表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/91

82.作戦開始ガール


 作戦の準備がようやく形になったのは、一時間のタイムリミットのうち四十分近くが経過した頃でした。いくら冷静さを保とうとしても気が急いてしまい、体内時計頼りの時間感覚にも狂いが出そうなものですが、悪魔が残り時間の宣言をした時点からレイさんが頭の中で秒数のカウントを開始していたそうで。

 彼は彼で全く焦りがないわけではないのでしょうが、こんな時でも崩れぬ無表情を見る限りでは他の面々よりは冷静な思考ができているはず。経過時間に関しても、おおよそ正しい前提で全員が動いて……いえ、全員ではなかったですね。



「……エリちゃんは間に合わなかったみたいですね」


「この視界の悪さでは無理もないでしょうね。でも、もしかしたらボク達が戦ってる最中に『本』を持って追いついてきてくれるかもしれませんし。そのために諸々を長引かせるのは厳しそうですけど」



 探し物の正確な位置も不明なまま、ほんの数メートルしか見通しが利かない中での捜索はやはり困難だったのでしょう。残念ですが、これ以上エリーちゃんを待つことはできません。あとはマー君が言うように、わたし達が戦っている最中にでも駆けつけてくれるのを期待するしかありません。



「りっちゃんさん、ローブはなかったので寝室のシーツをお借りしてきましたわ。はい、こちらはレイさんの分ですので」


「ああ、ありがとう。俺も適当な紙とヒモで即席の仮面を作っておいた」



 作戦の都合上、クーちゃんとレイさんに関しては姿を変えてもらっています。

 適当な紙に穴を開けて固定用のヒモを通しただけの仮面に、ベッドのシーツを頭から被った格好は、まるで昨日の日中に初めて会った時のエリーちゃん&お友達の皆さんにそっくりです。色合いこそ黒ではなくシーツの白ですが、まあカラーリングに関しては重要なポイントというわけでもありません。この出来なら上々でしょう。



「聖剣を刺す瞬間まで悪魔が寝ててくれたらベスト。最初から起きてたり接近の気配に気付いて目覚めた時は、さっき言った通りにね」



 発案しておいてなんですが、わたしも自分の作戦に自信などありません。

 他の案が出なかったので皆も消極的に賛成してくれましたが、今更ながらに本当にあんなアイデアで良いのか迷いが増していくばかり。ですが貴重な時間を準備に費やしてしまった後ですし、もう自信があろうがなかろうが運命を委ねるしかないのです。



「勝ちましょう。勝って、そして皆で生き延びましょう!」



 マー君の号令と共に皆で駆け出すと、目的地の謁見の間までは一分足らず。大きな扉の向こうには、常人の倍以上の背丈で窮屈そうに玉座に腰かける悪魔の姿がありました。




 ◆◆◆




『はて、どうして動ける人間が?』


 最初から最後まで熟睡していてくれたら最良だったのですが、残念ながら悪魔は目覚めていたようです。ベストではありませんが、まあここまでは想定内。


 ちなみに最悪のパターンは、先程あれだけ挑発的に言っておきながら玉座のある謁見の間にいなかったケース。その場合は残り少ない時間の中で手がかりもなく悪魔を探すのは不可能。それに比べたら現状は遥かにマシです。



『なるほど、聖剣の力で命拾いしたといったところですか。呪毒が回ってきた時にたまたま剣の近くにいたか、あるいは咄嗟の判断で飛びついたか。ははは、運か知力のどちらが優れていたのかは分かりませぬが、こんな若者がいればこの国の未来は安泰ですな』



 悪魔に対する数少ないアドバンテージが、この情報格差。

 院長先生と戦っていた時の会話から判明していたことですが、悪魔は毒手モドキの存在やうちの修道院の裏手に生えている世界樹の若木のことなど全く知らないのです。


 それでもどうにか不可解な状況に説明を付けようとして、我々が毒の影響から逃れられた理由を経年劣化した聖剣に求めたようです。切り札はギリギリまで隠しておきたいですし、せっかくの誤解を利用させてもらうとしましょう。



『おやおや、少年。一人だけ突出するのは感心しませんぞ? 聖剣の近くにいないと、お友達が毒にやられてしまうやも?』



 聖剣を構えたマー君が悪魔の正面に進み出ます。

 ここまでは予定通り。とても強そうには見えない外見に油断してくれているのか、玉座から立ち上がる気もないようです。折れていた手足も回復しつつあるようですし、それを抜きにしても元より無傷の片足だけで軽く相手できる自信があるのでしょう。


 ですが、マー君はそれを承知で告げました。



「悪魔よ。その玉座に腰を下ろす資格があるのは、この国において我が父上ただ一人のみ! 無理矢理にでもどかせてくれよう!」


『……父上? ああ、もしや王子殿下であらせられましたか! これはこれは、ご機嫌麗しゅう。お目にかかれて光栄の至りにございます』



 口調こそ不気味なほどに丁寧ですが、その内容はこれ以上ないほどに挑発的。

 想定外のダメージを回復させるために王都全域を毒に沈めたとはいえ、多少の余裕が出てきた状況で王子様なんてレアな獲物が出てきたら、どんな風に嬲って絶望させるか興味を引かれずにはいられない。美食家を自認する悪魔なら間違いなく食いつくと思いました。



『ほほう、その聖剣で吾輩を討とうと? おお、なんと勇敢な! そうだ、せっかくですから王都の皆様が希望を持てるよう、再び声を繋いで差し上げましょうか』



 実際にはマー君があっさり負けたり、(彼ならば絶対にしないでしょうが)無様に命乞いをするところを王都の人達に聞かせて、更なる絶望を集める材料として利用するつもりと思われます。


 音声を繋げたのに関してはこちらの想定外でしたが、しかし作戦の障害になるようなものでもありません。このまま続行と参りましょう。



「我が名はマクスウェル。偉大なる父王が一子、マクスウェルである! 王都の民よ、皆のことは我が命に代えても必ず助け出してみせる。だから、どうかもう少しだけ持ちこたえてくれ!」



 このあたりはマー君のアドリブです。

 ですが、これでほんの僅かにでも人々の生きる希望になるのなら、毒の苦しみに耐える気力を湧かせるならば、決して無駄であろうはずがありません。



「では……行くぞ!」



 マー君を先頭にして、わたしとレイさんとクーちゃんも一斉に前方へと走り出しました。もし初手で一気に押し切れなければ我々に勝機はありません。勝負を決するまでに要する時間は、どんなに長くとも一分はかからないでしょう。


 間違いなく人生で一番長く感じる一分間が始まりました。



※この作品が面白いと思ったらブックマーク登録やポイント評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一分!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ