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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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77.ゴリラを応援するガール


 分厚い石壁を障子紙のようにブチ抜いて殴りかかる院長先生。

 わたしも慣れて何も違和感を覚えなくなりつつありましたが、あのマッチョな老婆は本当に人間なんでしょうかね。実は人語を操れるよう進化した突然変異のゴリラなのではないでしょうか。



「フンッッッヌ!」


『お……うおぉぉあ!?』



 これで頼みの綱の院長先生までもが軽々とあしらわれたら、いよいよ白旗を上げるための布を探しに行かねばならないところでしたが、悪魔の反応を見る限りではその必要はなさそうです。


 壁を破った勢いそのままの疾走、からの大ジャンプ、からの顔面狙いのストレートパンチ。辛うじて反応が間に合った悪魔は咄嗟にステッキを両手で掲げて拳の直撃を防いだものの、一瞬の膠着の後に自慢のステッキは真っ二つ。

 さっきは力任せの殴打で聖槍を真ん中から折り曲げたくらいですし、相当に頑丈な造りになっているはずですが、院長先生の拳の硬さはそれ以上だったということでしょう。



「ちっ、避けられたか。一発で肩から上をすっ飛ばしてやるつもりだったんだけどね」


『は、ははは……これはこれは、お元気なご老体がおられたもので。吾輩が言うのもなんですが、依代にしている人間が死んでしまわないよう気を付けましょうと、先程そちらの国王陛下が仰っていたと記憶しているのですが……?』


「おや、そうだったかい? いやだねぇ、年を取ると物覚えが悪くなっていけないよ」



 悪魔が本気でビビっている風なのは良いとして、院長先生がそういうこと言うと本気なのか冗談なのかが分かりにくくて怖いんですよ。お隣で観戦しているエリーちゃんなんて、もう見るからに不安そうにしていますし。お友達の命があの女傑の気分ひとつで左右されかねない状況は、そりゃまあ生きた心地がしないでしょう。



「ま、とりあえず足腰立たなくなるまでブチのめして、それでまだ息があればトドメは刺さないでおいてやる、よっ」


『ひ、人の命をなんだと思っているのですか!? ちなみに吾輩的には楽しいオモチャ兼美味しいご飯といったところで……っとぉああ!?』



 異常なフィジカルの強さを誇る院長先生ですが、あれでパワー一辺倒の力馬鹿というわけでもありません。まるでボクサーのように軽快なステップを踏み始めたと思ったら、鋭い左ジャブからの首ごと引っこ抜くようなアッパーカット、からの胴体を貫通しかねない威力の右ストレート。


 先程までの余裕はどこへやら。

 悪魔は必死に拳の連打を避けようとはしているみたいですが、根本的なパワーとスピードに一回り以上も差がある様子。拳が掠めた衝撃で脇腹のお肉がごっそり抉れ、ガードを試みた腕は一発で肘やら肩やらの関節がおかしな方向を向いています。傷口が焦げたように白煙が出ているのは毒手モドキの効果でしょうか。


 勢い余ってエリーちゃんの友人ごと殺してしまわないかだけは心配ですが、この調子なら少なくとも負けを考える必要はないでしょう。



『ま、まったく、これだから聖人などという連中は厄介極まる! 世界樹が焼失して神が去って久しい時代に、こんなデタラメな人間がまだいるとは思っておりませんでしたが。もしや適当な聖遺物でもバリバリ噛み砕いて飲み込んだりされましたかねぇ? 吾輩、そういうゲテモノ喰いは正直どうかと思いますよ』



 悪魔の口ぶりからするに、古の時代には院長先生みたいなフィジカルお化けが他にも複数存在したのでしょうか。なにしろ悪魔の発言しか推測する材料がないので間違っている部分もあるかもですが、本来の聖人(ゴリラ)というのは神様からダイレクトに力を貰って成るものだったのかもしれませんね。


 うちの院長先生(ゴリラ)の場合は、初代院長さんが編み出した怪しげな毒手拳法を少なくとも半世紀以上は磨き続けた結果、神様の助力なしでオリジナルの聖人と同じ境地に至った的な?


 というか、普段やってる修行を何十年単位で続けたら、わたしやクーちゃんも院長同様のマッチョ体型になっちゃったりするんでしょうか。あの御年になっても病気知らずの健康体でいられるのは羨ましいですけど、流石にそれは抵抗感が勝るような。

 さっさと還俗して修道院からオサラバするつもりのわたしはともかく、真面目に信仰の道を極めるつもりで修道院に入ったクーちゃんは、本当にそのルートがあり得そうで恐ろしい。友人として、それとなく修行を加減するよう忠告しておくべきでしょうか。



「おら、これ以上痛い目を見たくはないだろう? 観念して地獄に帰りな」


『ぐ、うぅ……』



 おっと、いけない。

 余計な考え事をしている間に、いつの間にやら上階の戦闘は決着間近。

 わたしがよそ見をしている間にも悪魔の逆転はなかったらしく、今や両腕と片足が滅茶苦茶に折れ曲がり、院長先生に胸倉を掴まれているという悲惨な有り様となっていました。


 もはや誰がどう見ても力の差は明らか。

 悪魔自身、ここから院長先生を倒せるとは思っていなかったことでしょう。



『こ、こうなってはやむを得ませんな。とても痛いので極力やりたくはありませんでしたが……』


「あぁん?」



 なので、悪魔は院長先生との正面対決を徹底して避けることにしたようです。



「あれ?」



 瞬間、悪魔と院長先生の姿がその場からフッと消えました。


 かと思ったら、数秒ほど経ってから悪魔だけがその場に戻ってきました。

 いったい今の数秒間で何があったのか、ただでさえ全身ズタボロだったというのに、更に全身どこもかしこも焼け焦げているではありませんか。



『ああ、痛い。まさか自分から陽光を浴びに行く羽目になろうとは……』



 その焼け焦げに関しては、太陽の光によるダメージだそうで。

 今現在、我々がいる王都はどこもかしこも闇に覆われて、お日様などまるで見当たりません。ということは、わざわざ苦手な太陽がある場所まで足を運んできたということでしょうか。



『ええ、先程の御婦人には一足先に通常の空間にお帰り願いました。あちらも陽光に目が眩んで拘束が一瞬緩んだのは望外の幸運でしたな。今頃は吾輩に出し抜かれたことを悟って、無人の王都でカンカンに怒っておられるでしょうが』



 いくら怒ったところで、院長先生に異空間に出入りする能力などありません。

 勝つことはできずとも、勝負から逃げることだけはいつでもできる。最初から自分のフィールドに王都の全員を引きずり込んでいた時点で、地の利は悪魔の側にあったのです。


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