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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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74.無貌の悪魔を見上げるガール


 とうとう変態を果たした無貌の悪魔。

 その態度は意外にも紳士的なものでしたが、まさか表面上の振る舞い一つでこれだけ怪しい存在に気を許せるはずもありません。それが、わたしのみならず王都中の人間の総意でしょう。



『おやおや、しばらく来ない間に地上の風習が変化したのですかね? 挨拶に対して敵意と疑心を返されるとは……ええ、これはこれで大変よろしい。やはり新鮮な感情は実に美味ですな』



 変態前は絶望を食べるために対象となる人間のすぐ近くにいる必要があったはずですが、成長を果たしたことで捕食可能な範囲も大幅に広がっているのでしょう。まだ誰も絶望こそしていませんが、それでも敵意や猜疑といった負の感情も好ましく感じるらしいのは、まさに人を食い物にする悪魔らしい食性ではありますが。



『ふふふ、このまま吾輩に向けられる悪感情をチビチビ味わうのも趣があって良いものですが、美食に興じる前にやるべきことを先に済ませてしまいましょうか。皆様の代表者の方は……ああ、そこの城におられますかな?』



 そう言うと、タキシード姿の悪魔はわたし達がいる王城目がけて上空から降りてきたではありませんか。翼もないのに空中に浮かんでいるのはタマゴの時と同じですし理屈を考えるだけ無駄として、まるで空中に見えない階段があるかのように悠々と歩いてきます。


 正直、少しでも悪魔から距離を取るべく一目散に王城から逃げ出したいところ。そう考えた避難者は決して少なくないようですが、下手に目立つ動きを見せて逆に悪魔の興味を引いたり機嫌を損ねたりするのも恐ろしい。今のところは相手が紳士然として振る舞っているのも、なりふり構わず逃げの一手を打とうという気を削ぐ一因になっていたかもしれません。



「思ったよりは小さい……?」



 向こうが空中にいる間は周囲に比較対象となるモノが一切なかったのでサイズ感がイマイチ分かりませんでしたが、お城の屋根近くまで降りてきたのを見て、ようやく大雑把な見当を付けられました。

 無貌の悪魔の背丈はおよそ四メートル前後。もちろん普通の人間と比べたら二倍以上の巨体ですし、今の形態に変化する前の多腕型よりも大きいですが、さっきまで暴れていた黒龍をはじめ他の悪魔達に比べたら意外なほどのミニサイズ。戦いの素人としては、これなら王都中のツワモノによる集団リンチ戦法で簡単に勝てるのではないかとも思うのですが。



「そういえば、さっきから攻撃が止まってますね? タマゴの時は、皆さんあれだけ撃ちまくってたのに。一旦、様子見に徹する方針に切り替えたとか?」


「それもなくはないだろうが……迂闊な手出しは命取りになると予感しているのだろう。俺も光刃の一撃くらいならどうにか撃てそうではあるが、たとえ直撃したところでまるで倒せる気がしない」


「レイさん……そ、そんなにですか?」


「ああ、そんなにだ」



 わたしには分からずとも、戦闘の勘を備えた人にとっては脅威の度合いが自然と伝わってしまうものなのでしょう。今どこにいるかは分かりませんが、あの院長先生ですら攻撃を控えて様子見を選んでいるくらいです。


 これから戦闘に発展するにしても、まず易々とは勝てない強敵。

 更に言うなら、このままお城付近で戦いが始まると巻き添えを喰らって死にそうなので、もし荒事になるにしてもなるべく場所を変えてやって欲しいものですね。



「あ、見えなくなった。二階のバルコニーのあたりに降りたっぽい?」


「そのようですね。先程の口ぶりだと王都の代表、つまりは父上と話し合いを持ちたいという風に言っていましたが……」



 ここで一旦、悪魔は我々の視界の外に。

 マー君も言うように、わざわざお城に降りてきたのは王様に対して何らかの用事があったからでしょう。今のところは暴力的な振る舞いを見せてこそいませんが、この国の最高権力者をそんな危険の最前線に立たせて良いものか。当然よろしいワケがないですけれど、だからといって問答無用で攻撃を仕掛けるのが正解かというと、それも悩ましいところです。



「ど、どうします?」



 今はレイさんも満足に戦えませんし、元から戦う力のない他の面々が上階に向かったところで何かの役に立てるとも思えません。王様の近くには今も警護隊長さんが控えているはずですし、他の兵士の皆さんもいるでしょう。

 なんなら悪魔が視界外に移動した今のうちに、お城から逃げ出して極力距離を取るべきか。王都そのものからの脱出が難しそうな現状では、それで生き延びられる可能性が上がるかどうかも分かりませんが。


 そんな具合に我々が行動の指針を決めかねておりますと、



『これはこれは、国王陛下とお見受けします。拝謁の栄誉に与りまして恐悦至極』



 先程の独り言の時からもそうでしたが、悪魔の声は王都内のどこにいても届くのでしょう。どうやら二階にいたらしい王様と、すでに遭遇してしまったようです。



「……如何にも、余がこの国の王である」



 そして不思議なことに、会話をしている王様の声までもが耳に届いてきました。普通なら大声を張り上げても聞こえないほどの距離があるはずですが、闇に閉ざされた今の王都内には尋常の物理法則とは異なる原理が働いているのでしょうか。


 その仕組みも気になるところではありますが、現在興味を向けるべきは王様と悪魔の会話。今のところは慇懃な態度で礼儀正しく振る舞っている悪魔ですが、いつ豹変して危害を加えようとするかも分かりません。


 王様としても話題選びに迷うところでしょうけれど、



「悪魔よ、何が狙いだ?」



 交渉にせよ敵対にせよ、まずそこが分からないことには対応を決めようにも決められません。単刀直入に狙いを問い質す王様の判断は、決して間違ったものではなかったはずです。


 その問いに対する返答が如何なるものか。

 わたしを含め、王都中の人間の注目が悪魔の次の言葉へ集まりました。


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