81.作戦立案ガール
「絶対間に合わせるから。そっちは頼んだわよ?」
「うん、エリちゃんもお気を付けて」
『本』の回収に誰が出向くかですが、これは王都の土地勘があって道に詳しいエリーちゃんにお任せするしかないでしょう。単に地元民というだけならわたし以外は皆そうなのですが、土地勘の有無を問われると適性が厳しく限られてしまいます。
まず病弱だったり深窓の令嬢だったりで地元の道路事情に自信がないマー君とクーちゃんは候補から外れますし、そもそもマー君には聖剣で悪魔に立ち向かう大役をやってもらう必要が。レイさんならば土地勘は問題ありませんが、『本』の回収のため走り回る体力が残っていません。エリーちゃんには消去法で重責を背負わせることになってしまいました。
「エリちゃん、間に合いますかね?」
「そこは彼女を信じるしかないですね。ギリギリまで待つつもりですけど、使える時間は往復で三十分あるかどうか……」
マー君も安易に大丈夫とは言いにくいようです。
平時なら余裕のある時間ですが、現在は呪毒の煙によって視界が著しく制限されてしまっています。それ以前に『本』を持っているであろう兵隊さんが街のどのあたりに倒れているのかも不明。それどころか探す相手の顔すらも分かりません。
毒の効果で麻痺しているなら問いかけて答えを聞くことも難しい。
それらしき兵隊さんが倒れているのをロクに見通しが利かない中で探し出し、荷物なり服の下なりに手を突っ込んで探すしかありません。もしエリーちゃんが間に合わなかったら、心を鬼にして悪魔の依代になっているお友達は諦めるしかないでしょう。
「それよりも今は確実に悪魔に隙を作る方法を考えねばな。もし彼女が間に合っても、俺達がしくじったら全てが水の泡だ」
「そうなんですよねぇ……」
レイさんの言う通り、もしエリーちゃんが『本』を探して戻ってきても、その時に悪魔が健在のままでは無用の長物。毒手モドキで聖剣をパワーアップさせて充分な威力を引き出せたとしても、どうすれば剣を悪魔に当てられるかというと剣術に関して見識のないわたしには見当も付きません。
「マー君さま以外の全員で組み付いて、強引に抑え込むというのはどうでしょう?」
「うーん、普通の人間が相手ならそれでイケると思うけど……」
クーちゃんが提案したのは、シンプルな人数の有利を活かした作戦。ですが悪魔がそれで素直に抑え込まれてくれるかというと、正直なところ難しいと言わざるを得ないでしょう。
先程一階から見上げていた戦いを見た限りですが、悪魔のパワーやスピードは鍛えられた騎士以上。剣を振るうのがマー君なら、これまた消去法で組み付く役目は体力を消耗したレイさんと我々女子二名ということに。わたし達には院長先生のような腕力など望むべくもありませんし、単純な力勝負に持ち込んだら折れた手足が相手だろうと簡単に振り解かれてしまいそうな気がします。
「二階のバルコニーに落ちているはずの聖槍や聖盾は使えないでしょうか?」
「作戦のことを考えたら、そっちも事前に本領を引き出すわけにはいかないからねぇ。でも実際に使わなくても、持っているのを見せたら陽動だけなら使えなくもない……かな?」
マー君が案を出してきましたが、聖槍や聖盾を回収して有効利用できるかは微妙なところ。そもそも破損した聖槍に関しては、毒手モドキを叩き込んだところで使い物になるかも分かりません。だからといって、大して検討もせずに却下すべきかは迷うところですけれど。
「もう一度、分かってる情報をまとめてみようか?」
悪魔の弱点となる要素はなんだったでしょうか。
まずは聖剣や聖槍といった聖なる武器。
ただし、そのままでは経年劣化のため威力不足。
これらで倒そうと思ったら、わたしかクーちゃんの毒手モドキを叩き込まねばなりません。また、そういう手札があること自体をギリギリまで伏せておく必要があるでしょう。
弱点といえば、その毒手モドキも実質的に聖なる武器に近い効力があるのかも。
もしかすると直接殴っても、ある程度のダメージを与えられるのかもしれません。
ですが依代ごと殺さぬよう手加減はしていた事情は差し引くにせよ、あの院長先生がボコボコにしても倒し切れなかった点からして、殺傷力という点では聖なる武器に一歩劣るでしょうか。
わたしかクーちゃんのどちらかが全力で殴りつけたとしても、院長先生が手加減した一撃より遥かに弱い打撃にしかなりません。毒手モドキを決定打とするには、何らかの工夫が必要と思われます。
それ以外の弱点というと、光。
それも太陽由来の自然光が特に効くということでした。
ほんの数秒浴びただけで大きなダメージを負っていた様子でしたし、もし浴びせることができれば本命の聖剣を当てる隙を作ることも可能でしょう。とはいえ、肝心の太陽が現在の闇に包まれた謎空間の王都からは全く見えないのですが。
陽光以外の光というと、素直に考えるなら炎由来のものとなるでしょうか。
懐中電灯でもあれば手っ取り早かったのですが、ありったけのランプや松明に火をともして、両手で抱えられるだけ抱えて行く……いや、流石に無理があるか。
「そういえば、レイさん。魔法も一発くらいなら撃てそうだって、さっき言ってませんでした?」
「ああ、残る力を振り絞ってもギリギリだがな。我ながら情けない限りだが、恐らくそれをやると撃った直後に俺は失神して何もできなくなるはずだ」
これも手札として使えるかは微妙な線です。
レイさんのビーム魔法は強力ですが、変態前の悪魔が相手でも一発で倒せるほどの威力はありませんでした。怪我をしているとはいえ、今の悪魔に対する決定打とはならないでしょう。単に隙を作るだけなら辛うじていけなくはないかも、くらいで。
「……ん、んん?」
「どうしました、りっちゃんさん?」
「あ、うん。何か思いつきかけたような気がして……」
わたしの脳ミソは何に対して引っ掛かりを覚えたのでしょうか。
直前まで思い浮かべていた思考を再び洗い直し、更には王都に着いて以降の記憶、そこまでの道中や修道院での生活、地元での家族との暮らし、更には昔懐かしい前世の思い出まで。これまで魂が経験してきた全部を片っ端から総ざらいして、とにかく考えて考えて、考えすぎて頭がパンクするのではないかと本気で心配になるほどに必死に考えて……、
「あ……これなら、イケるかも?」
そして、とうとう思考の道筋が繋がりました。
とはいえ、この作戦を実行するには下準備が必要です。
今からの準備時間を考えると迷っているヒマはありません。
「あと、少しでも成功率を上げるために助っ人の手をお借りしたいところですね。すぐに探し出して毒から回復させないと。さっき顔を見かけたし、たぶん近くに倒れてると思うんだけど」
「助っ人というと、やはり騎士の誰かですか? あるいは父上に動けるようになってもらって、知恵をお借りするとか?」
「ううん、実はね――――」
わたしは、ここで初めてマー君達に自分の考えを伝えました。
そうしたら、聞いていた皆の顔が次第に困惑に染まっていきました。
「ほ、本気ですか?」
「うん、本気も本気。もちろんマー君や皆が他にマトモな案を出してくれたなら、わたし的にもそっちを採用したほうが絶対良いとは思うんだけど」
「それを言われると弱いですね。それに残り時間も少ないですし……」
うん、まあ言いたいことは分かりますよ。
わたしとしても正直ちょっとどうかと思わなくもないですし。
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