69.なんか無事だったガール
「……あれ、生きてる?」
ええと、何がどうなったんでしたっけ?
大怪我してドバドバ血が出たのは何となく覚えてますが、そのせいで貧血気味なのか頭が上手く回ってくれません。お腹のあたりをさすってみると、修道服はパックリ切り裂かれているものの、その下の肉体に傷が残っているわけでもなさそうです。触ると皮膚が引き攣る感じと同時にごく軽い痛みがあったのですが、この程度なら大したことはないでしょう。
とりあえず、あのまま死んで生まれ変わって、見知らぬ世界でまたもや赤ん坊から人生リスタートという風ではありません。今回の人生には愛着や未練が多々ありますし、それについては大変結構なのですけれど。
「というか、ここは……?」
「りっちゃんさん! 良かった、意識が戻りましたか!」
「あ、マー君おはようございます。やっぱり、お城でしたか」
ぼんやりした頭で考えても大して分かったことはありませんでしたが、わたしが目を覚ましたのに気付いたマー君が駆け寄ってくると、それが刺激になったのか少しだけ思考と視界が鮮明になってきたようです。
わたしが現在いるのは王城の、たぶん正門を入って真っすぐ進んだ廊下のあたり。
今更ながらに周囲を見回してみれば、同じく怪我をした風の兵士や民間人の方々がそこかしこに寝かせられているではないですか。前世でも本や画面越しに見たことしかありませんが、戦地の野戦病院というのはきっとこんな雰囲気なのでしょう。
「すみません。泊まっていただいている客室にお連れできれば良かったんですけど、今は城の者も救護や避難者の対応で手いっぱいで」
「いえいえ、それはお気になさらず」
怪我人の世話をするには一箇所にまとまっていたほうが都合が良かったのでしょう。わたしとしても、この非常時にVIP待遇を望むほど厚かましくはないつもりです。怪我も大したことないようですし、なんなら他の患者さんのために早く場所を空けたほうが良いでしょうか?
「あれ? 何か……」
いえ、違う。
そうではありません。
考えるべき問題は他にある。
真っ先に考えるべきことが他にあるのに、そこから無意識に目を逸らしているかのような。そんな落ち着かない感覚が心をざわつかせています。
そもそも自分がどうしてこの場所にいるのか?
お腹を怪我することになった原因はなんだったか?
そして……そうだ、なんで忘れていたんでしょう。
それより何より、あの場で一緒にいた皆はどうなったのか?
「あ、あの、マー君。わたし……」
服に染み込んだ血液はまだ完全に固まり切っていないようです。
怪我をしてから今までの経過時間は、長くても一時間そこそこでしょうか。
何もかもとはいかずとも、目の前の王子様に一言尋ねれば多くの疑問の答えは即座に判明することでしょう。少なくとも、わたしと一緒にいた皆がどうなったのかは簡単に分かるはず。
でも、怖い。
聞くのが、知るのが怖い。
もしクーちゃんやエリーちゃんやレイさんの身に万が一のことが起きていたら、助かったのがわたし一人だけだったりしたら、そんな現実とどう向き合えばいいのか分からない。
ここでマー君に答えを聞くことで、曖昧に揺らいでいる現実が悪い方向に確定してしまうのでは……なんて、そんな風に思えてしまってならないのです。箱の中の猫ではあるまいし、聞こうが聞くまいが答えは一つに決まっているのでしょうけれど。
「う、うぅ……っ」
「りっちゃんさん? どこか痛むのですか?」
「違うの……ごめん、ごめんねっ」
わたしって、こんなに弱かったんですね。
自分の情けなさへの失望と嫌悪と怒りと、それ以外の色々で心の中がグチャグチャになって、自然と涙が溢れてきました。皆を守るために戦うこともできず、聞くべきことを聞く勇気すら出せず、困惑するマー君の胸に顔をうずめるようにして泣くことしかできません。
周囲には今も大勢の人々が行き交っていますし、王子様の立場としては対応に困るところでしょうが、優しい彼はわたしを無理に泣き止ませようとはしませんでした。そっと触れる程度の力でわたしを抱きしめ、そしてこちらもその優しさに甘えるように抱きしめ返し、そして……。
「わ、わわっ、なんか盛り上がってるけど止めなくていいのコレ!?」
「うふふ、いいのですよエリーさん。このままお二人の邪魔にならないよう、そっと見学をさせていただきましょうね」
「マーク、人前でそういう行為に及ぶのは正直どうかと思うぞ。どうしてもと言うなら続きは寝室に移ってからやってくれ」
なんか普通に元気そうな友人達が、めっちゃ見てくるのに気が付きました。
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