83.みんなで戦うガール
勝機があるとしたら、速攻での短期決戦のみ。
どうにかこうにか聖剣で斬るか突くかして、刀身に毒手モドキを叩き込むしかありません。で、その肝心の「どうにかこうにか」の部分が問題となるわけですが。
『おや、馬鹿正直に突撃とは捻りのない。ご自慢の聖剣とはいえ、当たらなければどうということはありませんぞ?』
まさに悪魔の言う通り。
そんなことは言われずとも先刻承知です。
単純な剣の技量のみで攻撃を当てられれば良かったのですが、いくら士官学校で日々習っているとはいえマー君の剣術の練度は平均的な騎士を下回る程度でしょう。
今は怪我をして多少動きが鈍っているであろう点を差し引いても、複数人の騎士や兵士を相手に悠々立ち回っていた悪魔を相手に実力勝負に出るのは無謀でしかありません。
実力ではどうあっても敵わない。
ならば、そこは卑怯上等で小細工を弄するしかないでしょう。
「マー君!」
「はい! 二人ともお願いします!」
四人で突撃をしかけていた我々のうち、聖剣を手に先頭を走っていたマー君と二番手のわたしがそれぞれ左右に跳んで後方の二人に道を譲る格好に。シーツと紙の仮面で不格好な仮装をしたレイさんとクーちゃんが、そうして開いたスペースに駆け込んできました。
悪魔としても奇妙な仮装をした彼らが気になるところでしょうが、この格好そのものに大した意味はありません。玉座に座ったままの敵が足を伸ばしてもギリギリ蹴りが届かないくらいの距離でレイさん達も足を止め、そして。
「えいっ」
「マーク、後は頼む!」
両手でシーツと仮面を脱ぎ捨てる二人。
その直後のことでした。
『はて、いったい何……を、おおおおっ!?』
謁見の間が強烈な閃光に包まれました。
今まで何度も見てきましたが、これほどの光りっぷりは間違いなく過去イチ。
不意に弱点の光を喰らった悪魔は堪ったものではないでしょう。
これまでにも何度か触れてきたギャグみたいな珍現象。
未だ原理も何も分かりませんし、我ながら正直どうかと思う奇策でしたが。
この世界の美男美女は光るんですよ。
◆◆◆
もちろん、いくらクーちゃんとレイさんが美形とはいえ普段からここまでの光量を出しているわけではありません。さっきまでは特に怪我をした際の血で汚れていたり、先行きへの不安からか表情が曇りがちだったりで、普段より更に光量控えめ。決戦に臨むに当たっては、頼れる助っ人に力をお借りする必要がありました。
要は昨日のお出かけの際に無用の騒ぎを避けるため、お城の侍女さん達にお願いして顔が良すぎる二人の魅力をわざと低減させた逆をやったようなものです。
お城に逃げてきた避難者の手当てをしたり食事を配ったりしていたのを見ていたので、その時の侍女さん達が我々の近くに倒れているであろう予想も付いていました。
昨日手伝ってもらった全員というわけにはいかなかったものの、どうにか見つけられた三人ほどに動けるようになってもらって、急いで事情を話してからの緊急メイクアップタイム。お城のどこに何があるかを熟知している彼女達でなければ、煙で視界が悪い中での完遂は到底不可能だったことでしょう。
血や泥の汚れを丁寧に拭い、ゲストに貸し出すためのドレスや礼服に着替えてもらい、髪に櫛を通して、どうにか掻き集めてきた化粧品を駆使して仕上がったのが現在の二人の姿。すっぴんでも通行人が涙を流して拝むほどの美貌が更に一段も二段もパワーアップ。それこそが、この凄まじい閃光の正体だったというわけです。
「ぐわああっ、か、顔が良い!?」
「ちょっ、りっちゃんさんまでダメージ受けないで下さいよ!?」
「いや、つい……それよりマー君!」
おっと、ついつい推しに熱狂する強火ファンのような反応をしてしまいました。
それよりも今こそが千載一遇にして最後の好機。
そもそも目のない無貌の異形に対する表現として適切なのかは分かりませんが、悪魔が不意討ちで目を眩ませている今を逃せば勝ち目は完全にありません。
「マー君、足! 避けて!」
「大丈夫、ですっ」
悪魔も見えないなりに接近の気配を察知したのか、座ったまま片足を伸ばしてマー君目がけて前蹴りを。しかしサイズの合わない玉座に無理に座っていた不自然な体勢ゆえ、本来の威力や速さには到底及ばなかったようです。
迎撃の蹴りがくるだろうと予め読んでいたのか、マー君はピンと伸ばされた足の横を悠々と通過。その走り込んだ勢いのまま全体重を乗せた聖剣を……!
「はあああっ!」
座ったままの悪魔の下っ腹あたりに突き込まれた聖剣は、玉座ごと胴体を貫通して縫い留める形で深々と刺さったようです。これなら、もはや立ち上がることもできないでしょう。クーちゃん、レイさん、そしてマー君、わたし以外の三人は見事に任された役目を果たしてくれました。
『ぐ、ぬぬ、お見事!? しかし、劣化した聖剣などで吾輩は……』
やはり経年劣化した聖剣では悪魔を倒し切るのは難しいようです。
しかし、そんなことは元より織り込み済み。
もちろん怖いですけど、ここでやらなきゃ女が廃るってもんでしょう!
「おりゃぁああ!」
わたしは自分自身の拳が潰れんばかりの勢いで、悪魔に刺さった聖剣の横っ腹に渾身のグーを叩き込みました。
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