいでしたから、過去にタイムスリップしたのでなければ、わたしは二十時間近くも眠りっぱなしだったのでしょう。こんなにも長く眠ったのは転生したばかりの赤ちゃん時代以来です。
「着替えは……とりあえず、こないだ買ったやつでいいか」
欲を言えば着替えの前に朝風呂と洒落込みたいところでしたが、昨日の今日ではお城の皆さんも諸々の後片付けやら何やらで大変でしょう。個人的なワガママのためにお手数をかけるのも気が引けます。
あと胃袋もようやく起き出してきたせいか、今は他の何より栄養補給を優先したい気分です。厨房に顔を出したら、適当な余り物か食材の切れっ端でも恵んでもらえないものでしょうか?
「はて?」
……などと思って城内をフラフラ歩いていたはずが、どうしてお偉いさん方が詰めかけた謁見の間にいるのでしょうね。ちなみに周りにはマー君やクーちゃんやレイさん、それからエリーちゃんや院長先生も一緒に跪いています。
昨日もお世話になった侍女さんを見かけたので挨拶しようと思ったら、事情もロクに聞かされず、もちろん食べ物を恵んでもらうヒマもなく、ここまで連れてこられたのです。
他の皆に状況をお聞きしたいところですが、明らかに私語が許されそうな雰囲気ではありません。その一方、起床から時間が経ってきたせいか胃袋の空腹感は次第に強まり、今にもお腹の虫が騒ぎ出しそうでヒヤヒヤします。
ううむ、ここは誰かに何か言われる前に土下座をキメる準備をしておくべきか。
よくよく振り返ってみれば怒られる心当たり自体はそこそこあります。
昨日の悪魔が変態して事態が悪化したのも、元はと言えばわたしが迂闊に絶望したせいですし。その後の作戦に関しても、たまたま成功したから良かったものの無謀極まるものでした。
あんな奇跡の綱渡りは百回に一回通るかどうか。そんな賭けに自分ばかりか友達や王都全員の命まで丸ごと張るなど、とんでもない大博打を我ながらよくやったもの。今更ながらに足が震えてしまいそうです。
「国王陛下のご入室!」
そんな風に土下座る理由をあれこれ考えていたのは僅かの間。
ほんの数分も経たないうちに王様がやって来ました。
ちなみに玉座は修理中なのか見当たりません。
聖剣で悪魔ごと貫かれて結構な大穴が開いていたはずですし、それがなくとも悪魔が我が物顔で座っていたモノをそのまま使い続けるというのは気分がよろしくないでしょうし。
新しいのを買うにしても元々のを修理するにしても、まあ安くはないでしょう。買ったことがないので存じませんが、玉座って幾らくらいするのかな?
「一同、面を上げよ」
おっと、いけない。
玉座のお値段を考えるのは後にしておきましょう。
周りに合わせて目線を上げると、王様は見るからに嬉しそうなニコニコ笑顔。
緊張してあまり見えていませんでしたが、謁見の間の左右を埋めるお偉いさん方や兵隊さん達も、なんだか楽しげというか明るい雰囲気。
どう見ても罪を追求するという感じではないですし、もしかすると怒られるために呼ばれたわけではないのかしら。お得意の土下座を披露するのは、またの機会になりそうです。いえ、別にそんなもん得意技にしたくはないですが。
「さて……皆も様々な形で聞き及んでいると思うが、改めて余の口からも言っておこう。此度の危難を一人の犠牲者もなしに乗り切れたのは、我が息子とその友人達の必死の奮闘あってこそ。まさに救国の英雄と呼ぶに相応しい活躍であったと言えよう」
救国の英雄。
まさか、そんな物語か歴史書の中にしか出てこなさそうな肩書きを、自分が得ることになろうとは。そりゃまあ精いっぱい頑張らせてはもらいましたが、同時に数々のやらかしを自覚する身としては気恥ずかしいやら畏れ多いやら。
「そこで」
おや、まだ何かあるのでしょうか?
王様から呼び出しを受けた理由は、てっきりお褒めの言葉を賜るためだと早合点してしまいましたが、ここまでは単なる話の枕くらいのものだったご様子。
で、その肝心の本題についてですけれど。
「此度の彼らの功績、実に見事なり。故に、褒美として余の力の及ぶ限りにおいて如何なる望みも叶えると約束しよう。ははは、さあ遠慮はいらないよ?」
うおお、マジですか!?
こんなチャンスは人生で二度とないでしょう。
七つのボールを集めた覚えもないというのに、まさか好きな願いを何でも叶えてもらえる機会がやってこようとは。あくまで王様の力で叶えられる範囲という制限はあるので流石に不老不死とかは無理ですが、そんな程度の縛りはあって無きがもの。
はてさて、いったい何をお願いしましょう?
※この作品が面白いと思ったらブックマーク登録やポイント評価をお願いします。




